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明日世界が終わります。  作者: 成浅 シナ
24/30

24暖房

買い出しに行って玄関を開けると外よりも寒いんじゃないかというくらいの冷たい冷気が肌を撫でる。


「寒っ...」



銀杏(いちょう)もすっかり落ちてしまい街から色がその分減ってしまった時期。

景色と同じようにどこかしょんぼりした気分で街を歩いた。


季節はすっかり冬。

同居を初めて一月経ちすっかり嘉新のいる日常に慣れてしまった。


一人『行ってきます』を言い、帰ってきたら暗い部屋に『ただいま』を言う。それが当たり前だったのに今はそれを『誰か』に言っている。


そのことをむず痒く思いつつもいつしかそれがなくなるという可能性を考えられないくらい当たり前のことになっていた。



しかし、そんな当たり前の中に時にイレギュラーが迷い込むこともある。


そのことを今回、俺は失念していた。



「寒っ...!」


「へくちっ」とくしゃみをして腕を服の上から擦る。


とりあえず靴を脱いで部屋の中へと入った。



「あ、おかえりー」


寝室にある布団を体に巻き付けだらしなくクッションにうつ伏せになった嘉新が本から顔を上げてそう言った。


布団の存在以外いつも通りの光景だ。



「ただいま。寒くない?暖房つければいいのに」


そう言いながら『リモコンどこやったっけ』とキョロキョロしていると「あー」と嘉新が声を上げた。


「電気も無限じゃないからね。緊急用の蓄電分と太陽光発電もあるけど万が一切れたらそれこそ不便だし節約出来るところはしとこうと思って。あと帰ってきたら?」


じとーっと見てくる嘉新の真意を察して


「...手洗いうがいです。行ってきます...」


「よろしい」と嘉新は満足気に頷いた。





手早く済ませて再度部屋に戻る。嘉新は全く同じ体制で本に視線を落としていた。


「なに読んでんだ?」


気になってそう尋ねると嘉新は視線は本に落としたまま


「『キミの世界が終わる日に』」


「ああ...そんなのあったっけ?」


パッと思い出せない。


ちらりと壁側の本棚に視線を遣る。

ジャンルも作者もバラバラで無造作に突っ込まれた大量の本たちが乱雑に並んでいた。



「才原くんの蔵書は純愛系が多いんだね」


そう言われるとそうかもしれないが指摘されるのは恥ずかしい。


まるで頭の中を覗き込まれて先回りされているような気分になる。


「そんなこと、ないと思うけど...」


つい否定すると嘉新は何がおかしいのかくすくす笑って


「私も好きだよ。本ってどのジャンルも人の理想が詰まってるよね。特に恋愛系のジャンルは心に刺さる」


嘉新は視線を下げたまま「ときどき、羨ましくなるよ」と呟いた。


そのどこかくらい表情に俺は『何か』を言いかけ、口を噤んだ。



好きなやつがいるのか?


今までの恋愛は?


ちなみに俺のことは...



なんて、聞いたところで何になる?


良い返事が聞けたら告白でもすんのか、俺は。


ギュッと唇を噛みしめる。



俺は居心地の悪さから逃れるように本棚の前にしゃがみこみ背表紙を眺める。



しばらく無言の時間が流れた。


「ねぇ」


ピンと張った空気を破るように嘉新が口を開く。


「寒くない?」


「それ最初に言った...寒いならやっぱ暖房付ける?」


そう提案すると嘉新は起き上がり手を俺の前に突き出し『待った』とポーズを取る。


「私の話じゃないよ」


「ん?」


言葉の意を汲み取れず首を傾げると


「ほら、私は布団被ってるし。才原くんそんな薄着じゃ寒くない?」


俺は無意識に自身の格好を見遣る。

ジーパンにパーカーという簡単装備。

外ではこれでギリ行けたのだが上着を羽織った方がいいのかもしれない。

会社勤めをしていた時はキッチリしたスーツだったからその反動か家ではとにかくゆったりした服装を好む。

だからかさらに堅苦しいものを着込むという発想がなかった。


「そうだな...着るかぁ...」


渋々立ち上がりクローゼットに足を向けると


「あ、ちょっと」


「なに?」


振り向くと嘉新はちょいちょいと手で俺を呼ぶ。



指示されるまま嘉新の目の前に座り込むと


「んえっ!?」


急に予備動作もなく腕を引かれ嘉新の(くる)まる布団の中に引きずりこまれた。


思わず変なことを上げてしまったことと嘉新が密着してくるこの状況に脳みそが沸騰する。


「な、なにしてんだよっ」


肩に布団を掛けられ肩と肩が触れ合う。


嘉新は顔を上げいつも以上に至近距離で目が合う。



「暖を取ってるん...だよ。効率的...だし」


「いや...そんな。動物じゃないんだから...」


モゾっと嘉新が動き毛布に顔を埋める。

耳まで真っ赤に染め上げられていた。



恥ずかしいなら、無理しなくていいのに。


なるべく触れないようにそっと毛布の中から出ようとするとフッと弱々しいながらも抵抗を感じた。


服を掴む手を無理やり剥がすのも躊躇われて俺は起こしかけた体を元に戻す。


相変わらず心臓はバクバクだしきっと、顔はみっともない。


結局手を剥がすことも出来ないまま顔を見られないように背けることしか出来ない。


「...こんなことされて勘違いでもしたらどうすんだよ」


状況に頭が浮かされていたからか本音が頭で考えるより先に口から出る。


『ごめんここまで考えてなかった』、『離れるね』っててっきりそう言われるもんだと思ってた。


だから



「ばか...」


ピトッと嘉新は離れるどころかさらにくっついてくる。


んぐっ...!?


また変な声が漏れそうになるのを堪える。


「...なんで今俺罵倒された?」


そっぽを向きつつその真意を尋ねる。



「そりゃぁ...まぁ......」


口元を毛布に隠したままで嘉新は顔を伏せた。



「分からない?」


視線を恐る恐るといった様子でこちらに視線を投げる。


『分からない』って、そう聞かれてなんて返すのが正解なのか俺には検討つかなかった。


もしも。


もしも、嘉新が俺と同じ想いを抱いてくれていたのなら。


それを伝えようとしているのだとしたら。



そんなこと、あるわけが無いと切り捨てた想いがフツフツと湧き上がって来るのを感じながら


「どういう...意味だ?」


疑問を疑問で返すと嘉新はどこか悲しげに眉を寄せた。


「...ううん。分からないなら、いいの...」


嘉新はそう言って毛布を頭から被った。


俺の服を掴んでいた手もいつの間にか解かれている。


それを見ているとどうしようもなく、胸がギュッと掴まれるような感覚が押し寄せて


「...っ才原くん!?」


湧き上がる衝動に任せて毛布越しに嘉新の肩を掴んでいた。



「か...っ!」


そのまま衝動的に出かけた言葉をすんでのところで飲み込む。


唇を噛み締めて荒くなる呼吸を整えて


「...勘違いとかだったらと思うと、怖いんだよ。思い上がって変なこと口走って、手放さないといけないことになったら...」


俺はこのまま抱きしめたい衝動を必死で留める。


冷静な頭ならここまで言えばもうほとんど俺の本音なんてバレているのかもしれないということに気づくんだろうけどそんな冷静さなんてない。


「だから」


『ちゃんと教えてくれ』。


そう言いかけて咄嗟に口を噤んだ。


そんなのは俺の都合だ。


「悪い...ちょっと出る」


これ以上ここにいるのはだめだ。


余計なことを言う前にこの場から逃げなければと立ち上がる。


ダメだ。


決めただろ。気持ちを押し殺すって。



だから


「待って...!」


だから、その手を話してくれよ...


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