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明日世界が終わります。  作者: 成浅 シナ
23/30

23大丈夫

「どうしたの?」


「え...」


ふと気がつくと俺は自転車を押し、嘉新と並んで歩いていた。


辺りを見渡すといつの間にか見慣れた高い建物が目に入る。


余程ボーッとしていたのかひなた園を出てからここまでの記憶がなかった。


「ひなた園出てからなんか変」


「...なんでもないよ」


咄嗟にそう言った。



「うそ。目ぇ逸らしてんじゃん」


ムッとした表情で嘉新は俺の服の裾を掴む。


グイッと首元が締まる感覚がして立ち止まった。



「嘘ついてなくても目逸らすことくらいあるだろ。俺人と目合わすのとか苦手だし」


そうはぐらかし歩くことを再開しようとした。



しかし


「...っ!?」


突然前に回った嘉新が背を伸ばし俺の頬を手で挟んだ。


突然のことにビクリと硬直する。


ついさっきまで他に向いていた意識まで、グイッと嘉新に引っ張られる。



「そんなになるまで抱えこまないでよ」


嘉新は手の力を緩め今にも泣き出しそうに顔を歪めた。


「才原くんがなんでも自分で解決しようとすることなんて知ってる。信用出来ないのも知ってるよ。...ずっと見てきたから」


その言葉に深い意味なんてないはずなのに最後の言葉に不意にドキリとして、その後なにもかも見透かされているような物言いに落ち着かなくなった。


「なら...」


「でも、見てるこっちはしんどいんだよ」


ハッときて視線を正面に向けると嘉新と目が合った。


「......」


何かを言うために開いた口も喉がヒュルヒュル鳴るだけで言葉は出てこない。



「信用してなんて図々しいことは言わない。頼ってなんてのも私からは言わない。そういうことが重荷になるのは分かってるから。でも才原くんがボロボロになるくらいあれこれ抱えこもうとするなら真っ先にその吐き口になれる存在でありたい。頼りたいときに頼れる存在になりたい」


「吐き口って...そんな言い方しなくても。...それに、俺は嘉新のこと、信頼してる。...運命共同体、なんだろ」


何日か前に嘉新が言っていた言葉を拝借して、でもやっぱり照れくささは感じて顔を背ける。



「......」


十秒、二十秒経っても嘉新は何も反応しない。


思わず気になって正面をちらりと見ると嘉新は耳まで真っ赤にしてプルプルしていた。


するりと頬を挟んでいた手が下ろされる。


「そ、そういうのは言葉だけじゃ信用ならないんだよ。しゃ...さ、才原くん、そうは言っても全然自分のこと話してくれないじゃん......って!なんで笑う!?」


真っ赤な顔で所々噛みながら早口にまくし立てる嘉新を見てつい吹き出してしまった。


胸をポンポン叩きながらプルプル震える嘉新が微笑ましい。



「ごめんごめんっ」


俺はにやけ顔を堪える。


嘉新になら、まあ、いいか。


どこか吹っ切れたような気分で俺はいつもの調子で努めて軽く言う。


「いやー、なんかさ。自分の無力さを思い出した、みたいな感じかな」


「...リアちゃんのこと?」


おお、いつの間にか愛称で呼んでんだ。


そんなことを一瞬考えて、細かいことが気になるくらい余裕が出てきていることに気づいた。


俺は『余計なこと』を考える前に首を縦に振り、


「何とかしてやりたい、って自分の(おご)りで、結局事情を聞くだけ聞いて何も出来なくて、勝手に哀れんでさ。そんなの嫌だと思うのにそれは思うだけで」


もしも俺にもっと権力や財力があれば、心を少しでも癒せるようなコミュ力や名案を思いつくことが出来る思考があれば。



そう思えば思うほど自分の無力さに絶望して、自分の無価値に気づいて死にたくなって。



そんな思いはこれまで幾度となく経験してきたことだけれどやっぱりその度に鋭利な刃物で心を刻まれるような痛みが走る。


今回のこれも『その度』の一つ。後から思い出せばそう思えるんだろうけど。




「やっぱ...キッついなぁ......」


背の高いビルを眺めながらぽつりと言葉が零れた。


瞬間鼻にツンとした感覚がして俺はグイッとビルの更に上に視線を向けた。


強く握った掌に爪が食い込む感覚がして歯がカチカチとなった。


なんでだよ、くそ。



エクリアからすれば大きなお世話だろ。


事情を聞くだけ。何も出来ない。救ってくれない。


俺は自分勝手に陶酔しているだけ。


何が『なんとかしてやりたい』だ。

ふざけんな...ッ!



ここでさらに情けないところを晒すなんてありえない。



震えを懸命に堪える。


「ほ...ほら、行こう...ッ」


顔をめいいっぱい逸らせて俺は一歩踏み出す。



しかしトンという背中への軽い衝撃で足を止めた。




「大丈夫」


背に両方の掌を押し付け体をギリ触れないくらいの距離まで近づけた嘉新が柔らかくそう言った。



「才原くんが優しいのも、人のためにあれこれ自分で抱え込んじゃうのも、自分でどうにかしなきゃって、頑張るところも...他にも言ったらキリがないくらいいっぱい、いっぱい。良いところを知ってる人もいるんだよ」


バクンッと心臓が跳ねる。


「だから自分の嫌なところしか見ない才原くんを私は否定しない。嫌なところに霞んで良いところが見えないなら私が補強してあげる」


ぽんぽんと嘉新は一定のリズムで俺の背を叩いた。


俺は唇を噛んで新たに溢れ出しそうな感情を懸命に堪える。


...だけどすぐに限界はやってきて、どうしようもなく自分にはそれを止めることは出来なくて。



「大丈夫、大丈夫」


背中から優しい声で言いながら嘉新は俺の背をぽんぽん叩いていた。


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