20畑のなか
広い畑を眺めながら脇道を端まで歩き戻って行くと昨日エクリアを発見した辺りの畑に子供たちが集まっていた。
その中にはいつの間に合流したのかエクリアの姿もある。
えっちらおっちらとさりとうららがバケツを一緒に持って運んでいて、とまりは草抜きをしていた。皆頭にはそれぞれ帽子を被っている。
だいたいの案内が終わり小山川さんは子供たちの手伝いに行った。嘉新も当初の目的を果たすべく付いていく。
突っ立って何もしていないのは俺だけだった。
子供たちの方も人では足りているらしく「お客さんにやらせる訳にはいきませんから」と断られてしまった。
ということでぽつんとなにかした方がいいのかもしれないけど何も出来ない状況のまま動けないでいるとふと俺と同じように一人群れから外れた人物がいることに気づく。
俺は手持ち無沙汰にその人物に近づいた。
「なに、見てるの?」
屈んでそう尋ねるとその人物ーーエクリアは無表情のままこちらを一瞥した。
「......」
興味がないというような目で何も言わずエクリアはすぐに視線を元に戻す。
こども、むずかしい。
え、なにこれ。どうするのが正解だったの?
『どうしよう』と心の中で葛藤し、結局答えは出ないままとりあえず俺は隣にしゃがんだ。
同じ目線になれば、何をしているのか分かるかもしれないと思ったからだ。
同じ目線でしばらく畑の中にしゃがんで苗をずっと見る。
知識のない俺にはその苗がなんの苗なのかは全く分からない。
「楽しい?」
気づけばそう尋ねていた。
しかしエクリアはこちらを再び一瞥しただけですぐ視線を元に戻す。
コミュニケーションのコの字も出てこないような会話だった。
というか会話にすらなっていない。
やはり子供との会話難しい...
いや、そもそも誰に対しても会話は難しいけど。常にハードモードだけれども。
「はぁ...」と項垂れていると
「別に」
だいぶの間が空いてようやく返ってきた応えは無表情で素っ気ないものだった。
その瞳は俺も、苗も何も映していないような覇気がない。
「じゃあ、なんでそうしてるの?」
「......」
また会話が途切れる。
周りの声がどこか遠くに聞こえる。
それくらい俺たちの空気は独特だった。
というか俺がエクリアの独特の空気に引き込まれているのだろう。
「なんで、ここに来たの?」
ぽつんと呟くような小さな声でエクリアが尋ねた。
「嘉新...あそこのお姉ちゃんね。そのお姉ちゃんが野菜の育て方を知りたいってーー」
俺はここに来た経緯を話す。
話している間もエクリアは聞いているのか聞いていないのか判断しずらい反応だった。
相槌も打たないし言葉も全く発しない。
『聞いてるよな?』と不安になっているとまたしばらくの間を空けてエクリアが口を開く。
「変」
寡黙な割に随分ぶっ込んだ物言いだった。とにかく遠慮がない。それも無表情で淡々と言うもん灘からなお切れ味が鋭く感じる。
「だよな」
言い方には驚いたがそう素直な感想を口にすると
「あの人とは家族なの?」
「ぶふッ...!?」
ちょうど唾を飲み込もうとしたタイミングで唐突にそんなことを聞かれむせる。
咳き込みながらちらりと周りを見ると皆何事かと視線をこちらに向けていた。
その視線に顔に熱が集まるのを感じつつ顔を背け咳が収まるのを待つ。
「...違うよ」
そう言うと「なーんだ...」とエクリアは呟き立ち上がった。ずっと腰を浮かせてしゃがみこんでいたからか俺も足が痛くなってきた。
つられて俺もゆっくり立ち上がり背筋を伸ばす。
「家族いないの?」
俺の腰くらいの位置のエクリアの表情は麦わら帽子で隠れていて見えない。
家族...か。
「いないよ」
正確には両親共々生きてはいる...はずだ。
だが二人とも、もうとっくの昔に父でも母でもなくなった。今では血を分けただけの赤の他人だ。
数少ない両親との思い出が頭を掠める。
本当なら思い出したくもない記憶だ。
思い出す度に頭痛もする程に。
「リアも...」
視線を下げるとエクリアは無表情のままぼんやり俺を見上げていた。
「リアも、いない。お母さんは、お空に行った」
淡々とエクリアは言って空を仰いだ。
その瞳の奥には哀感や諦観を含んでいるようにも見える。
はらりと風が吹き、エクリアの金髪がそよぐ。
こんな小さい子が、どうしたらこんな目が出来るのだろう。
まるで昔の自分を見ているかのようなザワザワした気持ちが湧き上がる。
他の子がキャッキャ楽しそうに笑いながら作業する様子と同じ空間にいるだけにエクリアの異常さが強調されているように感じられた。
あの子たちにとってはエクリアのこの状況は慣れたものなのかこちらを見向きもしなかった。




