16畑ドロボウ
俺は目の前の光景に理解が追いつかず呆然としていた。
物の数分の間に目の前に積み重ねられていくのは皿たち。
その全てを重ねていった犯人と今も新たな料理を食い尽くしているのは同一人物。
口の周りをベタベタに汚しているのも気にせず猛烈な勢いでスプーンを口に運ぶ。
そんな小さい腹のどこにそんな食べ物が入っていくのだろうか。
見ているだけでお腹いっぱいな光景に顔が引つる。
『ごはん、ある?』
唐突にそんな言葉を言ってきたその少女はエクリアと名乗った。
一体どこから来たのか、どうしてあんなことをしていたのか。
名前はすんなり教えてくれたのにそう聞いても何も答えずエクリアはひたすら『ねぇ、ごはん』『ごはんは?』と繰り返した。
食べ物なんて持っていなかった俺たちはとりあえず近くの町まで歩いていき、手近な開いていたファミリーレストランに入ったのだが着いてそうそうエクリアは遠慮なしにメニューの料理を次々と頼みだし今に至る。
「金、足りるかな...」
ガックリ肩を落とすと隣でエクリアに圧倒されていた嘉新が「まあまあ」と肩を叩いた。
「ふいー...」
結局座ったエクリアが見えなくなるほどの量を一人で平らげた上、しっかりデザートまで味わったエクリアは口元を紙ナプキンで拭って水を飲み満足そうに息を吐いた。
「ひさしぶりのまんぷく。まんぞく」
どこか舌っ足らずな声でそう呟いた。
このタイミングを逃してはならないと俺は口を開く。
「それは良かった。それで、今度こそちゃんと質問に答えてもらってもいい?」
「ちょ、才原くん顔怖い。エクリアちゃん引いちゃうよ」
そう慌てた様子の嘉新に窘められたが肝心のエクリアはボーッとした無表情のままだった。
「ねぇ、エクリアちゃん。どこから来たの?」
「ひなた園」
驚くほどにあっさりと答えが返ってきた。
「ひなた園?」
聞き覚えのない名前にオウム返しするとエクリアはこくんと首を縦に振る。
「どんなところ?」
嘉新はそう追加説明を求めると
「ひとりぼっちがあつまるところ」
「養護施設?」と嘉新が俺の耳元で言った。
俺はそれに視線で返し
「...保護者の人は?」
「親はいない。えんちょー先生だけ」
表情を一切変えず淡々とそう答えた。
やはり嘉新の見立てで間違いはなさそうだ。
「どうして、あそこに一人でいたんだ?」
エクリアはこれまですんなり答えていたのにムッと口を引き結んだ。
数秒の間を空けエクリアが口を開く。
「『だっそう』」
だっそう。
だっそう...?
「「脱走!?」」
そう俺と嘉新の声が重なった。
※
たらふく食べて眠りこんでしまったエクリアを背負い歩いていく。
10月の涼しい風が火照った頬を撫でて気持ちいい。
「次の角右ね」
隣では俺のスマホを手に道案内する嘉新がいる。
「あいよー」
一度足を止めてエクリアを背負い直す。
その様子を嘉新はじっと見て待っていてくれた。
軽いとはいえ長時間はキツイな。
そう思いながらふと視線を感じた。
「どした?」
じっと俺の顔を見ていた嘉新はスマホを片手で持ったままブンブン手と顔を振り
「ううん!なんでもないから」
頬を桜色に染めてそっぽを向く嘉新の様子は気になったがさらにつっこんで聞いても怒られそうだったので俺もひたすら前に進むことだけに集中する。
ちらりと無意識に視線を向けるとちょうどこちらに首を傾けた嘉新と目が合い、バッと同時に反対を向く。
「なんだ」「どうかしたか」と聞ける感じでもなくそのままどこか居心地の悪い時間が続いた。
※
「やっと着いた...」
体を前傾に傾け腕の力を分散させ一休みする。
体を傾けたため普段より視線の位置はずっと低くて目の前には古びたひなた園の木製の表札が飛び込んでくる。
「養護施設っていうから幼稚園みたいな場所想像してた...」
建物を見て面食らってしまった。
男子平均くらいの背の俺よりさらに高い柵は錆びていて今にも壊れそうだし、木製の建物は全体的に日に焼けた焦げ茶色。壁と屋根の間では燕が巣を作っていてキイキイ鳴いていた。
子供を育てるというより『お』がつくアレが住み着いていそうなおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
嘉新は建物から一歩身を引き
「...幽霊とか、いないよね?」
と俺にしか聞こえないくらいの声で聞いた。
「実態見えないからいないとは言いきれないな」
建物の雰囲気に呑まれ思考が鈍り言葉は頭の中で留まり考えることを放棄してするりと感情のまま飛び出す。
正直な感想を言っただけなのにぽかぽか嘉新に叩かれた。エクリアが落ちないように身を固くしていると「もーっ!」と嘉新がふくれっ面でぷいっとそっぽを向いた。
「ごめんて」
「才原くんのそういうとこ良くないよ。そこが良いところでもあるんだけど」
「いや、どっちだよ」
なんとなく言わんとしていることは理解したが褒められるような人間であることはもとより自分で認めてないし、何より照れくさい。それを認めたくなくて大袈裟におどけた言葉でつっこんだ。
「どうする?」
こほんと張り詰めた空気を変えるように改めてそう言うと「どうしよう」と嘉新が怯えたような表情で繰り返す。
鼻から大きく息を吐き出しもう一度どうしようか頭の中で考え俺は一歩踏み出した。
正直もう腕がプルプルしてきてしんどくなってきたっていうのが一番の理由でこの状態から解放されることが最優先事項という結論に至った。
表札の横の古いインターホンを鳴らすと『ビーッ』と音が鳴った。『ピンポン』以外の音を聞いたのが初めてで驚いているとしばらくしてカチャリと玄関の鍵が回る音がする。
ゴクリと喉を鳴らし身構えていると
「はぁーい!どなたですかぁー?」
無邪気な笑顔で精一杯背伸びをして玄関のドアノブにもはやぶら下がっているような姿勢で立っていたのはまたもや幼女だった。
俺は目の前の光景に理解が追いつかず呆然としていた。
物の数分の間に目の前に積み重ねられていくのは皿たち。
その全てを重ねていった犯人と今も新たな料理を食い尽くしているのは同一人物。
口の周りをベタベタに汚しているのも気にせず猛烈な勢いでスプーンを口に運ぶ。
そんな小さい腹のどこにそんな食べ物が入っていくのだろうか。
見ているだけでお腹いっぱいな光景に顔が引つる。
『ごはん、ある?』
唐突にそんな言葉を言ってきたその少女はエクリアと名乗った。
一体どこから来たのか、どうしてあんなことをしていたのか。
名前はすんなり教えてくれたのにそう聞いても何も答えずエクリアはひたすら『ねぇ、ごはん』『ごはんは?』と繰り返した。
食べ物なんて持っていなかった俺たちはとりあえず近くの町まで歩いていき、手近な開いていたファミリーレストランに入ったのだが着いてそうそうエクリアは遠慮なしにメニューの料理を次々と頼みだし今に至る。
「金、足りるかな...」
ガックリ肩を落とすと隣でエクリアに圧倒されていた嘉新が「まあまあ」と肩を叩いた。
「ふいー...」
結局座ったエクリアが見えなくなるほどの量を一人で平らげた上、しっかりデザートまで味わったエクリアは口元を紙ナプキンで拭って水を飲み満足そうに息を吐いた。
「ひさしぶりのまんぷく。まんぞく」
どこか舌っ足らずな声でそう呟いた。
このタイミングを逃してはならないと俺は口を開く。
「それは良かった。それで、今度こそちゃんと質問に答えてもらってもいい?」
「ちょ、才原くん顔怖い。エクリアちゃん引いちゃうよ」
そう慌てた様子の嘉新に窘められたが肝心のエクリアはボーッとした無表情のままだった。
「ねぇ、エクリアちゃん。どこから来たの?」
「ひなた園」
驚くほどにあっさりと答えが返ってきた。
「ひなた園?」
聞き覚えのない名前にオウム返しするとエクリアはこくんと首を縦に振る。
「どんなところ?」
嘉新はそう追加説明を求めると
「ひとりぼっちがあつまるところ」
「養護施設?」と嘉新が俺の耳元で言った。
俺はそれに視線で返し
「...保護者の人は?」
「親はいない。えんちょー先生だけ」
表情を一切変えず淡々とそう答えた。
やはり嘉新の見立てで間違いはなさそうだ。
「どうして、あそこに一人でいたんだ?」
エクリアはこれまですんなり答えていたのにムッと口を引き結んだ。
数秒の間を空けエクリアが口を開く。
「『だっそう』」
だっそう。
だっそう...?
「「脱走!?」」
そう俺と嘉新の声が重なった。
※
たらふく食べて眠りこんでしまったエクリアを背負い歩いていく。
10月の涼しい風が火照った頬を撫でて気持ちいい。
「次の角右ね」
隣では俺のスマホを手に道案内する嘉新がいる。
「あいよー」
一度足を止めてエクリアを背負い直す。
その様子を嘉新はじっと見て待っていてくれた。
軽いとはいえ長時間はキツイな。
そう思いながらふと視線を感じた。
「どした?」
じっと俺の顔を見ていた嘉新はスマホを片手で持ったままブンブン手と顔を振り
「ううん!なんでもないから」
頬を桜色に染めてそっぽを向く嘉新の様子は気になったがさらにつっこんで聞いても怒られそうだったので俺もひたすら前に進むことだけに集中する。
ちらりと無意識に視線を向けるとちょうどこちらに首を傾けた嘉新と目が合い、バッと同時に反対を向く。
「なんだ」「どうかしたか」と聞ける感じでもなくそのままどこか居心地の悪い時間が続いた。
※
「やっと着いた...」
体を前傾に傾け腕の力を分散させ一休みする。
体を傾けたため普段より視線の位置はずっと低くて目の前には古びたひなた園の木製の表札が飛び込んでくる。
「養護施設っていうから幼稚園みたいな場所想像してた...」
建物を見て面食らってしまった。
男子平均くらいの背の俺よりさらに高い柵は錆びていて今にも壊れそうだし、木製の建物は全体的に日に焼けた焦げ茶色。壁と屋根の間では燕が巣を作っていてキイキイ鳴いていた。
子供を育てるというより『お』がつくアレが住み着いていそうなおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
嘉新は建物から一歩身を引き
「...幽霊とか、いないよね?」
と俺にしか聞こえないくらいの声で聞いた。
「実態見えないからいないとは言いきれないな」
建物の雰囲気に呑まれ思考が鈍り言葉は頭の中で留まり考えることを放棄してするりと感情のまま飛び出す。
正直な感想を言っただけなのにぽかぽか嘉新に叩かれた。エクリアが落ちないように身を固くしていると「もーっ!」と嘉新がふくれっ面でぷいっとそっぽを向いた。
「ごめんて」
「才原くんのそういうとこ良くないよ。そこが良いところでもあるんだけど」
「いや、どっちだよ」
なんとなく言わんとしていることは理解したが褒められるような人間であることはもとより自分で認めてないし、何より照れくさい。それを認めたくなくて大袈裟におどけた言葉でつっこんだ。
「どうする?」
こほんと張り詰めた空気を変えるように改めてそう言うと「どうしよう」と嘉新が怯えたような表情で繰り返す。
鼻から大きく息を吐き出しもう一度どうしようか頭の中で考え俺は一歩踏み出した。
正直もう腕がプルプルしてきてしんどくなってきたっていうのが一番の理由でこの状態から解放されることが最優先事項という結論に至った。
表札の横の古いインターホンを鳴らすと『ビーッ』と音が鳴った。『ピンポン』以外の音を聞いたのが初めてで驚いているとしばらくしてカチャリと玄関の鍵が回る音がする。
ゴクリと喉を鳴らし身構えていると
「はぁーい!どなたですかぁー?」
無邪気な笑顔で精一杯背伸びをして玄関のドアノブにもはやぶら下がっているような姿勢で立っていたのはまたもや幼女だった。




