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明日世界が終わります。  作者: 成浅 シナ
15/30

15スローライフ

「ねぇねぇ才原(さいばら)くん」


10月ももう中旬になり肌寒さを感じるようになった頃、買い物に行っていた嘉新は帰ってくるなりちょいちょいと俺を呼んだ。


「ねぇねぇこれ見てよ」


そう言いながら背中に隠していた『それ』をドヤっと見せてくる。


「苗?」


小さな植木鉢には青々しい葉っぱが生えている。


「そ、トマト!」


「へー...って、おい、今日の夕飯ミネストローネ作るって行ってなかったか?」


確かそのためにトマトを買ってくると出ていったはずなのだがまさか苗を買ってくるとは思ってもみなかった。



「あ、ちょっと待った。なにか勘違いしてるでしょ」


ムッと膨れながら机に置いていた別の買い物袋をガサガサしだす。


「ほら。ちゃんと買ってきてるって」


そう言い両手に持ったトマトをグイッと見せてきた。


「じゃあ、なんで苗?」


ますます意味が分からずにいるとエッヘンと嘉新は何故か胸を張り


「私、スローライフってやつ?やってみたかったんだよね!」


「......」


とりあえず今の時点でもうだいぶスローライフなのではというツッコミはしないでおこう。


「...ってなにかいってよぉ」


プクっと嘉新が頬を膨らませる。


「あー。悪い。...で、自給自足生活?」


「スーパーの食材も減ってきてるしねー。あ、他にも色々買ってみたんだよ?ナスでしょ?大根にー、人参とー」


手当り次第買ってきたのか苗のものからまだ種のものまで色々あった。


「これ時期とか見たか?」


「時期?」


コテンと嘉新が首を横に倒す。


「確かこういうのって種まきに適した時期とかあるだろ?」


「へー」


いや『へー』じゃなくて。


「まあ、今の時期に植えて良いやつもあるだろうし後でネットで見てみるか...」


「お、頼りになるー」


「おい、棒読み棒読み」


ため息をつくと嘉新がおかしそうにケラケラ笑った。



「あ、そうだ。ネットもいいけど」


嘉新はそう言いニヤッと笑う。


その笑顔はまたろくでもないことをたくらんでいるかのようなそんな笑顔だった。





「やっぱり本業の人に聞くのが1番だよね」


道を歩きながら嘉新が呑気にそう言う。


またもや自転車をゼエハア言いながら漕いでいく。


背の高いビルは随分遠くに離れていてどこか懐かしさを感じるような土と草の匂いがする。


「でも...だからってっ...農家の人のとこ行かなくてもっ......」


「もー、相変わらずインドアだなー。たまには外出て体動かさないと」


いやこの状況でお前が言うな!漕いでるの俺一人だぞ!?


そんな文句も息の上がっているこの状態で言える訳もなく。



「ほらほらまだ行けるぞーゴーゴー!!」


「あ、おい揺らすな!捕まっとかないと落ちるぞ!」



背中で嘉新がコロコロ笑った。

キシキシと回る車輪もどこか笑っているようだった。





「ついたー」


グイッと伸びをし深呼吸する。


自転車を止め、息を荒く吐きながら膝に手をつく。


「汗まみれだね、ほら」


そう言い嘉新はハンカチを差し出してくる。


いつの日かのデジャブだな。


だが


「いやいいよ」


にやっと笑ってポケットからしわくちゃのハンカチを取り出した。

一度冒した失態は二度と繰り返さないのだよ。


嘉新はぱちくりと目を瞬かせ、クスッと笑う。


「お、今度はちゃんと持って来たんだね。えらいえらい」


「おいこら。子供扱いすんな」


ムスッとそっぽを向くと何がおかしいのか嘉新はコロコロ笑った。



たくっ。


汗を拭い家から持ってきたペットボトルをごくごく飲む?


ぷはーっと息を吐き息を整える間嘉新は畑の周りをふらふらとステップを踏みながら歩く。


表情はどこか楽しげだ。



嘉新から視線を外しあたりを見回す。



少し郊外に外れただけだというのに全く景色が違う。


いるだけで心が安らぐような感覚があった。


「田舎サイコー」


「そんな棒読みで言われても」


いつの間にか側にいた嘉新が小さな声でツッこんできた。


「うおっ」と驚き身を引くとちょいちょいと嘉新は俺を呼ぶ。


「ねぇ」


そしてなぜか耳元に顔を近づけてくる。


慌てて身を引こうとするも袖口を捕まれそれも叶わない。


「あれ、見て」


「は?」


真剣な面持ちで嘉新はある方向を指さす。



その指の先を見ると畑の中に人がいた。


「ねぇ、ちょっとまずくない?」


は?


「まずい?なにが?」


そう聞きながら目を凝らすと


「ん?」


畑仕事中の農家の人と思ったがよく見ると違うということに気づく。


大人ですらない。


太陽の光に照らされて光るのは金髪だ。


ここからでも分かる真っ白な肌によく映えている。


服装は軽装でどう見ても畑仕事中の農家の人には見えない。


さらに、そんな人目引く少女はさらに目を引くことをしていた。



「な、なんだぁ?あれ」



少女はどんどん畑から野菜を引っこ抜いていく。


時々服で野菜の土を拭って食べた。



「おいおい。あれ、もしかしなくても畑ドロボウってやつなんじゃ...」


世界の終わりが宣言され景気も一気に悪くなった。


仕事もない以上収入もない。


犯罪に走る人もいるというのはニュースで知っていたがだからってあんな小さな女の子が畑を荒らしている光景なんて誰が予測出来ただろうか。


それにあの子はこの間出会った心葉野よりもさらに小さい。


小学生か、もしかしたら幼稚園生かもしれなかった。


「どうする?掴まえる?」


「いや、でも警察の仕事だろ...」


とにかく面倒事に巻き込まれたくないなと後ずさっていると不意に畑の中の少女がこっちを向いた。



気づいているはずなのに眠たげな目のまま驚いた様子はなかった。


『どうする?』と視線で嘉新に助けを求めると嘉新は意を決したように一歩踏み出す。


「え?」


しかし、その一歩で踏みとどまった。


「ちょっ、なんか近づいてくるよ」


あわあわと戸惑う嘉新が今度は俺に『どうしよう』と視線を向けてきたが俺も同様に戸惑っていた。


通報されても仕方ない状況で見つかったのにわざわざ近づいて来るか?


わざわざ近づく理由...口封じか?



考えがまとまっていないうちに少女は俺たちより二メートルほど離れた位置で立ち止まった。


「......」


無言のまま、無表情でこちらを翡翠色の瞳が覗き込む。


所々絡まった金髪は無造作に伸ばされていて服や顔が泥だらけになっている。その上手には先程引き抜いたらしい人参が掴まれていた。


この容姿なら着飾れば人形のように可愛らしくなるんだろうが今の彼女はどう見ても野生児だ。


その少女は何も映していないような空虚な瞳のまま両手を器の形にして俺たちに差し出した。



「ごはん、ある?」


「は...?」


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