11運命共同体
「ふいー...濡れた濡れた」
玄関に入るなり嘉新はそんな声を出し額の雨粒を拭った。
心葉野は身をぶるっと震わせる。
とりあえずタオルを...なんて思っていると早々と嘉新が家の中へと入っていき脱衣所からタオルを3枚持ってくる。
「はい」
「さんきゅ」
「...ありがとうございます」
タオルを受け取りガシガシと髪を擦る。
心葉野はタオルをじっと見た後、どこか遠慮がちに肌を拭い始めた。
「とりあえずりいちゃんシャワー入ろっか。風邪ひいちゃうし」
「え!いや...でも......」
「いいからいいから。才原くん、服私とりいちゃんの分よろしく」
俺にそう言いつけて嘉新は縮こまる心葉野の手をやや強引に引っ張って脱衣場へと消えて行った。
それを見届けてから「ふーっ...」と息を吐き出し奥の部屋に入る。
2人の声もシャワーの音も完全にシャットアウトされたことを確認してから衣装ケースを開けた。
「あ...心葉野の服、どうしよ」
タンスの中には男物の服しかなかった。
※
嘉新たちと入れ替わりでシャワーを浴び、しっかりと服を着てタオルで髪を乾かしながらリビングに出ると嘉新が心葉野の髪をドライヤーで乾かしていた。
心葉野は赤い顔で俯き居心地が悪そうだ。
こうしてみると姉妹みたいだな、なんて思いつつ冷蔵庫から麦茶ボトルを取り出す。
コップを3つ取り出して注ぎそのうちの一つを飲みながら
「ん」
「ありがとー」
コップをお盆に乗せたまま手渡すとちょうど乾かし終わったらしい嘉新が零さないように慎重に受け取った。
「りいちゃん、はい」
両手でコップを持ちうち一つを心葉野に渡す。
「......」
心葉野は無言でコップを受け取りコップ、嘉新、俺の順に視線を移動させた。
「ん?どした?」
「いえ...」
心葉野は口を開いて何かを言おうとし、でもやっぱりやめて考え込んだ。
その様子を見てなんだと嘉新と顔を見合わせていると意を決したように心葉野が口を開いた。
「お二人は、お付き合いされているのでしょうか」
「「してない」」
二人の声がハモった。
「でもここお二人の家なんですよね?苗字で呼びあっている当たりご兄弟というわけでもなさそうですし」
何気に鋭い...というかよく見てるな。
「俺たちは...」
言いかけて言葉に詰まった。
俺たちの関係ってなんだろう。
友達?
元同級生?
はたまた別の何かか...
「私たちはね」
嘉新がそう口を挟む。
「運命共同体、だよ」
瞬間、何故か心臓が跳ね、しかしその意味は分からないまま、それを悟られないように俺は口を開く。
「...なんか大袈裟」
「そう?」
嘉新は小首を傾げてくすくす笑った。
その様子を見ながら心葉野は腕を組み頬に指を当ててあからさまに考えている仕草をした。
「なるほど...」
「いやなるほどって...」
眉をよせると嘉新に「まあまあ」と窘められた。
心葉野はコップを両手で包み込むように持ってゴクッと少し飲んだ。
「ほぉ...」と息を吐く姿すら愛らしい。
小さい子供を見ているような微笑ましさを感じていると嘉新が微笑みながら口を開く。
「ねぇ、りいちゃんはどこから来たの?」
その言葉に心葉野がピクっと動きを止めた。
「どこ...から...」
コップを持ったままポーっと宙を見た。
数秒、無言の時間が流れる。
「東京です」
ざっくりした答えだった。
「お父さんやお母さんは?」
「いません」
今度は間を開けず答えが返ってきた。
ただ淡々と、無表情のまま。
むしろ動揺したのは嘉新の方だった。
「そ、そっか...」
見るからに「やってしまった」という顔をして気まずそうに頬を掻く。
その様子をじっと見た後心葉野は無表情のまま嘉新の両頬に手をそっと当てた。
嘉新はハッとした顔になり
「り、りいちゃん!?」
「そうです。私は心葉野りいなんです。別に今はもう、寂しくなんてありませんよ。お父さんも、お母さんも見ていなくても、私にはたくさんの見てくれる人がいるのですから」
「見て、くれる人?」
嘉新が両頬を挟まれたまま首を傾げる。
「保護者、とか?」
俺がそう聞くと心葉野は一瞬俯いて首を横に振った。
「違います」
そう言い少し、悲しそうで笑った。
「違うんです」
※
「りいちゃん寝ちゃった」
「運ぶの手伝おうか?」
「んー、いいや。だいじょぶ」
嘉新が自分の布団に心葉野を運ぶのを見送って俺はスマホを取り出した。
心葉野と出会ってからずっと何か引っかかっていた。
それにあの目を引く容姿。
それにどう見ても小中学生くらいなのに保護者不在であんな所にいたのは何故か。
もしかしたらSNSとかで情報が拾えるかもしれない。
今の時代、ネット上で個人を特定することは難しくない。
俺はネットを開き検索欄に『心葉野りい』と打ち込んだ。
※
「...くん、......わくん......才原くんってば!!」
「おぅ!!」
肩を揺さぶられ大声が出た。
「って!シーッ!」
「わ、悪い」
心葉野が寝ている方を見て特に変化がないことを確認してホッと息をつく。
「何してるの?ん?」
肩口にグイッと嘉新が覗き込む。同じシャンプーを使っているはずなのにふわっとシトラス系の香りがした。
「お、おい、近い...」
「...え?」
嘉新はスマホの文字を読みそう声を上げた。
「ちょ...な、なに、これ」
数秒前の俺と全く同じ反応をした。
突然のことで言葉も出てこないようで「えっ!?」「あれ!?」と明らかに動揺していた。
驚くのも無理はない。
俺は再び視線をスマホに向ける。
そこにはーーー




