咲いてしまったと捉えるか
次の休み──マリンが自ら申請した休日に、ヴィオレットは嬉しそうに頷いて送り出してくれた。昔よりもずっと綺麗で、ずっと幼い笑みは、母となって数年経つ大人の女性であるはずの彼女を、可憐な少女の様に見せる。
その笑顔を見るだけで、あぁ、やっぱり私は、この人が好きなのだと深く深く納得する。
恋ではない、性愛ではない、ただ愛している。理由なんていくらでもあるけれど、そのどれも無くなったってこの愛が消える事は無い。この人が生きているから生きたいと思うし、この人が死んだら、自分も死を選ぶ。ヴィオレットのいない世界で生きたくはないが、彼女を看取ってから逝きたいと思う。そういう傾倒で、依存で、原因は愛だった。
この気持ちを超える人は現れない。今でもそれは変わらないのに、別の種類が芽生える日が来るなんて。夢の様だと思った。夢にまで見た、そして、夢であれば、どんなに。
「早いですね。まだ三十分以上ありますよ」
「それは、リツさんも同じじゃないですか」
「誘っておいて遅刻したくなかったので。なんとなく、貴女は早く来る気がしていましたから」
日差しを遮る木陰は、人のまばらな公園の中でもど切り取られた世界で。遠くに聞こえるのは風の声か、それとも人の営みか。平和な現実が、一歩先には広がっている。幼い頃は憧れた、当たり前の日常。今はマリンもその中で暮らしているはずなのに、どうしても溶け合えない。
シスイの言っていた事の意味が、漸く分かった気がした。彼にとっての料理は、マリンにとってのヴィオレットに似ている。これが無ければ生きられず、他の何よりも優先すべきもの。彼はそれ以外にいらないと言った。そしてマリンも、いらないと思っていた。いつの日か抱いたとして、もっと容易く手放せる。ヴィオレットへの愛だけで満たされているのだから、他の感情なんて、些末なものだと。
愛と恋の違いは思っていたよりも大きくて、思っていたよりもずっと、天秤を揺らさない。
「それで……今日は、どうして」
木のベンチに腰掛けて語らう。想像していた時は平穏の象徴にすら思っていたのに、自分が経験する時はこんなにも緊張するだなんて。
どうして、なんて。白々しい。本当は彼が言いたい事を想像して、期待して、だからこんなにも苦しい。
「こういうの、経験がないのでどうすべきか迷ったんですが……俺一人で考えても答えが出なかったので、一緒に考えて欲しくて」
向けられた視線に、心臓がバクバクと一層激しい音を立てた。そこに映っている感情に気付かない程鈍くはないし、きっとリツも、マリンの瞳に同じ熱を見ている。
「俺、貴方に惹かれています。遠からず恋になる想いだって確信もある。そして自惚れでなければ……同じ想いを、貴方も」
「……そう、ですね」
これがただの告白だったなら、頷いていただろうか。




