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 ヴァニラとラディアが向かったのは、予想通りと言うか、ヴァニラの遊び場──子供部屋である。ラディアが共に来ると決まった時から恐らくここで遊ぶだろうと、ロゼットは隣の部屋に案内されているはずだ。もてなす準備は完璧に共有されているし、ユランに採用された人間を今更疑いはしない。

 白いふわふわのラグに座り込み、二人で一つの絵本を覗き込んでいる。その興味がいつ他に映るか分からないけれど、この部屋は扉も窓も鍵が付いているし、二人の背丈は届かない。

 いつもはヴィオレットとユランが座っているソファに、今はマリンとリツが座っている。視線は小さな天使達から離れないけれど、監視するみたいに見続けなくても良い事は、お互いに分かっていた。

 付き合いが長い訳では無い。濃い時間を共にした訳でも無い。それなのに、お互いの事が良く理解出来た。それはきっと、心の形がよく似ているからなんだと思う。


 彼と自分はよく似ている。似ているから、想像出来る。きっと私達は同じ気持ちで同じ選択をする。


「元気ですねぇ……」

「小さい子の体力は底なしに思えますから」


 きゃらきゃら笑う子供達は、平和と幸福の象徴だ。夢のよう、と言うのは、こういう心境を指すんだろう。

 可愛い子供達と、自分を理解してくれる人。まるで理想の家族を模した現状に、欲がないと言われれば嘘になる。きっとヴィオレットと出会っていなければ、マリンはこんな家庭を夢見ていたはずだ。

 愛してくれる人が欲しいし、愛する人だって欲しい。子供が欲しいと思った事はないけれど、家族の中に自然と子供の姿を描いているくらいには、必要だと思っている。不倫相手の子である自分を生んだ母と、そんな母を愛した父を持ち、そんな両親に捨てられたくせに。捨てられたからこそ夢を見てしまうのかもしれない。

 

 欲しいと思う、そういう、当たり前の幸せが。

 でも同時に、手に入れるつもりもないのだ。


 自覚してみれば簡単な事で、多分自分は、リツに惹かれている。いつか恋になる種を両手で握り込み……過去になる日を待とうとしている。

 マリンにとって恋は、家族は、捨てる事の出来る感情だから。いつか必ず、ヴィオレット以上に優先できない現実がやってくる。ならば初めから、手にしない方がきっと傷付かないって。


 ──本当に?


「あの、」

「ッ……⁉ は、はい」


 浮かび上がった疑問が波に攫われて、落ち着いた青年の声が耳に届く。ぼんやりするつもりは無かったのだが、いつの間にか子供達をただ眺めているだけになっていた。

 二つの笑い声をBGMに、リツの横顔を見る。美しい輪郭は中性的で柔らかい線に見えるけれど、繋がった首のラインは男性のそれだった。なだらかな自分のそれとは違う、隆起した骨が妙に性別を意識させる。身長はほとんど変わらない。シルエットの細さも、むしろ自分より細いんじゃないかと思うくらい。でも、並べば分かる。厚みが違う、肩幅も、手足の大きさも。

 

「次の休み、俺に下さい」


 そういう違いを想像しただけで、胸がきゅうと締め付けられる。気付きたくない、目を逸らしたい。そう思っている時点で、きっともう、根は下りてしまった後なんだろう。

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