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猛獣と狩人の夜の時間

お疲れ~、お疲れ様です。そう言って皆は定時にあがる。


春の終わりにも関わらず外はもう真っ暗。夏が近づいている実感がいまいちわかない。秒針の音の自己主張が激しい時計を見れば、20時半。そりゃ、真っ暗にもなる。


フロアにはヤヨイ含めて三人。レナ、先輩のラン。同僚二人のソゾロとアグニは今買い出しに行っている。それ以外は皆帰った。


「ういっーす、差し入れ買ってきたぞ」


同僚二人がパンパンに膨らんだビニール袋を持ってフロアに現れた。皆一様に手を止めた。


腹が減っては戦はできぬ。それぞれで腹ごしらえをする。


「で、仕事終わりそうか?」

「ああ、あと三時間あれば」

「三時間か……」


ソゾロはチラッと時計を見た。三時間後といえば23時。ホワイト、ホワイト謳っている会社がこれだけ見ればブラック企業だ。残業代が出るからましか。世の中には残業代も払わない会社があるって聞いたからな。


食事を終え、パソコンと向かい合う。数秒後、キーボードの快い軽快な音が耳を刺激する。


デスクワーク()はまだ始まったばかりだ。





指が程よく痛みを発し始めた頃、仕事の区切りがついた。体をほぐしながら時計を見る。時刻は丁度23時。どうやら、予定通りに終わったようだ。


皆はまだ終わっていないようだ。それらならと思い仕事を進めようとするが、中途半端なところ終わると帰れなさそうだ。そう思ったヤヨイはパソコンの右端にある無名のファイルを開く。


瞬間、パソコンの画面全体を愛らしい動物が埋め尽くした。子犬、子猫、兎等々紹介しきれない量だ。


ヤヨイは暇なときにいつもこの画像を眺めている。この画像を眺めている時が、ヤヨイの一番の癒しなのだ。だが、ここまで来ると少しキモい。


それには理由があった。


彼は元々動物が大好きだった。とにかく動物に触れ合うことを生き甲斐にしてきた。だが、この死神の国には愛玩動物が存在しないのだ。まぁ、いることにはいる。三つ首の犬とか尻尾が二つに別れた紫の猫とか人食いうさぎとか。それらがヤヨイには合わなかったのだ。


動物に触れ合いたい。だが、あの愛玩動物はいただけない。それの板挟みになり、産み出した答えが画像だ。インターネットで全世界の愛らしい動物の画像を集め、それと触れ合っている妄想をする。肉感は無いもののヤヨイの心は満足した。それ以来、インターネットで画像をみつけては妄想をする、みつけては妄想をするの繰り返しで、画像が千を越えるまで溜め続けた。


そして、ある日パソコンの動作が遅くなり、その原因を探ると溜まりにたまった画像が原因で、ヤヨイは泣く泣く画像を消して、今の画像の数は全盛期の四分の一。数を数えれば400ぐらい。それでも数が尋常ではない。


ヤヨイはその画像一つ一つに目を通していく。それら全てが強力な催眠作用(ヤヨイ限定)があると知っていながら。そこから意識が途切れた。





「――――――さい」


声が聞こえる。聞いたことはある。が、あまり聞きなれていない声だった。その声は酷く澄んでいて美しい。


「―――――ください」


声は何かお願いをしているようだ。それが何かまではわからない。ヤヨイは心地よい微睡みにもう一度沈みこもうとする。


だが、その数秒後、キツネの鳴き声らしき音が聞こえた。


「キツネ!」


勢いよく立ち上がるとそこには、携帯をもったレナがいた。レナの顔が一瞬強ばっているように見えた。


「お、おはよう」


ヤヨイは気まずそうに寝癖のついた頭をかく。レナは一歩二歩、後ろに後ずさる。


「おはよう、ございます」


やはり避けられている。


「も、もう帰ってもいいよ。あとはするから」

「あ、ありがとうございます」


レナは逃げるように職場をあとにした。


残されたヤヨイは――


「どうすればわだかまりがなくなるんだ?」


それが今世紀最大の謎である。

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