第13話 霧、妖夏の香を焚く
<注意>
東方プロジェクト新作『東方紺珠伝』(体験版)のネタバレを含みます。
紅魔館。
主のレミリアは、再び窓の向こうに視線を向けていた。
頭上の青空には、昼間に見られる白い月が浮かんでいた。
「狂夢に狂う月の都、ですって?
...冗談もいいところにしなさいよ、まったく」
「ええ...。
でも、玉兎たちの密告によると、あまり状況はよろしくないそうよ...。
それに、"浄化"と呼ばれる作戦を、あまり遠くないうちに決行すると...」
レミリアの向かいには、ナース服姿の人物が座っていた。
「そう...。
私もあそこにはかつて赴いたけど、ね...。
...それより、今は地上の異変が先よ」
「ええ、そうね...」
レミリアは深く溜息を吐き、再び口を開いた。
「咲夜に行かせて、正解だったっかしら...」
◇◆◇
霧の湖。
霊夢や魔理沙が、異変の関係者と思わしき妖怪たちと対峙していたころ、当の咲夜は湖の妖精退治に苦心していた。
「はぁ...。 何よこの大群...。
捕まえても捕まえてもいなくならないじゃない...」
咲夜は緊急処置として、手当たり次第妖精を捕まえては逃がし、捕まえては逃がし、という作業を延々と続けていた。
しかし、妖精の数は一向に減らない。
それどころか、むしろ増えているような気さえするほどである。
「これでは全然埒が明かないわね...。
仕方ないわ、この騒ぎの中核になっている妖精を見つけるしかない...」
咲夜の考えでは、この妖精の大群の中央部に、中核となる活発な妖精がいるとのことだ。
咲夜は服の袖ををたくし上げ、妖精たちの雑踏の中へと入りこんでいった。
妖精たちの歓声やぶつかり合う音、そして、例のあの甘い香りが辺りに充満していた。
少し進むと、今まで頭上の妖精たちによって遮られていた日光を仰ぐことができた。
台風の目のように、開けた場所に出たのだった。
「改めて見てみると、この湖ってこんなに広いのね...。
あっ、あれは...」
咲夜の目線の先には、周りを騒ぎ立てて一際目立っている妖精がいた。
「あの子かしら、この騒ぎの犯人は...?」
「このぉーっ! 待てぇーっ!
あははははははははっ!
...んっ? お姉さん、人間?」
「あっ...。 ええ、そうよ」
「そーなのか...。
ねぇ? 一緒に遊ぼ?」
咲夜は、ふと目の前の妖精をじっと見つめてみた。
背丈は他の妖精よりもひと回り大きく、人間の子供ほどに達していた。
服装も独特で、他の妖精よりも緑を基調とした爽やかなものだった。
それに何より、他の妖精とは相容れぬ強い力を持っているように見えた。
「あなた、他の妖精よりもやたらと元気ね...。
気のせいかしら?」
「まぁ、夏だしねー」
「夏? ...どういうこと?」
「私の名前はサマーリーフ。
正真正銘、夏の妖精よ」
「夏の妖精...?
春の妖精とか秋の豊穣神とか、冬の妖怪とかなら見たことあるけど、まさかこんな暑い夏にまで自然を具現化した妖怪がいるなんてね...」
さすがは夏の妖精だからだろうか、サマーリーフはこの酷暑をものともせず、周囲をぐるりと飛んで、楽しそうに他の妖精と騒いでいた。
「...で、このどうしようもない数の妖精たちは、あなたが連れてきたの?」
「ううん。
湖のほうから甘い香りがしてきて、それで何だか楽しくなっちゃったんだ。
遊んでたら周りの妖精も香りにつられてやって来て、それでこんなことになってるんだけど...。
...まぁ、楽しいからいいや! って思ってね!」
「いや、その、私らからしたら十分迷惑なんですけど...」
「ねぇねぇ、こんなに太陽もギラギラ輝いてるしさ、せっかくだから私と弾幕ごっこしようよー」
妖精らしく、わけも無く出し抜けに戦いを挑まれた咲夜だったが...。
(甘い香り...。
この摩訶不思議で、しかも発生源のよく分からない、得体の知れない香りはどこから来ているの...?)
聡明な咲夜はすでに、目の前の妖精など目にもくれず、この異変についていよいよ勘付きはじめたようである。
(お嬢様は、たかだか妖精のことなんかで私をお呼びになったりするはずがない...)
「わぁーいっ! こんのぉーっ!」
(それに最近の猛暑...。 何かが引っかかるの...)
「なんだとぅー!」
(...でも、何? 一体何があるの...?)
「うぉのれー!」
(何があるっていうのよ...?)
「きゃっ、冷たいっ!」
(...でも、その前に...)
「あははははっ!」
「あああああああっ!
アンタが騒ぎすぎてもう何だか大変なことになってるじゃないの!!!」
「...へっ?」
「サマーリンゴだかウマーリーフだかメシウマだか何だか知らないけど、まずはそこの妖精!
とっととこの妖精たち連れて帰りなさいよ!
さもないと...」
「うわぁーっ! お姉さん遊んでくれるんだーっ!」
「覚悟しなさいよ!
痛い目に遭って氷精に泣きついても知らないわよ!」
平和な夏の霧の湖の昼下がり。
この頃、霊夢たちが異変の中核に迫らんとしていることなど、咲夜は知る由もなかったのであった。




