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X-3

 「持ち物を全て出せ」


 グレアムの低い声が、捕らえられた襲撃者たちを射抜いた。

 自然美推進協会の男たちは、口々に文句を言いながら、ローブの中身を床へぶちまけていく。小銭入れ、ハンカチ、パンフレット。出てくるのは、どれもありふれた物ばかりだった。


 フィーネが膝をつき、一つ一つを丁寧に確認していく。

 裏返し、中を開き、隅々まで目を通す。

 やがて顔を上げた彼女は、首を横に振った。


 「……ありません」

 「黄金のカツラは、どこにも」


 ロイスも別の襲撃者の荷物を調べていたが、結果は同じだった。

 ポケットの中、ローブの裏地、靴の奥。どこを探しても、何も出てこない。


 「お前たち、カツラをどこに隠した」


 ロイスが詰め寄る。

 声には、苛立ちが滲んでいた。


 「知らない」


 男は憮然とした顔で睨み返す。


 「俺たちは妨害が目的だ。盗む理由なんてない」

 「嘘をつくな」

 「本当だ!」


 男は拳を握りしめ、怒鳴った。


 「カツラなんて認めない。盗むくらいなら、燃やしてやりたいくらいだ!」


 その目に浮かんでいるのは怒りと、ほんの少しの困惑だった。

 グレアムはリーダー格の男を見つめ、指先にわずかに魔力を巡らせる。


 【精神感応】(テレパス)


 静かに、その思考へ触れる。

 偽りの反応はない。

 本当に、何も知らない。


 魔法を解き、グレアムは目を伏せた。


 「……彼らは関係ない」


 短く断じる。


 ロイスが驚いたように言葉を返した。


 「じゃあ、犯人は――」

 「ああ。怪盗ファントムはこの混乱に乗じて盗んだ。そして、まだこの会場内にいる」


 二人は視線を上げた。

 ローブ姿の集団が、会場のあちこちでざわついている。ひそひそと囁き合う声が漏れ、警備兵が出入り口を固めていた。誰も、外には出ていない。


 カツラは、どこへ消えたのか。

 場内に、重たい沈黙が落ちた。


 「しかし……」


 ロイスがぽつりと呟く。


 「ファントムは、なんでカツラなんか……? 宝石や絵画ならともかく、売り物にならないだろ」


 「素直にハゲてるからでしょう」


 フィーネが軽く肩をすくめた。


 「今ごろ、最高級のカツラを被って、鏡の前でうっとりしてるんじゃないですか?」


 「まさか……」


 ロイスは苦笑しかけて、止まった。

 脳裏に、稲妻のような閃きが走る。


 「グレアムさん」


 ロイスが真剣な顔で振り向いた。

 その目には、確信の光が宿っている。


 「もしかして……犯人は、自分でカツラを被っているのでは?」


 「何?」


 グレアムの視線が鋭さを取り戻す。


 「考えてみてください。カルヴァンの説明では、【染色】(カラーリング)の魔術で色を変えられると言っていました」


 ロイスは言葉を選びながらも、抑えきれない調子で続けた。


 「つまり、金色を茶色や黒に染めてしまえば、誰にも気づかれないんです。そのまま堂々と被っていたとしても」


 フィーネが不思議そうに言った。


 「でも、急に髪型が変わったら怪しまれません? さっきまでハゲだった人が、いきなりフサフサとか……」


 「それは、顔が見えてればの話だ」


 ロイスは会場のローブ集団を指差した。


 「あの人たちは最初からフードで頭を隠してた。元の髪型なんて誰も知らない。途中で被ったって、気づきようがない」


 グレアムは息を呑んだ。

 理にかなっている。

 フードで顔を隠す。それは「見せたくない」者の防衛策であり、同時に「隠したい」者にとっては絶好の隠れ蓑でもある。

 髪型の変化は、フードの下では誰にも気づかれない。【染色】(カラーリング)で色を変えれば、黄金のカツラは普通のカツラと区別がつかなくなる。


 完璧な偽装だ。


 「だが」


 グレアムは冷静に指摘する。


 「どうやって見分ける。外見だけでは、他のカツラと区別がつかない」


 その時、壇上のカルヴァンが駆け寄ってきた。

 顔色を変え、何かに縋るような表情を浮かべている。


 「刻印があります!」


 震える声。

 だが、その目には一筋の光が灯っていた。


 「『黄金の護り』の裏面には、ルミナス家の刻印が刻まれています。それで判別できます!」


 「……分かった」


 グレアムは頷き、フィーネとロイスに視線を向けた。


 「ローブ集団の検査を始める。カツラを被っている者は、裏面を確認しろ。ハゲも紛れてるだろうが、所詮ハゲだ。そいつらは所持品の検査だけでいい」


 「了解です!」


 二人が答える。


 フィーネとロイスは、ローブの集団に近づいた。

 会場の空気が、一瞬で張り詰める。ローブの人々が、明らかに身構えた。


 「すみません。身体検査をお願いします」


 ロイスが、できる限り丁寧な口調で告げる。

 だが――。


 「ふざけるな!」


 ローブの男が叫んだ。

 怒りに満ちた声だった。


 「なぜ我々が検査されなければならない! 我々は被害者だぞ!」


 「お願いします。カツラの裏面を確認させてください。ルミナス家の刻印があるかどうかだけです」


 「断る!」


 男は後ずさった。

 ローブの裾が翻る。周囲のローブの人々にも、動揺が波のように広がっていった。


 「私は何もしていない!」

 「検査など受けない!」

 「これは侮辱だ! 貴族への侮辱だぞ!」


 悲鳴に近い叫び声が、あちこちから上がる。

 怒声、抗議、悲鳴。

 感情の波が、会場の隅々にまで押し寄せていた。


 グレアムは理解した。

 この場にいるローブの集団は、皆が上流階級の人間だ。貴族、富豪、商人。カツラを買える財力を持つ者たち。

 そして彼らにとって、「カツラを被っていること」が露見するのは、社会的な死を意味する。

 地位の失墜。嘲笑。噂の拡散。

 だからこそ、彼らは必死に抵抗している。命がけで。


 だが、それでも捜査は止められない。


 「仕方ない」


 グレアムは冷徹に言った。

 感情を押し殺した声だった。


 「フィーネ、ロイス。強制執行だ」


 「……了解です」


 二人が頷く。

 ロイスの表情は、明らかに曇っていた。


 フィーネが最初の対象者に近づく。


 「すみません、ちょっと確認させてくださいね」


 落ち着いた声だった。

 笑顔さえ浮かべている。


 「やめろ! 触るな!」


 男が抵抗する。

 だが、フィーネはその腕を掴み、あっさりと動きを封じた。華奢な見た目とは裏腹に、男がどれだけもがいてもびくともしない。


 「いいじゃないですか、別に減るもんじゃないですし」


 フィーネは明るく言った。


 「減るんだよ! 社会的な何かが!」


 男の声が、悲鳴のように裏返る。


 「ロイスさん!」

 「……すまない」


 フィーネが声をかけると、ロイスが男の頭部に手を伸ばした。

 その手は、わずかに震えている。

 そして――カツラを、引き剥がした。


 「あああああッ!」


 男の悲鳴が会場に響く。

 その声は、魂を引き裂かれたかのようだった。

 下から現れたのは、光沢を放つハゲ頭。スポットライトを受け、つやつやと輝いている。

 男は両手で頭を覆い、その場にうずくまった。嗚咽が漏れる。


 会場のあちこちから、ざわめきが起こった。


 「あれは……ベルトラン商会の主人じゃないか!?」

 「嘘だろう……あの豊かな髪が偽物だったなんて……」

 「カツラだったのか!」


 驚愕の声、嘲笑、ささやき声。

 ローブの集団の中にも、動揺が広がる。

 明日は我が身だ。


 ロイスはカツラの裏面を確認した。

 裏地は上質な絹で、縫製も丁寧だ。だが、魔術刻印はどこにもない。

 ルミナス家特有の、複雑な幾何学模様は見当たらなかった。


 「……刻印なし」


 「次」


 グレアムが冷たく告げた。

 その声には、一切の感情がない。


 次の対象者。

 フィーネが押さえつけ、ロイスが剥がす。


 「やめろ! やめてくれ! 剥がれる!」

 「剥がれる髪なんて、もう残ってないじゃないですか」


 フィーネが首を傾げた。


 「カツラのことだ!」


 悲痛な叫び。

 だが、容赦はない。

 ロイスがカツラを外す。つやつやとしたハゲ頭が現れる。

 裏面を確認する。刻印はない。


 「……刻印なし」


 「ああ! あの人は……!」

 「グレゴリー伯爵!?」

 「いつも『我が家の男は代々、立派な髪に恵まれている』と自慢していたのに!」

 「全部嘘だったのか!」


 会場が、さらに騒然となる。

 嘲笑が混じり始めた。


 検査は続いた。

 三人目、四人目、五人目。

 会場にいる者たちは、恐怖と同情と、そしてどこか興奮した様子で、その光景を見つめていた。

 上流階級の秘密が暴かれる瞬間を、目撃している。

 ローブの集団は、互いに距離を取り始めた。次は自分かもしれない。その恐怖が、彼らを支配していた。


 もはや誰も抵抗しなかった。

 運命を受け入れたかのように、ただ俯いて順番を待っている。


 「頼む……もうやめてくれ……」


 ある男が涙声で懇願した。

 膝をつき、両手を合わせている。


 「娘に嫌われるんだ……ただでさえ最近は会話してくれないのに……これが知れたら、もう口も聞いてくれなくなる……」


 「大丈夫ですよ、娘さんはちゃんと見てくれてると思います」


 フィーネが明るく励ました。


 「お父さんの頭じゃなくて、心を」


 グレアムも止めなかった。


 「続けろ」


 冷徹な命令だった。

 次の男が引きずり出される。


 「待ってくれ! 息子が……息子がいるんだ!」


 男は必死に叫んだ。


 「あの子は俺を尊敬してくれている。『父さんみたいに立派な大人になりたい』って……これを知ったら、絶望してしまう!」


 だが、フィーネは笑顔のまま男を押さえつけた。


 「心配しないでください、息子さんはきっと強い子に育ちますよ!」


 検査は続いた。

 ロイスは淡々とカツラの裏面を確認し、刻印の有無を報告する。フィーネは笑顔で次の対象者を押さえる。


 「はい、次の方です。すぐ終わりますから、じっとしててくださいね!」


 明るい声だった。

 彼女にとって、これは与えられた職務を遂行しているだけなのだ。相手が絶望に顔を歪めていることなど、本気で理解していない。

 ハゲの悲しみが、彼女には分からないのだ。


    ◆


 次々とカツラが剥がされていく。

 会場は、もはや阿鼻叫喚だった。

 悲鳴、懇願、嗚咽。それらが、絶え間なく渦巻いている。


 フィーネがローブの男を押さえつける。


 「次の方、お願いします!」


 相変わらず明るい声だった。


 ロイスが男のフードに手をかけた、その時。

 何かが違う。

 フードの奥に見える顔。その顔に、見覚えがあった。


 ロイスの手が止まる。


 「……あなたは」


 声が強張った。


 男は、ゆっくりとフードを下ろした。

 その顔は――王国の宰相だった。


 会場の喧騒が、一瞬で途絶える。

 まるで時間が止まったかのように、誰もが息を呑み、その人物を見つめていた。


 宰相。

 王国の政治を司る、最高位の官僚。

 国王の側近であり、貴族たちの頂点に立つ人物。

 その人が、カツラの発表会に参加している。


 周囲のローブの人々が、後ずさった。

 何人かは、慌てて頭を下げる。


 「私はカツラではない」


 宰相が毅然とした声で言った。

 その顔には、侮辱されたという怒りが浮かんでいる。


 「検査など不要だ」


 その声には、圧倒的な威圧感があった。

 長年、権力の頂点に立ってきた者だけが持つ重みだ。


 グレアムが前に出た。


 「発表会に参加しておきながら、カツラではないと?」


 「その通りだ」


 宰相は顎を上げた。

 プライドを傷つけられた貴族のような態度だった。


 「私にはカツラなど必要ない」


 確かに、宰相の頭部には灰色の髪が見える。

 だが、それがカツラなのか本物なのか、外見だけでは判断できない。


 「ですが――」


 ロイスが言いかける。

 カツラではないのに、なぜこの場にいるのか。


 その時、横から声が割り込んだ。


 「その人は、本当に被ってませんよ」


 声の主は、グレアムが先ほど聴取した、ステインと名乗る少年だった。

 会場の隅で、ずっと様子を見ていたらしい。彼は腕を組み、壁に寄りかかっている。


 グレアムが鋭い視線を向けた。


 「……お前、何を言っている」


 「【隠形看破】(ピカー)で確認しました。その人は、カツラを被っていません」


 少年はあっさりと答えた。

 まるで、天気の話でもするかのように。


 ロイスが苛立ちを露わにした。


 「お前は誰だ? 捜査の妨害をするな」


 今まで積もり積もった疲労と、罪悪感と、焦燥感。

 それらが、声に滲み出ている。


 「部外者が口を出すな。黙って見ていろ」


 「本当のことですよ」


 少年は動じない。

 その目は、どこまでも冷静だった。


 「【隠形看破】(ピカー)は、対象の意識に干渉して、カツラを被っているか確認できる魔法です」


 「そんな魔法があるわけが――」

 「待て」


 言い返そうとしたロイスを、グレアムが制した。


 グレアムは【精神感応】(テレパス)を発動させる。

 少年の精神に触れ、その思考を探り、言葉を検証した。


 偽りはなかった。

 少年は本当に、宰相がカツラを被っていないと信じている。微塵の疑いもなく。

 そして、本当に【隠形看破】(ピカー)という魔法を使っている。


 グレアムは内心で舌を巻いた。

 帝国の魔法学校では、こんなふざけた魔法まで教えているのか。


 「……宰相の検査は不要だ」


 【精神感応】(テレパス)を解除する。


 「本当ですか?」


 ロイスが驚いた顔をする。


 「ああ」


 グレアムは首を横に振った。


 フィーネが首を傾げる。


 「でも、なぜハゲてないのに発表会に参加したんですか?」


 その素朴な疑問に、会場がざわめいた。

 誰もが同じ疑問を抱いている。


 宰相は一瞬、言葉に詰まった。


 「それは……」


 視線が揺れる。

 眉間に皺が寄る。

 何かを隠している表情だった。


 「……私的な理由だ。答える義務はない」


 そう言って、宰相は口を閉ざした。

 それ以上、何も語らない。


 グレアムは宰相の顔を見つめた。


 怪しい。

 だが、今は追及している時間はない。

 カツラを見つけるのが先だ。


 「……続けろ」


 その後も、検査は続いた。

 ローブの集団、全員。

 一人、また一人と、カツラが剥がされていく。悲鳴、懇願、嗚咽。それらが、会場を満たしていった。


 だが、黄金のカツラは出てこなかった。


 やがて、全ての検査が終わった。

 ついに、ローブの集団全員の検査が完了した。


 結果は、刻印なし。

 全員、ルミナス家の黄金カツラではなかった。


 会場は、疲弊しきっていた。

 次々と秘密を暴かれた上流階級の人々は、呆然と座り込んでいる。中には泣いている者もいた。顔を覆ってうずくまる者。虚空を見つめる者。

 ローブの集団からは、非難の声が上がった。


 「これで満足か!」

 「我々の尊厳を傷つけておいて、何も見つからなかったではないか!」

 「調査局の横暴だ! 国王陛下に訴えてやる!」

 「私の地位は……家族は……もう終わりだ……」


 怒号と絶望の声が、会場を満たす。


 ロイスが焦った様子で、グレアムに囁いた。


 「グレアムさん、どうします……」


 彼の顔は蒼白だった。

 これだけの人間を傷つけておいて、何も見つからなかったのだ。


 「ローブの集団には、なかった……」

 「……ローブ以外の人間に紛れているのかもしれない」


 ロイスは苦し紛れに言った。

 もう他に、手がない。


 フィーネが少年に駆け寄った。


 「ねえ、お願いがあるんですけど!」

 「何です?」


 少年は相変わらず、飄々としている。


 「その【隠形看破】(ピカー)で、カツラを被っているかもしれない人を全員検査してもらえませんか?」


 少年は少し考えてから、頷いた。


 「まあ、いいですよ」


 「待て」


 ロイスが制止しようとする。


 「民間人に捜査を手伝わせるわけには――それに、また無関係な人々を――」

 「仕方ない」


 グレアムが遮った。


 「現状、手詰まりだ。やってもらえ」


 ロイスは唇を噛んだ。

 だが、反論できない。


 少年は会場を見渡した。


 「分かりました。では――」


 彼は目を閉じ、両手を広げる。

 【隠形看破】(ピカー)が発動した。


 魔力が会場に広がっていく。

 目に見えない波が、一人一人を探っていく。

 やがて少年は静かに目を開けた。その瞳には、何かを見透かすような光が宿っている。


 「……あそこ」


 少年が警備員の一人を指差した。


 「カツラです」


 「え?」


 警備員が驚愕の声を上げる。


 「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は警備の――」


 だが、フィーネはすでに駆け寄っていた。


 「確認させてください!」


 フィーネがカツラを引き剥がす。

 光沢を放つハゲ頭が姿を現した。


 周囲の警備員たちが、言葉を失う。


 「……知らなかった」


 同僚の一人が呟いた。


 「五年も一緒に働いてたのに……」


 「……あそこも」


 少年がホテル長を指差す。


 「私はホテル長だぞ! このホテルで二十年も働いて……」


 だが、容赦はない。

 フィーネが近づき、カツラを外す。

 ホテル長は膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った。


 「……もう、ここでは働けない……」


 少年が次々と指差していく。

 警備員、従業員、宿泊客、商人。

 フィーネが駆け回り、カツラを剥がす。

 悲鳴、懇願、嗚咽。

 会場は、再び地獄のような光景と化していた。


 やがて、全ての検査が終わった。


 グレアムは会場を見渡した。

 疲弊しきった人々。傷ついた人々。絶望に沈む人々。


 もちろん、検査したのは人だけではない。

 ロイスとフィーネは、会場の隅々まで捜索していた。ソファの下、カーテンの裏、壇上の裏、廊下、控室。


 時間だけが過ぎていく。


 やがて、全ての捜索が終わった。


 結果は――何も見つからず。


 フィーネは肩を落としていた。


 「あんなに探したのに……何も見つからないなんて……」


 落ち込んだ声だった。

 いつもの明るさが消えている。


 ロイスも疲れ切った表情で呟いた。


 「そもそも、盗んだのは怪盗ファントムなんだろう?」


 彼は壁に寄りかかる。


 「予告状を出しておきながら、姿を見せない。一体どこに紛れ込んでいるんだ……」


 神出鬼没とは聞いていた。

 だが、ここまでとは。

 完全に手玉に取られている。


 その時。

 グレアムの脳裏に、一つの可能性が浮かんだ。


 カツラを被っている者は、全員検査した。

 物理的な捜索も、隅々まで行った。

 それでも見つからない。


 ということは――。


 「……そうか」


 グレアムが呟く。


 「可能性が見えた」


 「え?」


 ロイスとフィーネが振り返る。


 グレアムは会場を見渡した。

 その目には、確信の光が宿っていた。


 「俺の予想が正しければ、カツラも犯人も見つかるはずだ」


 ――出題編・了――

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