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18-1 売国帰還

 馬車が、小さく揺れた。


 窓の外に、見慣れた風景が流れていく。あの丘、あの川、そして──あの村。


 久しぶりの帰郷だった。懐かしさが胸を満たす──はずだった。


 だが、村の入口で馬車が止まった。

 僕は窓から顔を出す。


 村の入口には、王国軍の兵士が立っていた。槍を構え、険しい表情で往来を見張っている。二人、三人……いや、それだけではない。まるで検問のように、村へ続く道を封鎖していた。


 何があったんだ……?


 胸騒ぎがした。ミリーの手紙に書かれていた「大変」というのは、このことだったのだろうか。


 御者が馬を止めると、兵士の一人が近づいてきた。警戒した目で馬車を睨み、手を腰の剣に伸ばしかける。


「お前たち、何者だ」


 御者が、間髪入れずに答えた。


「こいつらの里帰りだ」


 僕とエイン君を指し示すと、兵士の手が剣から離れた。


 僕は慌てて馬車から降り、兵士に向き直る。


「あの、何があったんですか。村に何か──」


「お前たちに教えることはない。さっさと行け」


 兵士は、そっけなく僕の言葉を遮った。


 なおも質問を続けようとしたが、兵士の目は冷たい。これ以上聞いても、答えてくれそうになかった。

 僕は仕方なく馬車に戻る。御者が手綱を引き、馬車は再び動き出した。


 村の中に入った瞬間、僕は言葉を失った。


 通りを、兵士たちが我が物顔で闊歩している。民家の前に立って見張りをしている者。井戸端で水を汲んでいる者。店先の商品を勝手に物色している者。


 村人たちは、道の端で息を潜めるようにしていた。子供たちの姿は見えない。誰も兵士に近づこうとせず、声を上げる者もいない。


 まるで、村全体が占領されているようだった。


 一体、何が……。


 不安が胸の奥で膨らんでいく。

 僕は御者に頼み、とにかく実家まで急いでもらった。


 家に近づく。


 見慣れた我が家の扉。木の質感。取っ手についた小さな傷。何もかもが懐かしい。

 僕は馬車から飛び降りると、駆け寄ってドアを開けた。


「ただいま──」


 言いかけて、凍りつく。


 リビングに、見知らぬ兵士がいた。


 テーブルに足を投げ出し、まるで自分の家のようにくつろいでいる。床には空の酒瓶が転がり、母さんが大切にしていた花瓶は、部屋の隅に雑に置かれていた。


 兵士は僕を見ると、面倒くさそうに顔を上げる。


「あん? 誰だお前」


「え、いや、ここは僕の──」


 その時だった。


「お兄ちゃん!」


 背後から、ミリーの声がした。


 振り返ると、妹が家の外から駆け寄ってきた。満面の笑みを浮かべ、そのまま僕の腕にしがみつく。


「お兄ちゃん、来てくれたんだ! 手紙、ちゃんと届いた?」


「ミリー!」


 母さんの声がした。

 慌てた様子で駆けつけてきた母さんは、息を切らしながらミリーを止める。その後ろから、父さんも姿を現した。


 父さんは、深刻な表情で僕を見つめていた。


「フレッド……」


 その声には、責めるような響きはなかった。

 ただ、深い諦めと、悲しみが滲んでいた。


「どうして、戻ってきたんだ」


 その一言で、僕は理解した。


 村に、異変が起きている。

 兵士たちに、家が奪われている。

 そして父さんは、僕に戻ってきてほしくなかったのだ。


    ◆


 父さんに連れられて、僕たちは村長の家へ向かった。

 エイン君と御者も一緒だった。道中、エイン君は相変わらず呑気な様子で、特に何も言わない。周囲の異様な雰囲気など、まるで気にしていないかのようだった。


 村長の家に着くと、そこには既に何人もの村人が避難していた。狭い部屋に、何家族もが身を寄せ合っている。僕たちの家族も、今はここで暮らしているらしい。


 村長が、疲れ切った顔で僕たちを迎え入れてくれた。


「フレッド、よく来てくれた。……すまんのう」


「いえ、僕こそ、何も知らずに……」


 部屋の隅では、母さんがミリーを叱っていた。


「あなた、勝手に手紙を出すなんて……! フレッドに心配をかけて……!」


「だって! お兄ちゃん、魔法使えるもん! あいつら、ぜーんぶやっつけられるもん!」


 ミリーは聞く耳を持たない。


 僕は、たまらず口を開いた。


「それよりも、母さん」


 母さんが振り向く。


「いつもの手紙に『なんでもない』って書いてあったけど、どういうことなんだ。この村の状況は、一体……」


 父さんが、重い口を開いた。


「一ヶ月ほど前のことだ」


 父さんの説明を、僕は黙って聞いた。


 兵士たちが村に来たのは、一ヶ月前。兵糧の輸送拠点として協力するよう命じられたらしい。理由を聞いても、機密だとして詳しいことは教えてもらえない。


 水や生鮮食品は接収され、兵士たちは我が物顔で村を歩き回る。家まで奪われ、僕の家族はこうして村長の家に避難するしかなくなった。


「だが、お前に心配をかけるわけにもいかなかった」


 父さんは、疲れた顔で続ける。


「だから、いつも通りの手紙を出した。ミリーにも、そう書かせていた」


 だから、僕が戻ってきても仕方がない。


 その言葉が、胸に重くのしかかる。


 僕は、戻ってこない方がよかったのか……?


 その時、エイン君が口を開いた。


「さっき村に入った時に、兵士の心を【精神感応】(テレパス)で読み取ったんだけどさ」


 全員の視線が、エイン君に集まる。


「帝国との国境付近で、鉄鉱山が見つかったらしいぜ。だから王国軍が、急遽この村に来たんだと」


 一瞬、沈黙が落ちた。

 そして、一同が息を呑む。


 鉄鉱山。

 それはつまり、軍事的に重要な資源ということだ。


 御者が、低い声で呟いた。


「それは、まずいな……」


 間を置いて、さらに続ける。


「最悪、戦争になる」


 父さんの顔から、わずかに残っていた血の気が引いた。


 しばらくの沈黙の後、父さんは口を開いた。


「ひとまず、付き合ってくれたエイン君と御者さんには、礼を言う」


 父さんは、エイン君と御者に深く頭を下げる。


「本当に、ありがとう」


 そして、僕に向き直った。


「フレッド」


 父さんは一度言葉を切り、拳を握りしめた。

 震える声で、続ける。


「……ミリーだけでも連れて、できるだけ早く王都に帰ってくれないか」


「父さん……!」


「お前たちまで、こんな危険な場所に置いておけん」


 父さんの目は、揺るがなかった。


 御者が腕を組んだまま、静かに口を挟む。


「馬を休ませる必要がある。明後日には、出発できるだろう」


 父さんは頷いた。


「それまで、ゆっくりしていてくれ」


    ◆


 両親が別の部屋に移った後、ミリーが再び僕に駆け寄ってきた。


「ねえ、お兄ちゃん」


 小さな手が、僕の袖を掴む。


「お兄ちゃん、魔法学校で勉強してるんでしょ? ねえ、なんとかできるよね……?」


 改めて、妹が助けを求めてくる。


 僕は、答えられなかった。

 できる、とは言えない。だが、できない、とも言えない。


 なぜなら──あの時の光景を、思い出してしまったからだ。


 エイン君の魔法。

 あの、恐ろしいまでの力。

 盗賊団を一瞬で壊滅させた、あの魔法。


 エイン君の魔法なら……できる。


 僕は無意識に、エイン君を見ていた。


 その時、外から御者の声がした。


「フレッド」


 戻ってきた御者が、僕に声をかける。


「お前が何を考えているのか、大体予想はつく」


 御者の目は、真剣だった。


「だが、流石にやめといた方がいい」


「……」


「明確な攻撃を受けたとなれば、王国軍は帝国の仕業だと考える。本格的に戦力を投入してくるぞ。この村が戦場になる」


 御者の言葉が、胸に突き刺さる。


 そうだ。

 そんなことは、分かっている。


 でも──。


「どうにも、ならないんでしょうか……」


 自分でも分かるほど、声が震えていた。


「せいぜい──もっとでかい鉱山でも見つかるのを祈るんだな」


 御者は、皮肉混じりに笑った。


 もっとでかい鉱山。


 その言葉が、頭の中で引っかかった。

 いや、どこかで噛み合った。


 もし、本当に“でかい鉱山”があったなら?


「そうだ!」


 思わず、声を上げていた。


「エイン君、王都を出る前に話してたことだけど──」


 言いかけて、御者の目線に気づく。


 ここじゃ、まずい。


 僕はエイン君の腕を掴み、外へ連れ出した。


    ◆


 家の裏手。人目につかない場所まで来てから、僕は改めてエイン君に尋ねた。


「王都を出る前に、金貨を錬金してるって言ってたよね」


「ああ」


 エイン君が、何でもないことのように頷く。


「それで、盗賊に襲われた時にスクロールを差し出してたけど、あれ、他にも持ってるかな?」


「ああ、持ってるよ」


 エイン君は懐から、何枚かのスクロールを取り出した。


「手ぶらで来るのも悪いから、何枚か持ってきてた」


 もう、ツッコむ気力もない……。


 僕は深呼吸して、本題に入る。


「金貨じゃなくて……鉄を作れるように、できないかな?」


 エイン君は、一瞬きょとんとした顔をした。


 だが、数瞬遅れて、ぱっと顔が明るくなる。


「……ああ、なるほどな」


 口元が、にやりと歪んだ。


「面白ぇじゃん。やってみるか」


    ◆


 【実況】暇だからフレッドの故郷に遊びに行くぞ!part2


◇26:名無しの元引きこもり

 というわけで王国軍と交渉してくるンゴ


 27:名無しの転生者

 はえ~、フレッドくん賢い


 28:名無しの転生者

 確かに無限に鉄が生成できるなら鉱山とかいらんよな


 29:名無しの転生者

 贋金づくりの技術がこんなところで役立つとはね……


◇30:名無しの元引きこもり

 >>29

 どっちかつーと王国が作ったヤツのほうが偽物だろ

 フレッドといい、どうしてみんな理解してくれないんやろ……


 31:名無しの転生者

 お前は法律を理解しろ


 32:名無しの転生者

 つーかイッチも交渉に行くの?

 向いてなさそうな気がするけど


◇33:名無しの元引きこもり

 >>32

 そら交渉はフレッドに任せるけど

 開発者のワイもいなくちゃあかんやろ


 34:名無しの転生者

 変な職業倫理だけは持ってんのね


 35:名無しの転生者

 一般倫理をまず身に着けろよ


 36:名無しの転生者

 イッチが交渉に行ったらまとまるものもまとまらんやろ


◇37:名無しの元引きこもり

 そんな心配することある?

 喧嘩売りに行くんじゃないんやで

 ちゃんと相手も得する物持っていくんやから失敗なんかしないやろ


 38:名無しの転生者

 フラグやめろ

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