表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/80

15-2

「私の命令を聞きなさい」


 俺がそう告げると、エインは露骨に嫌そうな顔をした。


「え、やだよそんなの」


 ──直後。


「ッ゛……!」


 エインの体が跳ねた。喉の奥から濁ったうめきが漏れる。

 腕輪の機能が作動し、その肉体に罰を刻んだのだ。


 顔に浮かんだのは、紛れもない痛み。

 制御装置は、完璧に作動している。


 ……胸の奥で、高揚感が弾けた。


 長年、押し殺してきた感情。

 兄の背に隠れ、空気のように扱われ、誰の目にも留まらなかった俺が──今、他者を支配している。


 拒絶を力でねじ伏せ、意志を奪い、命令を従わせることができる。


 この瞬間こそが、

 俺という存在が、初めて“意味”を持った瞬間だった。


「大したことは命じませんよ。あなたの“ご専門”について、少し教えていただきたいだけです」


 なるべく穏やかに言ったつもりだった。だが、喉の奥から込み上げてくる笑いを押し殺すのに、少し苦労した。


 エインは苦痛に眉をひそめながら、無言のまま俺を睨み返してくる。

 だが、もう遅い。こいつには、俺に従う以外の道はない。


 この機を逃すわけにはいかなかった。

 計画が露見しないように。反抗の芽を摘むように。確実に縛りつけるために。


 俺は、命令を重ねていく。


 ──完璧だ。


 ここから始まる。

 俺の名が兄の影を裂き、この世界に刻まれる、その第一歩が。


    ◆


【悲報】元引きこもりワイ、第二王子に支配される


◇1:名無しの元引きこもり

 とりあえず報告します


 2:名無しの転生者

 してる場合か?


 3:名無しの転生者

 でも報連相ができるのは偉いよ


◇4:名無しの元引きこもり

 >>3

 ワイは教師という立派な社会人やからね


 5:名無しの転生者

 立派ではないだろ


 6:名無しの転生者

 そもそも第二王子って誰だよ


◇7:名無しの元引きこもり

 >>6

 第二なんだから第一王子の弟に決まってるやろ

 何故か腕輪の制御装置持ってて、「命令聞け」って命令してきたわ


 8:名無しの転生者

 命令の命令って随分ややこしいな


 9:名無しの転生者

 つまりイッチは第二王子の言いなりってこと?


◇10:名無しの元引きこもり

 >>9

 まあ、そういうことにはなるな。


 11:名無しの転生者

 ようするに奴隷ってことやんけ、落ち着いてる場合ちゃうやろ


 ◇12:名無しの元引きこもり

 >>11

 まあ、慌ててもしゃあないし、今んとこ実害もないからなぁ


 13:名無しの転生者

 だとしても自由奪われるの嫌だろ


◇14:名無しの元引きこもり

 >>13

 いや、体面上は第二王子の個人授業してることになってるんよ。

 おかげで授業出なくてよくなったから、むしろめっちゃ自由なんだわ。

 支配してくれてありがとう! 第二王子!


 15:名無しの転生者

 えぇ……


 16:名無しの転生者

 支配する側とされる側の利害が一致することなんてあるんだ


    ◆


 貴族寮の廊下で、俺たちは兄上と鉢合わせた。


「ルークか……それに、エイン」


 兄上の声は、いつものように威厳に満ちていた。

 その一言だけで、周囲の生徒たちは何も言われぬまま自然と道を空ける。まるで、それが当然の作法であるかのように。


 またか、と思う。


 ただそこに立っているだけで場を支配する男。

 生まれながらの王──誰もがそう信じて疑わない男。


 だからこそ、癪に障る。


「やあベイル。久しぶり」


 エインが気楽に手を振った。

 俺の“支配下”にあるはずの男は、先ほどとまるで変わらぬ呑気さだった。

 こいつは本当に、危機感というものが欠けているのか。


 兄上の眉がわずかに動く。


「教師として舞い戻ったとは聞いていたが……随分と、強かなやつだ」


 そして、その視線が俺へと移る。


 その目は、昔から何一つ変わらない。

 王として、兄として、当然のようにすべてを見下ろす眼差し。


「ルークよ。エインと随分と親しそうだな。……何を企んでいる?」


 俺は口元に微笑を浮かべた。

 もう怯えはしない。今の俺には、“切り札”がある。


「何もありませんよ、兄上」


 短く、正確に答える。


 兄上は一瞬だけ黙し、それからわずかに顔を曇らせた。


「……そうか」


 そのまま何も言わず、背を向けて去っていく。


 遠ざかる背中を、俺はじっと見送った。


 ──あの背を、もうすぐ見下ろす日が来る。


 そう思っただけで、腹の底が熱く滾った。

 心の奥から、ぞくりとするような悦びがせり上がってくる。


    ◆


 兄上が視界から消えると、エインが気だるげに問いかけてきた。


「で、あんたは俺に何をやらせたいわけ? まさか本気で個人授業してほしいなんて言わないよな」


 支配下にあるくせに、まるで緊張感がない。

 だが、今の俺にはむしろ好都合だった。

 誰かに話したかったのだ──この、完璧な計画を。


「あなたには、敵対派閥の人間を鞍替えさせてほしい。……お得意の精神魔法でね」


 静かにそう告げる。

 ベイル派、カイル派。そのどちらに手を伸ばすにも、“反則アイテム”が必要だった。


 エインは不服そうに眉をひそめた。


「いや別に、精神魔法だけ得意ってわけじゃないんだけどな」


「そう言いながら、誰よりも巧みに使いこなしている。聞いてますよ、あれこれと」


 俺は薄く笑う。

 そして思い出す。

 この男が現れた、あの“運命の入学式”を──


「あなたが入学したとき、好機だと思いました。兄上と因縁を持ったあなたを使えば、奴を蹴落とせると」


 あの瞬間に閃いた構想と、そのとき胸を貫いた高揚は、今でも鮮明に脳裏に焼きついている。


「……兄上があなたに敵意を抱いた直後、私はすぐに接触しました。精神魔法で、無意識に憎悪を煽るよう、ささやかな暗示をかけたのです」


 その記憶を語るだけで、自然と笑みがこぼれた。


「セレナとのお茶会に鉢合わせたのも、決闘で兄上が焦ったのも──すべて、私の誘導の結果です。年下の、しかも平民相手に感情的に挑んで苦戦するだけでも、彼の評判は落ちる。ましてや、あなたに敗北したことは想定以上の大戦果でしたよ」


 俺は静かに言った。


「……あなたには、感謝しています」


「いや、そんな感謝いらねーよ」


 エインは顔をしかめ、露骨に不快感をにじませた。


「つーか、お前も精神魔法使えるなら、最初からベイルだけ洗脳すればいいだろ」


 あまりに率直な物言いに、俺の笑みは苦く歪んだ。


「……私の力では、そこまではできません」


 それは、認めたくない現実だった。

 俺の精神魔法は、せいぜい感情の誘導や微細な暗示が限界だ。

 エインのように、“精神そのもの”を握り潰すような規格外の力は持ち合わせていない。


「それに、王族が突然豹変すれば、周囲が放っておくはずがない。詮索されれば、私も終わりです」


(だが、本当の理由は……それだけではない)


 心の奥で、暗い熱がじわりと滲む。


(兄上には、正気のまま屈してもらわなければ意味がない。

 洗脳された忠誠など、真の勝利ではない。

 己の意志で、俺に膝をつく──

 その姿を、どうしても見たいのだ)


「だからこそ、あなたが必要なのです」


    ◆


◇30:名無しの元引きこもり

 ヒエ~ッw

 第二王子が敵対派閥の人間を洗脳するよう命令してきおったw

 外道すぎて草


 31:名無しの転生者

 ブーメランぶっ刺さってますよ


 32:名無しの転生者

 まぁ、イッチを支配したらそう使うしかないよね


 33:名無しの転生者

 政争で使えばガチでチートだしな


◇34:名無しの元引きこもり

 ワイはこんなことしたくないのになぁ

 でも第一王子が言うんだからしかたないよね


 35:名無しの転生者

 おっそうだな


 36:名無しの転生者

 普段から言われなくてもやってるくせに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ