12-2
【朗報】元引きこもりワイ、就職する
◇1:名無しの元引きこもり
これでもうニートとは言わせないぜ
2:名無しの転生者
よかおめ
3:名無しの転生者
やったやん、何の仕事?
4:名無しの転生者
ヒモは仕事とは言わないぞ
◇5:名無しの元引きこもり
>>3
魔法学校の先生やで。
ワイにぴったりの仕事やろ?
6:名無しの転生者
嘘でしょ?
7:名無しの転生者
退学になった学校の教師になるとか意味不明すぎる
8:名無しの転生者
まだヒモのほうがいいだろ
9:名無しの転生者
素行不良で追い出されたのにそいつを教師に採用っておかしいだろ
◇10:名無しの元引きこもり
>>9
でも新校長はワイみたいな才能がほしいって言ってくれたよ。
採用試験でも便宜図ってくれるって、見る目あるなぁ。
11:名無しの転生者
節穴しか無いぞ
12:名無しの転生者
細工してまでこんな奴欲しがるとか絶対正気じゃない
13:名無しの転生者
自爆しか出来ない核弾頭を抱えて何がしたいんだよそいつは
14:名無しの転生者
いつから働くの?
◇15:名無しの元引きこもり
>>14
このあと試験があるんだけど、それ通ったら正式採用らしい。
まぁ形式だけっぽいし、もう内定も同然だな!
16:名無しの転生者
ほんとぉ?
17:名無しの転生者
つーか他の教師達は何やってんだよ、誰か反対しろよ
18:名無しの転生者
もう終わりだよこの学校
◆
翌朝。
学校の職員会議室は、息苦しいほどの沈黙に沈んでいた。
新校長として、ギルバートが淡々と議題を進めていく。だが、レオナルドを慕う古参の教師たちは、返事ひとつ寄越さない。相槌もなければ、うなずきもない。ただ冷えた視線だけが、卓を挟んでまっすぐ突き刺さっていた。
(忌々しい老害どもめ……)
内心で毒づきながら、ギルバートが次の議題へ移ろうとした、その時だった。
ノックもなく、会議室の扉がすっと開いた。
「おはようございまーす。お忙しいところすみませーん」
場違いなほど気の抜けた声とともに、ひょいと顔を覗かせたのは──エインだった。
教師たちの視線が、一斉に入口へ吸い寄せられる。
「いやー、昨日こちらのギルバート校長に採用していただいたので、僭越ながらご挨拶を。今後は“同僚”として、よろしくお願いしますね!」
にこやかな笑顔に、見本のように丁寧な一礼までつく。
だが、その一言は、静まり返った職員会議という名の火薬庫に、火のついた松明を投げ込むに等しかった。
……沈黙。
最初に爆発したのは、ハーゲンだった。
「さ、採用だとぉ!? 貴様が、教師だとぉ!? ふざけるなあああああああ!!」
「ギルバート校長!」
スザンナが鋭く声を発する。
「これは一体どういうことです!? なぜ、私たちは一言も聞かされていないのですか!」
ギルバートの顔から、みるみる血の気が引いていく。
(な、なぜ今ここで言う!? 黙っていれば済んだ話だろうがァ……! 貴様、口をつぐむという言葉を知らんのか!!)
「あれっ、もしかして今って会議中でした? お忙しいようですので、また改めてご挨拶に伺いますね!」
エインは、自分が投げ込んだ爆弾に気づく様子もなく、ぺこりと頭を下げると、そのまますたすたと退場していった。
バタン。
扉の閉まる音だけが、妙に重く響く。
残された教師たちの冷え切った視線が、今度はギルバートただ一人へと注がれた。
「……さて」
レオナルドが、静かに口を開く。
「ギルバート校長。どうやら、ご説明いただかねばならないようですな」
会議室の空気が、さらに一段冷え込む。
「そ、それは……彼の才能を、私が正当に評価したまでで……」
ギルバートは言い淀みながらも、どうにか体裁を取り繕おうとする。
だが、レオナルドの鋭い眼差しは、その薄っぺらな言い訳ごと見透かしていた。
「……では、彼に本当に“教師としての資格”があるかどうか、皆の前で証明してもらいましょう」
細められた目が、まっすぐギルバートを射抜く。
「──たとえば、“公開採用試験”などで」
「ぐっ……!」
ギルバートは言葉を失った。
ここで否定すれば、かえって後ろ暗さを認めるようなものだ。もはや逃げ道はない。
唇を噛み、脂汗をにじませた末に、彼はようやく絞り出す。
「……よろしい。ならば試験で──彼の“教師としての資格”を、決めようではないか」
◆
講堂の空気は、氷のように冷たく張り詰めていた。
舞台中央には椅子が一つ。
その両脇には、無言の威圧を放つ警備兵が二人、直立不動で控えている。
さらに舞台を見下ろす位置には、十数名の教師たちが半円を描くように並んでいた。その中央に立つギルバートの顔は、隠しきれない苛立ちで歪んでいる。
(忌々しい……! だが、もう後には引けん。こうなっては、あの小僧に実力で連中をねじ伏せてもらうしかない……!)
ギルバートが己を鼓舞した、その時だった。
講堂の扉が開き、当の本人であるエインが、いつもの気の抜けた様子で入ってくる。
姿を見せた瞬間、講堂にいる教師全員の視線が、獲物を値踏みするように彼へ突き刺さった。
エインはそのまま舞台中央まで歩いてくると、ずらりと並んだ、あまりにも物々しい試験官たちの顔ぶれを見渡した。レオナルドをはじめとした面々を認めた瞬間、その目がほんのわずかに揺れる。
──約束と違う、という顔だった。
重苦しい沈黙の中、誰よりも先に動いたのは、スザンナだった。
彼女は静かに立ち上がると、指先で魔法陣を描くような仕草を見せる。
「【精神防壁】、【防壁】」
二つの短い詠唱。
すると、舞台上のエインを除く試験官全員の身体が、ごく薄い二層の魔力の膜に覆われた。
エインが、不思議そうに首を傾げる。
「……今の、何です? 襲撃が入る予定でもあるんですか?」
スザンナは表情ひとつ変えず、短く答えた。
「念の為です」
エインは「はぁ……」とだけ呟くと、特に気にした様子もなく椅子に腰を下ろした。
背もたれに軽くもたれかかり、リラックスした様子で周囲を見渡している。
試験官の咳払いが、静寂を割った。
「──それでは、これより“採用試験”を開始します」
◆
◇29:名無しの元引きこもり
なぁ……試験の面子が聞いてたのと違うんやけど……
元校長とかハゲ教授とかいるんやが
30:名無しの転生者
あっ…(察し)
31:名無しの転生者
他の教師達から横槍が入った感じか?
32:名無しの転生者
こいつを教師にしようなんて凶行が許されるはず無いからな
◇33:名無しの元引きこもり
あとなぜか、裁判で味方だった教授が【精神防壁】と【防壁】張り始めた、なんで?
34:名無しの転生者
教授グッジョブ!
35:名無しの転生者
完全に警戒されてて草
36:名無しの転生者
そらあの裁判見てたらガード固めるしかないやろ
◇37:名無しの元引きこもり
おかしいな……ちゃんと事前に挨拶して回ったのに……
……あれ? もしかして新校長以外、全員敵?
38:名無しの転生者
敵はお前だよ
39:名無しの転生者
退学になった生徒が同僚の教師として挨拶しに来るのホラーすぎる
40:名無しの転生者
公共の敵を受け入れたいやつがどこにいるんだよ
◇41:名無しの元引きこもり
なんか歓迎されてないみたいやけど、試験さえ通れば問題ないやろ!
魔法系統の問題なら得意やし、それ以外も|【精神感応】で思考読み取ってそのまま返すだけで良いしな。
42:名無しの転生者
良くないが
43:名無しの転生者
カンニングしてる時点で問題おおありだろ
44:名無しの転生者
ん?【精神防壁】張られてるなら通らないんじゃないの?
◇45:名無しの元引きこもり
>>44
【精神感応】は|【隠形看破】と同じで探知系の魔法や、
精神を攻撃するわけではないから防御魔法には引っかからない。
46:名無しの転生者
せっかく警戒してたのに無駄に……
47:名無しの転生者
でもまぁ、洗脳されるのを防げただけで僥倖やろ
◇48:名無しの元引きこもり
ワイのこと危険人物だと思ってる?
そんな野蛮なことするわけ無いじゃん。
49:名無しの転生者
してただろ
◆
淡々とした声が、張り詰めた空気の中に響き渡った。
「それでは、これより採用試験を始めます」
張り詰めた沈黙の中、試験官の一人が咳払いをして口を開いた。
「第一問。複数層の魔法陣を同時に展開する際、構造干渉を回避するための最適な階層分離処理手順を、原理ごと述べよ」
露骨に意地の悪い、専門的な問いだった。
エインをなんとか教職に就かせまいとする教師たちが用意した、極めて高度な問題である。
だが、エインは何のためらいもなく口を開いた。
「これは基本ですね。まず第一階層は流入制御に特化して、空間座標の位相を非同期に保つんです。第二階層では重複領域の干渉が──」
その答えは、模範解答より一段深く、実践と応用を前提に組み立てられた理論展開だった。
思わず手元の採点表を見直す教師までいる。
そこから先も、エインは魔力制御理論、召喚術体系、封印構築法など、次々と繰り出される高度な専門問題に一切つまずくことなく答えていった。
どの問いにも即答し、ときに模範解答を踏み台にするような独自の視点まで差し込んでみせる。
講堂には、抑えきれないどよめきが広がった。
ギルバートの口元にだけ、わずかに満足げな笑みが浮かぶ。
続いて口を開いたのは、スザンナだった。
今度の問いは、魔法とは無関係な、社会制度や常識に関わる内容だった。
「では質問です。現王政の官僚制における三層構造──すなわち宰相府・宮内庁・大審問所の役割と、それぞれが歴史上に果たした変遷を簡潔に説明してください」
エインの表情が一瞬だけ曇る。
だがすぐに落ち着きを取り戻し、「ふむ、良い質問ですね」と、時間を稼ぐように呟いた。
その直後、コンマ数秒だけ、彼の視線が吸い込まれるようにスザンナの目へ注がれる。
そして──何事もなかったかのように、彼は淀みなく答え始めた。
「はい。まず現在の役割から申し上げます。宰相府は国王の代理として行政全般を担う、事実上の国家運営機関で──」
スザンナは、内心で舌を巻いていた。
(この内容……専門家でも即答できるとは思えないのに)
その後もエインは、魔法理論も、法律も、歴史も、問われるたびに迷いなく答えていった。
どの分野に話が飛んでも破綻しないその応答に、先ほどまで敵意を隠さなかった教師たちでさえ、次第に口を閉ざしていく。
だが、レオナルドだけが、その完璧な応答の中に、明確な違和感を感じ取っていた。
(……おかしい。専門分野が広すぎる。そして、あの“間”……専門外の問いに答える直前の、コンマ数秒の視線の動き。あれは思考の間ではない。まるで、答えを“探しに”行っているような……)
その不気味な仮説が、レオナルドの背筋を冷たくさせた。\nこの少年は、我々の知らない“何か”を使っている──。
だとすれば、ここで試すべきことは一つしかない。\n\nレオナルドは、穏やかな笑みを浮かべたまま静かに口を開いた。
「……よろしい。では、次の質問の前に、少々趣向を変えて、私から一つ」
レオナルドは穏やかな表情を崩さぬまま、正面に座るエインをじっと見据えた。
「今、私が頭の中で思い浮かべている、“とある言葉”とは何ですかな?」
一見して意味のわからないその問いに、教師たちは一様に訝しげな表情を浮かべる。
だがエインは、疑問を抱く間もなく、反射的に答えてしまった。
「ちくわだいみょ──」
そこまで言いかけて、エインはハッと息を呑んだ。
目の前のレオナルドが、罠を仕掛けた狩人のような、冷たい笑みを浮かべていたからだ。
「……っ!? い、いえ、その……ちくわは、美味しいですよね、という話です!」
講堂の空気が、すっと冷えた。
レオナルドはその言い訳に取り合うことなく、最後の、そして本当の質問を投げかける。
「……では、最後の質問です、エイン君」
レオナルドは、まっすぐに彼の目を見据えた。
「あなたにとって……『教育』とは、いったい何ですかな?」
その瞬間、エインの表情が変わった。
余裕は跡形もなく消え、代わりに浮かび上がったのは、純然たる困惑だった。
まるで初めて聞く単語の意味を、その場で無理やり噛み砕こうとするかのように、エインはただ固まる。
額に、一筋の冷や汗が伝った。
講堂は、重たい沈黙に支配されていた。




