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23-1 ヤバイリトルボーイ ~トモダチは外法~

 帝国、帝都。


 帝国軍将軍ヴォルフ・アイゼンフェルトの屋敷は、貴族の邸宅というより、軍の施設に近かった。

 壁に掛けられているのは、花や風景画ではなく、軍旗と古い戦場図。広い廊下には、使用人の足音よりも、武装した兵の靴音の方がよく似合う。屋敷の奥にある執務室もまた同じで、重厚な机の上には茶器ではなく、軍務書類の束が積まれていた。


 その机の向こうで、ヴォルフは書類に目を通していた。

 短く整えられた黒髪には白いものが混じり、顔には古い傷がある。軍服の肩に輝く階級章は、ここがアイゼンフェルト家の屋敷である以前に、帝国軍将軍の執務室であることを示していた。


 そこへ、扉がいつもより少し乱暴に開かれる。

 入ってきたのは、一人の少年だった。


 少年は、扉を開けた勢いのまま踏み込んでくることはしなかった。部屋に入ると、ヴォルフの机の前で背筋を伸ばし、口を閉ざす。整った顔立ちには怒りが浮かんでいたが、それを声にすることだけは、どうにか押しとどめているようだった。


 ヴォルフは顔を上げない。

 書類の末尾まで目を通し、署名を済ませ、羽ペンを置く。そこまで終えてから、ようやく短く言った。


「扉は閉めろ」


 少年の眉が、わずかに動いた。

 だが、反論はしない。振り返って扉を閉める。廊下の気配が遮断されると、執務室には紙の擦れる音と、二人分の呼吸だけが残った。


「授業中の時間ではなかったか」


「承知の上です」


「なら、よほどの用件だな」


「父上」


 その呼び方だけで、少年がただの来客ではないことは分かる。

 ジーク・アイゼンフェルト。ヴォルフの息子であり、帝都魔法学校一年の首席である。


 その肩書きにふさわしく、机の前まで進んでも姿勢は崩れなかった。だが、抑えた声の奥には、はっきりとした怒りがあった。


「対抗戦の代表を外したのは、父上ですか」


「そうだ」


 ヴォルフはあっさり認めた。

 言い訳も、前置きもない。その返答の短さが、かえってジークの顔を強張らせる。


「……理由を聞かせてください」


「座れ」


「結構です」


 ヴォルフは、それ以上勧めなかった。息子の顔を一瞥し、背もたれに身を預ける。


「お前は、代表の選出基準を知っているな?」


「ええ。代表は、各学年で最も優秀な生徒が務めるべきです。そして、帝都魔法学校一年で最も優秀なのは俺です」


 傲慢な言葉だった。

 だが、根拠のない虚勢ではない。帝都魔法学校は、家名だけで首席に立てる場所ではなかった。ジークは実技でも座学でも結果を出してきたし、訓練場で積み上げてきた勝利も、代表にふさわしいのは自分だと示している。


 だからこそ、納得できなかった。


 ヴォルフは息子の言葉を最後まで聞いた。

 そして、何のためらいもなく答える。


「理由は、まさにお前が言ったとおりだ」


「……どういう意味ですか」


「代表は、最も優秀な生徒が務める。そして、帝都魔法学校には、お前より優秀な一年生がいる」


 ジークの表情が固まった。

 怒りが、別のものへ変わる。理解できない、という顔だった。


「そんな者はいません。俺は一年の生徒を全員知っています。実技でも、座学でも、模擬戦でも、俺より上の成績を取った者はいない」


「王国への留学生を除いてな」


 ジークは一瞬、言葉を失った。


「留学生……? そんな生徒はいません!」


「お前が知らないのも無理はない。そいつは一度も学校には来ていないし、授業も受けていない。そもそも、実際には王国の人間だからな」


「……王国の?」


「だが、そいつは帝都魔法学校の一年生で、卒業までの単位を取得済み。今は王立魔法学校に留学中。そういうことになっている」


 説明されればされるほど、意味が分からない。

 ジークの顔に浮かんだのは困惑ではなく、侮辱された者の怒りだった。


「ふざけないでください!」


「ふざけてはいない。大真面目だ」


「父上もご存じのはずです。対抗戦は、ただの学内試合ではありません。王国、帝国、聖教国、共和国――四か国の魔法学校から代表が集まり、学年ごとに競う行事です」


 ジークの拳が固く握られた。


「そこでの勝敗は、そのまま各国の魔法教育の水準として見られる。帝国の一年代表とは、帝国の同世代を背負う立場です」


 ジークは、机越しに父を睨んだ。


「その席に、実際には王国の人間を立てるのですか」


「そうなるな」


「国の面子がかかっているのですよ!」


「そいつを引き入れることは、国の面子以上に価値がある。皇帝陛下もそうお考えだ」


「っ! 納得できません!」


「だろうな」


「だろうな、ではありません。俺は理由を聞いているのです。そもそも、俺が積み上げてきた成績を、どこの誰とも分からないやつが、書類上の扱いだけで上回ったなど、納得できるはずがないでしょう!」


 声が荒れた。

 それでも、ジークは踏みとどまっていた。机を叩くことも、父に詰め寄ることもしない。ただ、真っ直ぐにヴォルフを見ている。


 ヴォルフは、その視線を受けても表情を変えなかった。


「なら、確かめてこい」


「……確かめる?」


「王国へ行き、そいつに勝て。勝てば代表に戻してやる」


 ジークの怒りが、わずかに形を変えた。

 屈辱は消えない。むしろ深くなった。だが、勝てば戻すと言われた以上、ここで抗議を続けるより早い道がある。


 証明すればいい。

 自分が、その得体の知れない留学生より上だと。


「……勝てばいいのですね」


「そうだ」


 ジークは低く息を吐いた。

 ヴォルフは、それ以上この件を説明するつもりはないようだった。


 話は終わりだとでも言うように、机の引き出しを開ける。

 中から取り出したのは、小さな箱だった。


 黒革張りで、余計な装飾はない。ただ、蓋には帝国軍の紋章が刻まれている。

 ヴォルフはそれを机の上へ置いた。


「ついでだ。これを、その留学生に渡してこい」


 ジークは箱を見下ろす。

 代表の話は終わったはずだった。だが、父の口ぶりは、この箱こそが本題の続きであるかのように淡々としていた。


「……何ですか」


「開けろ」


 言われた通りに蓋を開く。

 中には、小さな水晶が収められていた。透明な石の内側に淡い光が揺れ、その奥で細い魔法陣が幾重にも重なっている。手に取る前から、ただの飾り物ではないことだけは分かった。


「緊急用の転移魔道具だ。使い切りだが、一度だけこの屋敷へ飛べる」


「これは……相当高価な品でしょう。なぜ、そんなものを渡す必要があるのですか」


 代表を奪った相手に勝てと言われるだけでも不愉快だった。

 そのうえ、父はその相手に、アイゼンフェルト家へ直接逃げ込むための魔道具まで渡そうとしている。


 ジークには、その意図が読めなかった。


「用途だけ伝えて渡せ。遅かれ早かれ、あいつは王国にいられなくなる」


 断定だった。

 予想というより、戦況を読む時の口調に近い。


「何か知っているのですか」


「何も」


 ヴォルフは、迷いなく答えた。


「だが、ああいう手合いは間違いなくそうなる」


    ◆


【悲報】王国臣民ワイ、なぜか帝国民として戦うことに


◇1:名無しの元引きこもり

 助けて


 2:名無しの転生者

 出たわね


 3:名無しの転生者

 こいついつも助け求めてんな


 4:名無しの転生者

 おいイッチ! そんな事言ってる場合じゃないぞ! 大変なことが起きた!


 5:名無しの転生者

 何だ急に


 6:名無しの転生者

 そもそもイッチのスレだぞこれ

 お前が大変でもスレチだろ


 7:名無しの転生者

 それがスレチじゃないんだよ!

 俺達全員に関係あることだ!


 8:名無しの転生者

 だからなにが起きたんだよ、さっさと言え


 9:名無しの転生者

 俺のチートスキルは、地球の品物をなんでも購入できる【ネットスーパー】なんだが、

 この間、とんでもない商品を見つけちまったんだ! これを見てくれ!

 https://www.kadokawa.co.jp/product/322602000186/


 10:名無しの転生者

 なにこれ、TDNラノベじゃん


 11:名無しの転生者

 見覚えのあるタイトルだな


 12:名無しの転生者

 表紙の女の子かわいい


 14:名無しの転生者

 これがどうしたの?


◇15:名無しの元引きこもり

 ちょっと待ってくれ! この本! 俺が写ってるぞ!?

 友達も一緒に写ってる!


 16:名無しの転生者

 ファッ!?


 17:名無しの転生者

 うそやろ!?


 18:名無しの転生者

 やっぱりそうか……

 どっかで見たことある内容だと思ったんだが、やっぱりイッチのスレが本になってたのか


 19:名無しの転生者

 それってつまり、ワイらの書き込みが本になるってコト!?


 20:名無しの転生者

 世も末だな


◇21:名無しの元引きこもり

 というかワイの許可取ってないのに何で勝手に出版してるんや!?

 著作権と人格権の侵害やぞ!


 22:名無しの転生者

 お前が言える立場か?


 23:名無しの転生者

 普段から人権侵害ばかりしてるくせに

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