表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

 静かな朝が明けた。

 雪の積もった庭や、森の木々が庭から見える。


 昨日の夜遅くに魔導師様はご帰宅されて、机で何か調べものをされていたようだけれど、ユイは眠くて目を開けられなかった。


「おはようございます!」


 長椅子でお休みになっていると思っていた魔導師様の姿は、すでに窓辺にあった。


 寝ていないのかな?


 ちらりとこちらを見て下さった魔導師様の綺麗な蒼い瞳は、やさしい光を宿している気がした。


 淡い白金の髪が、朝の光と雪の反射で鈍く輝いている。灰色の長衣のゆるく波打つ裾でさえ、なぜかとても素敵に見える。


 すこし長く見てしまったのか、魔導師様は眉あたりだけに怪訝そうな影をのせて、もう一度ユイの方に目を向けてきた。


「いま、スープを……」


 泣きたい気分で、スープ皿を取りに一階に飛んでいく。


 ずっとユイは魔導師様が好きで、一緒に暮らしていることが夢みたいに感じることがある。毎日がとても静かで、単調と言えば単調なのに、魔導師様のお手伝いは多岐にわたるようになり、ユイも勉強をしないと追いつけない。


 それはもう一生懸命だ。薬を作るのはユイの得意技にしたい。だから、薬草を覚えるのがとても楽しい。間違えると大変なことになるし。

 


 一番最初は、魔導師様の邪魔にならないのがユイの大切なことだった。


「庭に行ってくるといい」

「煩い」

「……(ため息)」


 魔導師様と一緒に暮らすようになって、よく言われるようになった。静かにしているつもりなのに、ユイは居るだけで邪魔になってしまうのだ。


 何をどうしたらいいか分からず、沈んでいると、沈黙の魔導師様は、ほんのりとだけ優しさをにじませて、頭を撫でてくれたりした。


 何が煩いのか分かったのは、お手伝いをするようになるずっと前だ。


 魔導師様は、ユイの心の中の声が五月蠅かったのだ。黙っているとか、静かにしているとか、音を立てる煩さではなくて、視線とか、声なき声がダメなのだ。


 今では、ユイはずっと同じ部屋にいても大丈夫。ユイの心のなかは、魔導師様のお手伝いをする気持ちと、薬で助かる人たちのために勉強することだけで占められている。魔導師様には、ユイの心の声は煩く感じられないらしい。


「だって……」


――きれいだったんだもん。


 スープを温めながら、朝の光の中に佇む魔導師様の端正な顔を思い出す。ユイは思わず、満足のため息をついた。


 窓をちらりと見ると、雪が舞い散っていた。


「晴れだと思ったのにな」


 降るかもしれない。今日も薬草は採りには行かれない。


「おまじないの練習でもしようかな」


 たぶん魔導師様は、外出されるだろう。ユイは一人で待っ

ているのだ。大きな邸には、魔導師様が作られる魔法のメイドがたまにいるだけで、メイドさんは全然話をしない。


「なにをしようかな」


 温まったスープを皿にたっぷりと入れると、ユイは二階の書斎に持って行く。


「お待たせいたしました」


 湯気をあげるスープとパンをサイドテーブルに置くと、魔導師様は黙ってユイのソファの反対にあるソファに座った。

お祈りののち、スプーンを持つ。


 すこしだけドキドキしながら、魔導師様の口元をうかがう。大丈夫、不味くはなかったみたい。


「おいしいですか?」


 澄んだ蒼い瞳がユイに向けられる。


「……おいしい」


 低くて静かな声が降ってくる。表情は全然変わらないが、……おいしいって。


「よかったぁ!」


 煮込みがよかったのだろうか。


 隠し味にしていた、ひと欠片の乾燥したお肉がよかったのかもしれない。


 ユイもスープに口をつけた。


 ――美味しい!!なんで?どうしてこんなに美味しくできたんだろう?


「薬草を入れたのだな、体が温まる」


 魔導師様の言葉にユイは、目を丸くするしかない。確かに入れた……、でも、よくわかったなぁ。さすが魔導師様、としか言えない。


「今日はおかしいな、どうした?」


「え……?あの、朝の光が綺麗だったから……」


 かすかに首をかしげた魔導師は、雪の降る窓へと目を走らせてから、もう気にしてないかのように目をテーブルに戻した。


 だが、ユイには話しかけてくれた、優しい魔導師様が残った。いつも表情もない、言葉少ない魔導師様の声が、ユイを気にかけてくれたのが、ものすごく嬉しい。


「大丈夫、ユイは、全然おかしくないです。魔導師様が光っててキレイだったから、どこかに消えてしまうんじゃないかって。ごめんなさい」


 魔導師様はスープを食べ終わって席を立った。


 ユイが思うに、光を纏う魔導師様の姿はきれいすぎて、すこし近づきがたい。本当はいつも、近づきがたい雰囲気らしいけれど、ユイは魔導師様が優しいことを知っている。


 怖いと思ったことはない。


「ユイ、魔導師様が大好き」


 ため息をつくように、ユイは言った。心から、そう思って。

 


 魔導師クラウスは、書斎の机に戻りながら口元に苦笑を浮かべた。少女の心は、空気のように魔導師のなかに入ってくる。


「出かけてくる」


「はい!いってらっしゃい」


 幸せそうな少女の声に、魔導師は一緒に暮らす不思議さを、妙なる天の調べのように感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ