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 ふわふわの甘い色の花が咲いた。


 ちいさくて綺麗で儚い花に、ユイは夢中になった。これだけ大きな庭だから、今まで気づかなくても当然なのだ。


 香りもとてもいい。まるで砂糖菓子と他の花の香りを足しているかのような素敵さだ。


 雪がなくなり、まだ冷たい空気が残っている春の矢先、木々に隠れるように咲いているのを見つけた。


「魔導師様に……」


 摘んで持って行って見せたいけれど、弱々しい花を摘んだら、すぐに枯れてしまうだろうと思うと、踏ん切りがつかなかった。しかも、魔導師様は外出したきりまだ帰らない。


 花を調べようとぶつ厚い本を調べるが、難しい言葉が羅列されているばかりで、綿菓子のような花が書かれているようには見えなかった。


「これでお菓子とか、作れないかな?」


 いつもユイの作ったお菓子を食べると、魔導師様は味が足りないとばかり言う。もし、この花で作ったら香りばかりか味もとてもおいしいのではないか。


「どうだろう?」


 こんなに甘い香りだし。

 とっても可愛いし。

 大丈夫そうだ。


 けれど、せっかく可愛く咲いている花を摘み取って、お菓子にしてしまうのももったいない。


「うーん」


 魔導師様が帰ってきたら、庭のお散歩をするはずだ。その時にお花を見せてあげればいいのだ。


「うん」


 それが一番よさそうだ。

 



 クラウスが帰宅すると、すでに夜明け近くにも関わらずユイがうつらうつらしながら待っていた。


「あ、魔導師様!」


 呂律のまわらない眠そうな声音で、ユイは必死に目を開けてクラウスを見る。


「おかえりなさい。あのね、お庭にお散歩に行くときに、ユイ、一緒に行きたいの。だから、次に行くときには絶対にっ、ユイと一緒に……」


 よほど眠いのか、支離滅裂な言葉をかけてじっとクラウスを見つめてくる。


「散歩のときは、声をかけよう」


 クラウスが応えると、ユイは一度大きく頷いてから腰かけているソファに倒れ込んだ。のぞきこむとすやすやと寝息を立てている。


 クラウスは疲れた体を休めるべく、体を清めるとすぐに横になった。

 翌日、いつもより若干遅い起床をすると、ユイはすでに起きて待っていた。


 じっと期待を込めた目でクラウスを見つめている。


 朝食を終えて、クラウスは仕事を早々に終わらせると、ユイの期待に満ちた目線に目を合わせた。


「散歩に行くぞ」

「はい!」


 ユイは待っていましたとばかりに立ち上がると、クラウスの長衣を引っ張るように庭に出て行く。


 何がしたいのだろうと好きにさせていると、ユイは急に立ち止まった。水の流れと木のはざまに珍しい花が咲いていた。


「ほぉ」


 ユイが満面の笑顔でクラウスの顔を見ている。


「きれいでしょう? すっごく可愛いし、いい香り」


 どうやら花を見せたかったらしい。


「これには触れないように」

「え?!」


 すぐにユイは目を丸くした。


「庭に咲いたのは珍しいが……、この花は摘んでしまうと香りも色もなくなってしまう。山にひっそり咲く花だ」


 貴重な花なのだと知ると、ユイは顔を赤く染めて満足そうな様子になった。目を丸くして一心に花を見つめている。


「本当はね、お菓子を作れないかって思ってたの」


 クラウスはユイを視界に入れて、すぐに花を見やる。確かに、存在だけで菓子のような花だ。


 ゆったりと散歩を続けて、邸に戻るとメイドにお茶を準備させながらクラウスは本棚にむいた。


「植物の本は……」


 ユイでも読めるような本があったような気がする。


 ユイは図柄の入った植物の本を魔導師から受けとると、嬉しそうに勉強をはじめた。


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