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その後の話 3 リリアside

リリアとルードのお話になります。


楽しんで頂けると嬉しいです!

 リリアになり、騎士団の塔で働いて1年が過ぎた。


 ここの生活にも慣れた。


 朝早く起き朝食の支度をする。


 昨日出た洗濯物を洗い干す。


 頼まれた部屋の掃除や片付けをする。


 夕食の支度をする。


 傷だらけの人たちを介抱したりする。


 片付けを終わる頃には次の日に近い。


 暇を見つけては(まじな)いの薬草を探しに行ったりしていた。


 正直、大変で辛い時もあった。

 だけど、今は意外に性に合ってるみたいで楽しく過ごしている。


 その生活も、もう少しで終わりを告げる。


「今日もお疲れ様。リリアが来てくれてから仕事が捗っていたのに、居なくなってしまうなんて残念ね」


(こっちは清々するわ)


 私に全て押し付けて、貴女が自分でやりましたって顔するのが、これから出来なくなるのはいい気味。

 騎士団の人に良く思われてない事を、気付かないなんて本当に可愛そうな人。


 必死になると自分を客観的に見れないものよね。

 どんな立場でも、私が見て来た殆どの女は同じ。


『陰険』


 まぁ、自分も似たようなもだけど。


(あっ、1人いたか。その言葉が似合わない子が)


 思わず笑みが溢れそうになり、顔に力を入れる。


「私も残念です。では、明日も早いので失礼します」


 早くここから出たい。

 1ヶ月後にはあの子の元に行ける。

 本当にあの子が心配で仕方ない。


(また、無理してなきゃ良いんだけど)


 自分がこんな世話焼きだなんて思っても見なかった。


 部屋に戻り、何もない空間にホッとする。

 ベッドに座り休もうとした時、扉が叩かれた。


「リリア。夜分にすまない」


 扉の向こうからは、すまなそうなルード様の声が聞こえた。急いで扉を開ける。


「ルード様、どうかしたんですか?」


「すまない。早速なんだが明日から、一緒にグラーシュ領のノア・ヴァンレーヌ公爵家に仕えて欲しい。皇帝陛下から極秘の申し入れなんだ」


「何かあったんですか?」


 ルード様も一緒なんて、何か大変な事態になっているんじゃないかと不安になる。


「悪い事ではないらしいんだ。詳細は直接聞いてくれとおっしゃっていた」


 ルード様の一言に胸を撫で下ろす。


「そうですか。ルード様は副団長として皇帝陛下の護衛はどうされるんですか?」


「皇帝陛下の護衛だけが、騎士の誇りではないと分かってしまったから……。それに皇帝陛下の直直のご命令だからな」


 ルード様の柔らかい笑顔に胸が締め付けられる。


 上辺を着飾って欲望にまみれた令嬢はいなくなり、新たな人生を貰った平民のリリア。


 処刑台の上で全て死んだはずだった。

 ただ一つ、死ねなかった想いがある。


 ルード様への想いは、死んでなかった事には出来なかった。


 手を差し伸べられた時から、私はルード様に恋をしているのだから。

 ルード様の大切な人になるには、今の私では一生無理な話だけど想わずにはいられなかった。


(私にそんな笑顔を向けないで下さい)


 ……胸が痛い。





 明朝に出発しグラーシュ領に向けて馬を走らせる。


 今回はルード様の隣に馬を並走させている。


 ウォール国に行った時はルード様と一緒に馬に乗っていた。正直言って、生きた心地はしなかった。

 ルード様に触れられるドキドキと険しい道のりの恐怖、あの子に会う為の緊張が今でも思い出せる。言葉では言い表せない感情だった。


 今は隣国の山を越えるよりも険しい道ではないので、あの時よりも余裕がある。


(あの子に会えるし。それに……)


 隣にいるルード様の凛々しい横顔を見る。


(……綺麗)


 見惚れていた事を知られたくなくて、すぐに視線を前に戻す。


 小さい頃に母に薬草を採りに行く為に乗馬を教わっていて、良かったと思わずにいられない。


 こうして一緒にいられる事が幸せって思ってしまう。

 感情が子供に戻ってしまったみたいで恥ずかしい。



「リリア、そろそろ休むか。あっちに沢があった。ここまで頑張った馬を休ませよう」


 沢の木の下で座り休む。隣にはルード様が居る。軽食にと、持ってきたビスケットを取り出す。


「ルード様どうぞ。お口に合うかわかりませんが」


「ありがとう」


 ビスケットを取ろうとして、ルード様と一緒に動いた指が一瞬触れ合ってしまう。


 ルード様と触れ合った事はこれが初めてじゃないのに。

 騎士団の塔ではいろんな人の目があったし、ちゃんと冷静に対応できていた。

 一瞬、触れただけでドキドキするなんて、さっき『幸せ』なんて思ってしまったからだろうか。


「なんかウブな娘みたいだ」


 一気に顔に熱が集まってくるのがわかる。


「なんだ、その反応は……」


(それは私が知りたい)


 本当にどうしたんだろう。小さく深呼吸して、声だけは冷静になるようにする。


「……私に気にせず食べて下さい」


「あははっ。可愛いな」


「ふざけないで下さい」


「うん、美味しいよ。……本当にリリアと一緒にいると気を使わなくて楽だ」


 楽しそうに笑顔を向ける。

 騎士団副団長というよりルードという青年のように、いつもより幼く見える屈託のない笑顔が心臓に悪い。


「お互い本性は知ってますからね」


「……そう言う事じゃない」


 ルード様は私に詰め寄る。

 急な事で驚いていると、掠めるように唇が一瞬触れ合った。


「さっ。行こうか」


 ルード様はそのまま立ち上がり、馬の方へ行っていってしまった。


(……し、信じられない)


 心臓の鼓動がうるさ過ぎて、全身の血が沸騰しているように身体が熱い。


(初めての事だったのに)


 私をからかったのか、平然としている後ろ姿を恨めしく思う。


(……酷い人だわ)


「リリア。置いて行くぞ」


「はいはい」


 でも、貴方を嫌いになれない。



 さっきの事を思い出し、もう一度赤くなりルード様の後ろを追いかける。







 あれから、何事もなく進んでいく。

 ルード様もいつもと変わらず接してくる。


 焦っているのは私だけで、自分が恥ずかしい。


 しばらく馬を走らせていると街の入り口が見える。馬から降り、馬を引いて歩く。


「もう少しでグラーシュ領だが、もう暗くなるからこの街で宿を取ろう」


 空を見ると日が傾き暗くなろうとしている。

 月も見え夜が近づいている。


「そうですね。お腹も空きましたし」


 賛同したように私のお腹の音もなってしまった。


「あぁ。夕食も食べられるかどうかも確認しよう」


 スクスク笑うルード様に恥ずかしくなる。


「お腹空いてるんですから、仕方ないでしょ」


「わかってる。ほら、怒ってないで行くよ」


 馬を引いている反対の手を私に差し出す。戸惑っていると、強引に手を取られ歩く。


 自分が自分じゃないように、心が揺り動かされる。


(ルード様が何を考えているのか分からない)


 繋いだ手が異様に熱く感じて、本当に困る。





 無事に宿を取り、夕食を食べる。

 昔では考えられないような量を注文した。

 ルード様の前だから、遠慮しようと思ったけど今更だ。

 ずらりと注文した料理がテーブルに並ぶ。


「凄い食べっぷりだな」


「食べないとやっていけませんよ」


「あははっ」


 今日は笑う姿をよく見る。

 殆ど自分が笑われているんだけど。恥ずかしい。


「笑わないで下さい」


「本当、リリアは見ていて飽きない」


「私は珍獣かなんかですか」


「いいや。目が離せない可愛らしい人だよ」


 ルード様の真剣な表情にドキッとしてルード様から顔を背ける。


「……お医者様お呼びしましょうか?」


「大丈夫だ。医者はいらない」


「ルード様は今日はどうしたんですか?」


「……ただ、気分が良いんだ」


 今まで話していた声に重みを感じて、ルード様の顔を見る。視線が合い、逸らしたいのに逸せない。


「一度婚約破棄になってるが、こんな私で良ければ婚約してもらえないか」


 突然な事で思考が追いついていかない。


「な、なんの冗談ですか。からかうならもっとマシな冗談を……」


「こんな感情を自分が持つなんて思ってなくて、初めてな事なんだ。リリアが心から愛しいと思っている。いろんな騎士に話しかけらているリリアの姿を見て嫉妬したりとか、自分のモノにしたいと思うとか……。この時が、幸せだと思うほどに」


 惚れ惚れするほど綺麗な笑顔に、ここが宿屋の食堂だという事を忘れてしまう。


「……ここ食堂ですけど」


 照れ隠しにそう言うとルード様も照れ臭うに笑う。


「そうだった。返事は後でもらう。今は食べようか」


「そうですね」


 恥ずかしく居た堪れなくて、美味しそうな食事の味がわからないまま食べ終えた。





 夕食を食べ終え、部屋に戻るとルード様が黙って私を見てる。


「……ルード様、部屋に入りますか?」


「少し邪魔をする」


 部屋に入ると手を掴まれる。


「リリア、返事もらえないか」


 ルード様と対面した形になる。


「私、今は平民です。それに、フィリアだって……」


「不安なのはそれだけ?」


 何も言えなくて、ルード様は肯定と捉えたようで下を向いた私を覗き込む。


「じゃ、大丈夫」


 優しく笑って、私を抱きしめる。


 ただ隣にいられれば良かったのに、目の前にいる人が幻想なんじゃないかと思う。

 でも、ルード様の心臓の音がドクドクと聞こえ、現実なんだと感じた。


「そんな事どうとでもなる。だから、リリア頷いて」


 甘い言葉が耳をくすぐる。


(まじな)いで言われるより何倍も違う)


「リリア」


 小さく頷く。

 聞こえる心臓の音がさっきよりも早くなってる。


「やっと、君の手を掴めた」


 掴まれていた左手の甲に口付けされた。

 ブルーの瞳に囚われたまま、唇にそっと口付けを落とされる。


「リリア、愛してる」


 胸の奥が痛くて、自然に涙が頬を濡らす。


(……凄く幸せ)


 私が泣いている事に気付いて、そっと指で拭かれる。


「私も愛しています」


 ちゃんと笑顔で言えていたか定かじゃないけど、ルード様が嬉しそうに笑うから私の気持ちも、ちゃんと伝わってる。


 しばらくルード様に抱きしめられ、幸せを噛みしめいた。






 朝日の光が窓から入ってくる。

 昨日の事が、夢じゃないかとゆっくり起き上がる。信じられなくて辺りを見回す。


 昨日はルード様が、ベッドの横に椅子を持ってきて横に座り、眠れなかった私の手を握って眠れるまでいてくれた。ルードもそのまま眠ってしまったようで、ベッドの上にうつ伏せになっていた。


 まだ、繋がっている手の温もりを感じてドキドキする。


「……ルード様」


 ムクっと起きたルード様は、眩しそうに目を細めたまま私の事を見る。次の瞬間、幸せそうに微笑み優しい声で私を呼ぶ。


「リリア。おはよう」


 現実なんだと言葉にならないほど嬉しくて、思わずルード様に抱きついた。





 なんとなく、ルード様が私を見る瞳が甘く感じて気恥ずかしくながら街を後にした。


 しばらく馬を走らせると青い湖が見える。


「グラーシュ領に入った。あそこが街だ」


 ルード様が指差す方には街があった。

 街に近づくと花の香りが漂ってくる。

 花が色とりどり花が咲いていのが遠くからでもわかる。


 街の入り口で見覚えのある顔を見つける。

 街の人と話しているようで穏やかな表情だった。


「ナディア!」


「リリア!」


 久しぶりに見たナディアは一段と大人ぽくなっているのに、元気に手を振っている。

 馬を降りて、ナディアに近づく。


「元気そうで良かった」


「うん!元気だよ。リリアが来るって知らせが届いたから待っていたの」


「リリアもルード卿もすまなかった」


「大丈夫です。ノア卿」


 ノア様もいらっしゃり、ノア様がナディアの隣に立つ。ナディアは照れ臭そうに、お腹に手を当てる。


「新しい命がいるの。少し心細くて……。急に来てもらってごめんなさい」


「本当に?おめでとう。私の事は気にしないで。ナディアに会いたくて待ちどうしかった」


「リリアありがとう」


 満面の笑みで笑うナディアが輝いて見えて、心から祝福をしたくなる。


 ルード様とノア様は少し離れたところで話しに行かれて、ナディアと2人だけになる。


「リリアはルード様と何かあった?」


「えっ?なんで」


「ルード様が愛しそうにリリアを見てる」


 振り向くとルード様が私を見ている。

 温かい視線に恥ずかしくて、顔を背ける。

 顔に熱が集まり真っ赤になった顔をナディアに見られた。ナディアは笑って私の手を取る。


「リリア、幸せ?」


「……えぇ。幸せよ」


 ナディアがギュッと抱きしめて、小さく囁いた。


「貴女が幸せで良かった」


 私はナディアの親友に慣れて良かった。


 ナディアがいなかったら私は今ここにいない。


「ナディアのおかげよ」


 ナディアと2人で笑い合う。



 このまま、幸せが続けば良いと切に願う。





読んで頂きありがとうございます。


誤字脱字報告ありがとうございました。



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