その後の話 1
この屋敷で過ごす最後の日。
明日は私にとってもノアにとっても新しい道を踏み出す日。
ウォール国から帰ってからノアは私との婚姻に向けて忙しい日々を送っていた。なかなか会えなくて寂しいと思っていたのに、あっという間にこの日を迎えてしまう。
この庭園も手をかけられなくなるのは寂しいわね。夕暮れの庭園も、沈んでゆく太陽の光を浴びてオレンジ色に染まる。
「もう、寒くなるよ」
屋敷の中でお父様と話していたノアが隣に立ち、私の頬をそっと触る。
風は確かに肌寒くてノアが触れているところが温かい。
「うん」
ノアは不意に私の手を取り婚約指輪に口付ける。
「明日はここに僕だけのナディアって証が付くんだね」
自然な流れでそんな事するからドキドキしなが目を奪われた。
空には雲がかかり、雲間から太陽の光が溢れ四方に広がり輝いている。幻想的な光に魅入ってしまう。
(綺麗)
黙ったまま空を見上げているノアの横顔を見つめた。
ノアはどんな事考えているのだろう。
嬉しいと思ってる?
これからの事が不安かな?
私と一緒なら大丈夫だと思ってくれる?
ノアは皇族から離れる事を決意した。
皇帝陛下は凄く残念がられていたけど笑顔で承諾してくださった。
明日が終わればノアは公爵としてウォール国近くのグラーシュ領の領土を治める事になる。
「名残惜しいけど、また明日。迎えに来るから待ってて」
離したくなくなるからとノアは見送りを断り帰って行った。私はまだ庭園を見ていたくてベンチに座る。少しづつ暗くなっていく。
「ナディア、寒くないのかい」
ふわりと暖かいストールが肩にかかった。
振り向くとお父様が立っていた。私の隣に座る。
「とうとう明日なんだね。まだまだ先の事だと思っていたよ」
「……私もそう思っていました」
「困った事があったらすぐに言うんだよ」
「はい。お父様」
「離れていても私はお前を思っているよ」
お父様の声が優しくて涙が溢れそうになる。気付かれたく無くてお父様の顔を見たくても下を向いてしまう。
「もう、ナディアを近くで守る事は出来ないんだね。ノア殿下がこれからナディアを守っていくんだから。でも……寂しいね」
お父様の声が寂しそうに聞こえた。お父様は私の頭を優しく撫でて、我慢していた涙が流れる。
「ナディア。ノア殿下に幸せにしてもらうんだよ」
「はい」
上手に笑えたかしら。ノアと一緒になれて嬉しい。でも、離れるのは寂しい。悲しいと思うのは今だけだから。
「お父様、ありがとうございます」
私はいっぱいの感謝を込めてお父様に抱きついた。
いいお天気でステンドグラスがキラキラと光り私とノアを包む。優しい風が吹き私たちを祝福している気がする。
「ナディア。愛してるよ。必ず僕が幸せにするからね」
正装のノアの隣に白いドレスで並ぶ私。
私とノアの左手の薬指にはシルバーでいろんなダイヤモンドが散りばめられている指輪が光っている。
大好きなノアの横顔を見て幸せに感じる。
(ノア。ありがとう。私は幸せ者だわ)
誓いの口付けを交わし、赤い絨毯の上を歩く。
私の腕の中には99本の白薔薇。
『永遠の愛』
いろんな人に見送られ、ノアに支えてもらいながら笑い合い進んで行く。
「ノア、ナディアおめでとう。あれから半年か?こんなに早く結婚とか信じられねぇ」
「ノア、ナディア様おめでとうございます。本当、ノアの努力の賜物ですね」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ウォール国からはトーマ殿下とマザラさんがお祝いに来てくれた。
「まっ、これから近くなるから頻繁に邪魔するわ」
「別の意味にしか聞こえない。僕たち新婚だからね」
トーマ殿下は真面目な表情になりノアの肩を叩く。
「わかってるよ。まっ、ノアが公爵になると思わなかった。お前は逆らわないと正直俺は思ってたぜ」
「人なんて変わるもんだよ。大切な人に危険な思いは、もうさせたくないから」
ノアは私の方を見て言うものだからトーマ殿下とマザラさんに微笑ましく笑われてしまった。
「このままグラーシュ領に行くんですか?」
「うん。そうだね。治めていたデルダークがいなくなったからね。早くこの目で見てみないと」
トーマ殿下はニヤッと笑い。
「なんでも言えよ」
「トーマって無駄にカッコつけですよね」
「ウッセーんだよ」
トーマ殿下はマザラさんと冗談を言い合い笑いながら去っていった。そんなトーマ殿下とマザラさんを見てノアと2人で笑い合った。
みんなに別れを告げ、グラーシュ領に向けて馬車を走らせる。
侍女のエマもついて来てくれる事になり嬉しかった。
ノアも殆ど宮殿で仕えていた従者が一緒にグラーシュ領で仕えてくれるみたいで喜んでいた。
グラーシュ領には馬車で2日かかり小さな街で宿を取りながら進んだ。
青い湖が見える。澄んだ色に思わず身を乗り出す。
「グラーシュ領に入ったよ」
ノアが青い湖の先の街を指さした。
その街は花に囲まれた美しい街だった。
「素敵な街ね」
「表向きはね。デルダークが裏でいろいろしていたみたいで」
「そうなのね」
「でも、思っていたより酷くはないかな」
街に歩いている人々を見て言う。人々は公爵の馬車を見ながら話をしている。不安な顔や苛立ちの顔。中には期待に満ちた顔をしてい人もいる。
私たちの事を認めてもらえるようにしなければ。
「疲れたでしょ。今日はこのまま屋敷に行こう」
屋敷はデルダーク卿が住んでいた屋敷を新しく作り直していた。
「荷物は全て運んであるよ」
ノアに連れられて屋敷の中を歩く。
「お待ち申し上げておりました」
アランが待っていた。
アランは先にグラーシュ領に入り私たちの暮らす準備をしていた。
「アラン、ありがとう。報告書よりも綺麗になってるね」
「はい。ありがとうございます。お部屋はこちらになります」
廊下を歩く開けた場所には丸天井の室内庭園があった。ラクール家の庭園に似た作りになってる。
「……凄い」
「室内なら夜でも寒くないでしょ。ここは夜寒くなるから」
ノアの優しさに抱きつきそうになり我慢する。ノアは嬉しそうに笑ってる。
「夕食はここで食べる?」
「うん!」
ひと通り屋敷を案内してもらい、夕食を室内庭園で食べた。想像以上に素晴らしくて心が弾んでいる。
そのまま、ノアと2人で部屋に戻る。
「ノアありがとう」
「喜んでくれたら凄く嬉しい。ナディアが喜んでくれる事考えたんだから」
嬉しくてノアに抱きついた。
ノアの熱い視線を感じる。
「ずっと触れたかった。やっと夫婦になれたのに」
優しい口づけが落ちて来る。何度もしてるはずなのに恥ずかしくて仕方がない。
「もっと触れて良い」
「……うん」
さっきよりも強い口づけで、心臓が痛い。全身真っ赤に染まってる。
「ごめん。全然足りない。もっと深くまで触れたい。いい?」
頷くとノアは私をベッドに深く沈めた。
朝の光が眩しくて目が覚める。
いつもの見える景色じゃなくて、ノアと一緒になったんだって心が熱を持つ。
慌てて隣を見ると綺麗なノアの顔がある。
「おはよう」
ゆっくりとノアの瞳が開き、満面の笑みを間近で見てしまった。心臓の鼓動が大きな音を立てて動き出す。いくつ心臓があっても足りないかもしれない。
「お、おはよう。ノア」
恥ずかしくて思わず背を向けてしまった。後ろから笑い声が聞こえて、ノアが私を背後から抱きしめる。
「こんなに幸せを感じるなんて思わなかった」
「私も幸せだよ」
抱きしめる力が強くなる。
「ノア」
「僕だけの君でいて」
どんな事があってもノアとなら乗り越えられる。
ノアと2人で新しい道を歩いていく。
読んで頂きありがとうございました!




