第二部 12 トーマside
楽しんで頂けると嬉しいです!
お互いに目配せをし王座の間の扉に目線を移す。
「いくぞ、ノア」
「あぁ、トーマ」
ここを開ければ全てが終わり、ここから出れば全てが始まる。
柄にもなく迷い深呼吸をする。両手で思いっきり扉を開ける。
30人ほどの集められた貴族の当主どもが一斉にこちらに視線を向ける。
扉の横で待機している兵士は微動だにせず、これから始まるであろう茶番を嘲笑うのだ。
迷わず王座に座る国王へと向かう俺とノアの足音だけが響く。
「トーマ、ノアまで連れて何用だ。お前が来る場所ではないぞ」
狸の言葉を無視し、騒つく当主どもを無言で睨み付ける。静かになったところで、ノアと一緒に王の前に跪き声をあげる。
「申し訳ありません。少々お時間をいただけませんか」
思ったよりも顔色が悪い。お前を殺したいほど憎んでんだ。どんな状態かなんてお見通しだ。散々好き勝手しやがってザマァねぇな。でも、まだその時じゃない。
「なんだ申してみよ」
「ありがとうございます」
「楽しませてみよ」
最後の一言は俺たちにだけ聞こえるように小さな声で言い放ち嫌な笑い方をしてる。どこまで知ってんだか。
「先日、隣国クランラベータからご来賓頂いていたノア殿下の婚約者が誘拐された事件がありました。関与している人物としてリーファ姫を捕らえました」
姫が関与してるなんて前代未聞と多くの当主が声を上げる。狐も言っていて白々しい。ノアを見ると相当イライラしてるように見えた。ノアが当主たちの声をかき消すような響く声を張る。
「大事には至らなかったものの、私の大切な婚約者が誘拐された事は事実です。はっきりとさせたいと思いまして、クランラベータとしても調べさせて頂く事にしました」
国家紛争になりかねないと、当主たちから声が聞こえる。狐がほくそ笑む姿を見て可笑しくなる。全てはもう終わっているのに。
「あと、不思議なことがございました。リーファ姫が私に結婚を迫ってきまして、リーファ姫と結婚したら私がこの国の王になれるとおっしゃっていました。しかしがながら私には大切な婚約者がいます。私は大切な婚約者と一緒に過ごす事が1番で煩わしい事はいらないと思うんですが。国王陛下はいかがお思いですか?」
ノアもぶっ込んできやがった。リーファ姫の裏に誰かがいる事と自分はこの国なんか興味ないってさ。狸の残念そうな顔は滅多に見られないな。
「愛する者と一緒にいる事がノアにとって大切なのだな。リーファ姫の事はすまなかった。リーファ姫は責任を持って我が裁こう。リーファ姫の裏には誰か付いているかも知れんからな」
「リーファ姫からすでに協力者の話を聞いておりまして、その協力者の自白の証言も残っております」
兵士に目配せをし扉を開けさせる。マザラが1人の男を連れて入ってくる。
「イースト公爵のご子息です。私に話したことをここで話して頂けますか」
当主たちは一斉にイースト公爵に顔を向けて戸惑った顔をしている。
「親父が約束したんだ。これが成功したら俺を次期当主にしてやるって。だからリーファ姫に近づいてそそのかして誘拐させた。なのに聞いたんだよ」
イースト公爵は慌てた様子で周りの当主たちに違うと叫んでる。
「セイ・スイドス公爵と話してる時に、俺はいらない子ですぐ殺したって良いって。隣国と戦争になれば戦地にすぐ送るってさ」
セイ・スイドスの名が出ればみんな一斉に向く。
狐は不愉快そうな顔で話を聞いている。
「それに、スイドス公爵は第一王子ウィル殿下と共謀し国王様を毒殺しようとしてる」
狐は座っていた席から離れ、狸の側に行こうとするが兵士に止められる。
「国王様こんな戯言信じないで下さい。私は国王様に忠誠を誓っているのです。全てイースト公爵の陰謀です」
「なんですとスイドス公爵。始めは貴方の方から声を掛けてきたのでしょう。こっちは大事な息子を使って協力までして」
「何を言ってるかわからないな。恥を知ると良い」
滑稽すぎて笑える。ここまでバカだったなんて。これは必要なかったか?手に持った紙の束で手を叩く。
「計画を書いた紙がここにあります。ちゃんとウィル殿下とのやり取りも残っていますよ」
束の1枚が2人の前にヒラヒラと落ちていく。狐の字で事細かに計画が書かれている。
「な、なぜこれが。お前あれほど燃やしておけと言ったはずだ」
「誰もわからない所にしまっていたのに。まさか」
2人は顔色を青くしている。
「私の国も関係しているようですね。戦争を企てたグイド・ソルテと繋がりがあったカルロからいろいろ聞かせてもらいました。とくに子息には」
カルロは前から投獄されていて何もない事で油断したな。子息はカルロから多くの事を聞いていたようでマザラに命乞いまでして自分の保身に走っていた。
狸は自分の命を狙われていた事は知らなかったようで顔色が益々悪くなったようだ。ウィルにまで裏切られたんだからな。狸、まだまだこれからだ。
「カルロの子息からとても許し難い事が発覚しまた」
マザラはイースト公爵の子息を連れ出て行く。
「スイドス公爵とルベス様は大切な事を知らせていませんよね。25年前の事、お忘れではありませんよね」
狐は自分の額に手を置き冷静になろうとするがその行動も無意味だ。
「待て!そんなバカな。そんなはずはない」
もう、お前は終わりだ。マザラがダディム殿下を連れ入って来る。
金髪と赤い瞳に皆が釘付けになる。
赤い瞳は狸と同じ瞳。王家の証だ。
「ランベルトと申します。ルベス牧師様に育てられ生きてきました」
ペンダントを狸に見せる。
受け取り、太陽の光に透かして見る。
「……ダディム」
「トーマ殿下からこの手紙を見せて頂きました」
狸はダディム殿下から手紙を受け取り読み進める。狸は狐を睨みつける。狸の圧力に他の当主たちは何も言えず黙ったまま。
「……なんだと。スイドス貴様!ふざけるな。亡くなったと聞いていた。なのにお前が攫っただと。……衛兵。スイドスとイーストを牢屋に閉じ込めておけ。ウィルも牢屋に入れろ」
「国王陛下、私は何も」
「うるさい。トーマの証拠で判断する」
いい気味だ。ウィルもこれで奈落の底だ。狐は俺を睨みつけながら兵士に連れて行かれる。
マザラと目線を合わせて笑い合う。
狐の所為で俺の母親もマザラの母親も亡くなった。やっと狐の顔を見なくて済む。
ダディムと話をしている狸にも貸しが出来たよな。
「お前が生きていたとは、なんと大きく良い子に育って。お前にこの国を……」
「国王陛下。私はこの国を背負って立つ人間ではありません。私はトーマ殿下が王位継承者に相応しいと思います。必要であれば私はトーマ殿下の補佐になりたいと考えています」
「は?」
間抜けな声を出したのは俺だ。俺が補佐になる予定だが。それで、ダディム殿下と話がついていたはずだ。まさか……。
「マザラ、お前」
「私はトーマ殿下に一生お仕えいたしますよ」
やられた。マザラのほくそ笑む姿がマジでむかつく。俺の戸惑ってる姿を見て喜んでやがる。
多くの当主たちも騒がしい。
「マザラ!」
「国王陛下の前ですよ。落ち着いて下さい」
ノアに止められ、マザラを睨むのをやめた。
「僕はトーマが1番国王に向いてると思う。マザラも同じ考えだよ。優しくて頼りになるし、公平に物事をいろんな方向から見られるでしょ。ほら、前向いて」
こんな俺で務まると思わない。貴族の当主だって認めてくれるかわからないのに。
ノアの言葉に狸に視線を向ける。
「トーマよ。ダディムに会わせてくれた事感謝する。様々な企みを暴いてくれた事褒めてつかわそう。お前を第一後継者として考えよう」
聞きたくない言葉を狸から聞き諦めた。跪き頭を下げる。
「ありがたきお言葉、感謝申し上げます」
「そして、当主の皆よ。意見がある者は私の所に来るといい」
俺に反対していた、うるさかった当主たちは黙った。
狸は俺の側に来て肩に手を置き俺だけに聞こえる様に小さい声で言う。
「存分に楽しんだ。トーマありがとう」
あの狸が俺に礼とか信じられん。仕方ないからやってやるよ。
狸はダディムを連れ出て行き、当主たちも兵士に先導され出て行く。
「マザラ、ノア。お前ら」
「これから、忙しくなりますね」
「この国も変わって行くんだよ」
ここを開ければ全てが終わり、ここから出れば全てが始まる。
ここに入るまでそう思っていたのに、別の意味で始まった。
仕方ないからやってやるよ。
この国を俺の手で良くしてやる。
「マザラ、許してくれって言うまで俺と一緒にやってもらうからな。ノアは思う存分いじめてやる」
「望む所です」
「僕だけなんか違くない?」
3人で笑いながら玉座の間を後にした。
明日からまだまだやる事がある。
気を引き締めて2人の嬉しそうな顔を見る。
(いい仲間を持って幸せだ)
柄にもない事を思って笑った。
読んで頂きありがとうございます!




