第二部 8 トーマside
楽しんで頂けたら嬉しいです。
「トーマ、不機嫌な態度を表に出すのはやめてください」
「うるせぇ」
数人しか知らない隠し扉の先に鉄の扉がある。その部屋から何も収穫がないままマザラと出た。
捕まえた怪しい奴からは必要な事を何も聞けずイライラする。怒りをぶつけた為、怪しい奴は命はあるがしばらく口が利けないだろう。
あのバカ女がこんな用意周到な事、出来るわけがない。裏に誰かがいる。
狸か狐かそれとも、胡散臭い化け猫か。
まぁ、どの道やらなければ、こちらがやられるからな。
廊下を進み黒部隊が目の前に現れる。
黒部隊は俺とノアとマザラで結成した部隊だ。俺たち以外は存在を知らないだろう。
基本は俺が管理しているが、必要ならば3人から命令を受ける。
黒い布で身動きできない様に縛り上げられた捕縛者を3人連れていた。
「トーマ様マザラ様3人捕えました」
「わかりました。例の場所に連れて行ってください。私が話しをします。トーマはノアが帰ってくるまで頭を冷やしてください」
モノの様に担ぎ上げられた3人はマザラと共に隠し扉へと連れていかれる。
マザラの言う通り少し頭を冷やした方がいいか。
マザラに指図されるのは気にくわないが。
しばらく歩くと背後に気配を感じ振り向く。
「トーマ様、ノア様から伝言をお預かり致しました」
黒部隊が怪しい壺を持ってきた。甘い匂いがしてクラクラしそうだ。
「ノア様からこの壺を。あと、ナディア様のお部屋に医師の手配をお願いしたいとの事です」
すぐさま信頼のおける医師の手配を行い、壺の分析を指示した。
その頃にはオレンジ色の朝日が昇る。
息を切らしたノアがナディアを抱えて裏口から入ってきた。黒部隊から聞いた話で何かがあるのは想像がついたが、ノアがこんなに冷静さを失ってるのは珍しい。
どんな無茶な走り方してきたんだと言いたいぐらいノアは傷だらけだった。
「トーマ早くナディアをベッドに」
「わかってる。医者も待機してる。落ち着け、お前らしくねぇな。どうしたんだよ」
「ナディアが急に意識を失ったから。……記憶がないんだ。多分、僕の記憶がない。僕と出会った事も、婚約者になった事も、ここに来た事も」
「わかった。早く部屋に行くぞ」
ノアの顔が苦しくて、大丈夫だなんて無責任な言葉を気軽にかけれない。今までいろんな事があって、やっと手に入れたノアの幸せ。
「ナディアお嬢様!」
部屋に入るとナディアの侍女が泣きながら出迎える。ベッドに寝かせ医者に見せる。
「命には別状ありません。しかし、何かの影響を感じます」
「なんらかの影響か」
ノアはずっとナディアの手を握り自分の額に当ててる。
「ノアお前の手当てもしないと」
「僕は大丈夫」
「大丈夫じゃないから言ってんだよ」
医者はノアに軟膏を塗り化膿止めの薬を処方する。敵には傷ひとつも付けさせないノアが、傷だらけなんて信じられない。
なんかあったら呼べと医者は出て行った。
「で、何があった」
ナディアの侍女もいるため踏み込んだ話はできないがノアがこの部屋から離れないから仕方ない。
ノアは淡々と話し出した。
「窓から見たらナディアに壺の匂いを嗅がせていた。そして、1度意識を取り戻した。僕を見て貴方はどなたですかって。そのあと、ルードの婚約者って言ったんだ。急に意識を失った」
「ナディアお嬢様」
ナディアの侍女は悲しそうにナディアを見る。
「あと、自国からルード副騎士団長と女性を1人呼んだ。追加の人員で処理しといて。黒部隊に頼んだから早くて明後日の昼には連れてくるよ」
「わかった」
「……。エマ、ナディアを頼んでいいかな」
「もちろんです」
「ありがとう」
ノアは力なく笑い、1度目を閉じ深呼吸する。
冷静さを取り戻したノアは、力強い目で俺を見る。
「いつか報われる日が来る。今は我慢の時なんだ。行こう」
「あぁ」
ノアの力強い目。初めて会った時と変わらない。自分の待遇に悲観せず自分が持てる範囲で力を最大限に使う。俺とノアは似ている様で全く違った。国民の事を思い嘆き、足掻いても変わらない現実。それを少しずつ変えようとしている。
やり方は正攻法ではなくても出来るのだから。
ナディアの部屋を出てマザラのところに行こうと考えると前から見慣れたマザラが現れる。
「あっ。ノアなんて傷なんですか」
「大丈夫だから」
「大丈夫じゃ無いでしょう」
「マザラうるせぇ。大丈夫だって言ってんだろ。俺の部屋行くぞ」
誰かに聞かれたらまずい。すぐさま俺の部屋に行く。捕えた奴らにマザラが優しく取り調べした結果、呪い師が関わっていて、その呪い師は既に殺されているとの情報だ。
呪いは少し知識を持っているが記憶を操作するというのは聞いたことない。
「そいつの言う通り死んでるとなると、呪いを解くのは難しいな」
「そうですね。ウォール国の呪い師は信じられませんし」
「大丈夫。ルードと一緒に来る女性は呪いの知識を持ってる」
「あの女か」
「うん。来てからじゃないと何も出来ないね。僕は一旦ナディアのところに戻るよ」
ノアが呼んだ、呪い師が来ないことにはどうしようもない。俺らには待つことしか出来ず歯痒かった。ノアが1番歯痒いだろう。居ても立ってもいられないとノアはすぐにナディアの元へ向かう。
ナディアはすぐ目覚めると思ったがなかなか目覚めなかった。
ナディアが嗅がされていた壺には睡眠効果のお香が使われていて、すぐには起きないようだ。
ナディアの侍女の話ではノアはずっとナディアの手を握っているらしい。俺でもかける言葉が見つからない。
予定よりも早くルードと女が黒部隊に連れられて来た。最短で3日かかるところを2日もかからず来るのには負担がかかっただろう。しかし、2人は疲れも見せない。
「久しぶりだなルード卿」
「トーマ殿下マザラ様お久しぶりです。こちらはリリアです。挨拶もおざなりで申し訳ございませんがノア殿下とナディアは何処にいらっしゃいますか」
「ルードさんこちらです」
ナディアの部屋に入りノアと何か話をして、リリアがナディアに向かう。
「ノア殿下。起きてからの方がいいです。このまま目覚めない可能性があります。起こす為にこの薬を飲ませてもらえますか」
ノアは頷き薬を受け取る。テーブルに置かれた水差しから水を飲み、ためらわずナディアに口移しで薬を飲ませた。ナディアが薬を飲み込む音が聞こえる。
「これで、数時間で目覚めると思います」
リリアがそう言うとノアはナディアの侍女にナディアを頼んで隣のノアの部屋に行く。
「ルード、手紙で書いた通りナディアに僕の記憶はない。お前を婚約者と思ってる。起きた時はルードがナディアの側にいてやってほしい」
「ノア殿下わかりました」
「リリアは何かわかったことあるか」
「そうですね。強力なもので簡単にはいかないとしか言えないです」
「そうか。ありがとうリリア疲れただろう、部屋を用意してもらった。ナディアが目を覚ますまでゆっくりしてくれ」
マザラがルードとリリアを案内する。部屋には2人だけになった。
部屋が静かになり、ノアが椅子に座り自分の力を込めた拳を見ながら言葉を発する。
「僕さ、ナディアが幸せならそれでもいいかなって思ったんだけど、やっぱり自分が幸せにしたいんだよね」
ノアが吹っ切れた顔で言った。
「だからさ、もう一回好きになって貰えばいいんだよね」
誰が見ても惚れそうな綺麗な笑顔だった。
ノアはもう大丈夫だな。
じゃ、こっから反撃開始だ。それには、敵を見極めないといけない。
「ノア、たまには爆発した方がいいぜ」
「は?」
「多分、すっきりする」
俺の言葉に面白そうに笑いながら頷いた。
ナディアの目が覚めた。
ノアは扉の近くでルードと仲良く話しているナディアの姿を見つめていた。耐えられなくなったのかノアはナディアの部屋から出た。俺はノアのあとを追いかける。
ナディアが起きた事を知ったのかバカ女が来てノアが捕まってた。
「ノア様。おはようございます。ナディア様どうかなさったんですか?元婚約者のルード様がいらっしゃってましたね」
白々しくノアに寄って行く。バカ女がどんな手を使ったって、好きになって貰えないのによくやるよ。
「私はノア様1人をいつまでもお慕いしてますわ。あの方と違って」
何で気持ち悪いって思わないんだ。ギラギラした欲望を宿した目つきも、ニタニタ笑いやがる汚い笑顔も虫唾が走る。
ノアの表情見てんのにわからねぇんだな。
ほら、もう少しでブチ切れる。
「ノア様、これから一緒に」
ノアは殺意丸出しで、バカ女の顔横スレスレを通り後ろの壁を思いっきり殴る。
「穢らわしい。触るな」
ノアの腕を掴もうとしたバカ女は怯えて腰抜かした。いい気味だ。ノアはそのままどこかに行った。
「ざまぁねぇな」
「うるさいわね。なんなのよ。あんたなんか王家の血を継いでないくせに。私はノア様と結婚して兄様を蹴落として、この国を貰うのよ」
「ノアはお前なんかに扱えない。お前は役立たずだ。何も出来ないくせに」
「出来るわよ。何の為にあの女の記憶を消したと思ってるのよ。私は……」
「へぇ。じゃ、尋問よろしく」
後ろの陰に忍ばせていた兵士が出てくる。自分が口に出した事の重大さに気づいたのかバカ女は黙った。
最後かもしれないから訂正させてもらおう。
俺はバカ女の耳元に顔を近づける。
「1つ言わせてくれ。俺は国王の血を継いでる。血を継いでいないというのは国王の大嘘だよ。嘘の所為で変な奴らが俺を利用しようと狙っていて大変なんだ。お前らと狐みたいな奴らがな」
俺が離れると、兵士がリーファを取り囲む。今までの馬鹿にしていたような表情ではなく困惑した顔をしてる。
あの中で俺の秘密を知らないのは狐だけだからな。
思いっきり潰せる。楽しくなってきたな。
しかし、ノアの演技半分以上本気だったよな。
呼んで頂きありがとうございます。




