第二部 7
楽しで頂ければ嬉しいです。
夢の中なのか、現実なのかわからない。
フワフワとした感覚の中誰かを想い浮かべる。
ただ私は大切なあの人の悲しい顔を見たくないと思う。
でも、あの人の顔がはっきりしない。
とても大好きでずっと側に居たくて。
なのに何でこんなに悲しいんだろう。
『ナディア』
優しく私の名前を呼んでくれる。
それが、とても嬉しくて愛おしくて心が温かくなる。
大切な私の気持ちと記憶が心の奥に仕舞われた気がして、いつの間にか私の目には涙が溢れる。
頬が冷たくて目を開けた。頬を触ると冷たくて泣いたのだと理解するのに時間がかかる。頭の中がぼんやりとなる。
上半身を起こし、周りを見る。自分の部屋ではない。外は暗く星が煌めいている。
横を見ると椅子に座りベットにうつ伏せになってるエマを見つける。立とうとして身体を動かそうとすると、節々が痛くて自分で思ったよりも大きく動いてしまった。
「んっ。……ナディアお嬢様!意識が戻られたのですか」
私が動いた振動でエマがゆっくり目を覚ました。
初めは驚いた顔をして、エマは目に涙を溜めて安心したかのように笑う。
「お嬢様は、2日間眠っていられたのです。いま人を呼んでくるので待っていて下さい。後、1つ聞きたい事がございます。ノア殿下をご存知ですか?」
エマは先ほどの柔らかい表情と違い、真剣な表情で聞いてくる。
「ノア殿下?会った事はないわ」
名前は聞いたことある。でも、会った事は1度もない。
「そ、そうですか」
エマの言葉から覇気がなくなり部屋から出て行く。
ノア殿下。そんなに重要な事なんだろうかと首を傾げた。
私が何故知らない場所にいるのか、いくら考えてもはっきりせず思い出せない。私はどうして2日間も眠っていたんだろう。
「ナディアお嬢様。失礼します」
エマが扉を開けて入ってくる。後には数名の方が入ってくる。
「ナディア」
「ルード様、どうしてここに?」
ルード様が私を心配してくれるなんて夢でも見ているようだわ。
「心配した。大丈夫か」
柔らかい表情のルード様の手が私の頭を撫でようとする。その手がすごく恐ろしく感じて、とっさに避けてしまう。何でこんな事を。ルード様から私に触れてるのは貴重な事よ。
「あっ……違うのです。何ともないです」
「わかっている」
ルード様がベッドの近くに椅子を置き座る。
ふと部屋の扉に目をやる。扉に寄りかかっている人と視線が合う。
銀色の髪に綺麗なアンバーの瞳。綺麗な瞳が凄く悲しそうに感じた。
その人はすぐに身をひるがえして部屋から出て行く。
引き留めたいと思って身体が動き出しそうなのを、何でと心が疑問に思い動けない。
なんだろう、自分の身体ではないような気がする。
私の前に綺麗な女の人が座る。ブルーの瞳が印象的で綺麗だが、何故か怖い。
「私はリリアです。私の事覚えていますか」
私は首を横に振る。彼女は物腰は柔らかなのに、どこか苛立つ感じがした。
「私は一生貴女から許されなくても良いです。が、私がここに居られるのは貴女のお陰らしいので、少しは力になろうかなと思います」
私には理解できない事を言うと、彼女は笑い私の額に手を当て何かを唱える。
急に頭の中が真っ暗になって、頭の中で何かが音を立てて破裂する。
身体に力が入らず倒れる感覚。リリアが私の身体を支える。
「強力な呪いがかかっています」
「……どうなりますか?」
「少し時間を下さい。この国でしか採取出来ない植物や果実はありませんか。すぐ確認したいです」
「わかりました。では、こちらに」
リリアは眼鏡をかけた人と一緒に部屋を出た。
ルード様とエマの3人だけになる。
自分ではどこも悪くないのに、なぜルード様は悲しい表情をしているのだろう。
「ルード様、私はどこか悪いんでしょうか」
「ナディア。君は記憶が、少しの間無くなってる。今はゆっくり過ごす事だ」
「記憶が……無くなってる?」
私のどこの記憶がないのだろう。困惑している私にエマがトレイにお皿を載せて来る。
「まずは何か食べませんか?まずは重湯をお召し上がり下さい」
「では、そろそろ席を外そう。何かあったらすぐ呼んでくれ」
ルード様が振り向き、一言。
「あまりアイツを悲しませてやるな」
一瞬胸が苦しくなる。どう言う意味なんだろうか。心のどこかに引っかかる。
エマを心配させないように重湯を食べ、少し起き上がり歩く事にした。この部屋を確認したかった。
窓辺に置いてある宝石箱に目が止まる。私の知らない装飾が施されている宝石箱だった。気になって箱を開けた。
グレーダイヤモンドのイヤリングとネックレスに指輪が入っていた。とても綺麗で見ているだけで安心する。
なんとなく指輪を手に取る。
『愛しいナディアへ』
『ノアより』
指輪の内側に彫られた文字を見た瞬間、心臓が痛いくらいに動き出した。
私は何を忘れているのだろう。ちゃんと思い出さないといけない気がする。
「エマ、私の無くなった記憶を教えて」
「無理に思い出さなくても……」
「お願い」
「わかりました」
諦めたエマは口を開く。エマの話だと、私とノア殿下は婚約しているのだと言う。私たちは幸せだった。この国には、私はノア殿下の婚約者としてこの国に来た。
「ナディアお嬢様はノア様に頂いたイヤリングとネックレスをとても大事にしておりました」
見てるだけで安心した宝石は私にとって、とても大切な物だった。
「付けてみていいかな」
「もちろんです」
付けて鏡を見る。私の瞳の色と似ていて綺麗だった。動くと揺れるイヤリングを見ていると、小さく扉が叩かれる。
「少し話がしたいんだ。良いかい?」
「はい」
銀色の髪とアンバー色の瞳の方が入ってきた。ノア殿下だ。起きたばかりの時に視線が合った時と表情が違ってびっくりする。凄く柔らかく微笑んでいる。エマは気を利かせて部屋から出て行く。
ノア殿下と2人きりで凄く緊張する。
「ノア殿下、私に御用ですか」
「少し話しに来ただけだよ。食べたりしないから、かしこまらないで。それに僕の事はノアで構わないよ」
「そ、そんな」
「お願い」
「……ノア様」
「うん。ありがとう」
綺麗な笑顔なのに悲しそうに笑う。ノア様を見ると私まで悲しい気分になる。
ノア様は私の前に立ち、イヤリングを触る。
「付けてくれたんだ。ありがとう」
なかなかイヤリングを触るのをやめてくれないのでどんどん恥ずかしくなる。
「ナディアは綺麗だね」
ノア様の手が私の頬を撫でる。ルード様は怖かったのにノア様は安心する。
もっと触れたいなんて、なんて事を思ってしまったのだろう。
「ナディアと話せて良かった。ありがとう。またね」
そう言うと部屋を出て行った。
ノア様の熱がなくなった頬が寂しいなんて私はどうしたんだろう。他の人に聞こえそうなほど鼓動が高鳴っている。ノア様が出て行った扉を、エマが入ってくるまで見ていた。
私が目覚めてから1日が経った。
なかなか、寝付けなくて外の空気に触れたかった。
私は今、ノア様の事ばかり考えてしまう。
忘れるように庭園の薔薇の前まで歩いて来た。
私の庭の白薔薇はどうなっているかしら。手入れは出来ているかしら。
薔薇の花弁に触ろうとすると、背後から優しい声がする。
「どうしたんですか?」
「あっ。いえ。少し眠れなくて」
「僕も一緒です。今日は星が輝いていますね」
今日は新月で空には星だけ輝いてる。
「ナディア、願い事叶えませんか?」
「えっ?願い事?」
「新月に願い事をすると叶うんです。どうぞ」
ノア様から紙とペンを渡される。
「叶えたい願いを書いて下さい。叶えたいじゃダメですよ。叶えたって思って書くんです。例えば、ナディアと話したいじゃなくて、ナディアと話して楽しかったって書くんですよ」
今叶えたい願い。1つしか浮かばなかったけど、恥ずかしくて書けない。それを悩んだと思ったのかノア様が笑ってる。笑顔が見られて凄く嬉しかった。
「新月はまだ消えないのでゆっくり考えてくださいね」
ノア様と一緒にベンチに座る。隣を見ると真剣な表情でペンを持ち紙に書いてる。ペンにはアンバーが付いていて、横顔のノア様の瞳と合ってとても綺麗だった。
「そのペン、綺麗ですね。凄くお似合いです」
「うん。そっか。……気付いてくれてありがとう」
ノア様が、私の顔を覗きこむように見て嬉しそうに笑う。その表情が私をドキドキさせる。
「僕は書き終わったよ。ナディアは?」
「もう少し考えます。……ノア様はお願い事をする為にここに来たのですか?」
「そうだね。眠れなかったし、少しでも可能性があるなら頼りたいって思っちゃった」
ノア様はベンチから薔薇が咲いている場所へ歩いて行く。その間に私は紙に叶えたい願いを書いた。
『記憶を取り戻して大切な人の隣で笑っている』
恥ずかしいけどこれが私の今の願い事。
書き終わりしばらくするとノア様が戻ってきた。
「書けたかな?」
「はい」
「お互い願い事が叶うように祈ろう」
手を組み目を閉じて、新月に願い事が叶うように祈る。
目を開けると目の前に一輪の白薔薇が現れる。
「ナディアにあげる。奥の方でひっそりと咲いてるんだ。取っておきの白薔薇だよ」
突然現れた白薔薇を受け取る。嬉しくて泣きそうになる。泣かないように心からの笑顔でお礼を言う。
「ありがとうございます。ノア様」
「喜んでくれて良かった。僕は君の笑顔が好きなんだ。……僕の願い事叶ったよ。ナディアのその笑顔が見たかったんだ」
綺麗に笑う笑顔と優しさに私は2度目の恋をした。
読んで頂きありがとうございます!




