第二部 9
楽しんで頂けると嬉しいです!
ノア様と新月の願い事をしてから1週間。
花瓶に入った7本の白薔薇を眺めて新月に書いた願い事の紙を見る。私の願いはいつ叶うんだろう。
窓の外にある上弦の月を見上げる。
(早く思い出したいな)
私にかかっている呪いはまだ消えていない。いや、正確には消えてはいるが効果が継続している。
昨日、すべての呪いが解かれたはずだった。
リリアさんは私が記憶をなくす前に、何か悩んでいたのではないかと言っていたが私はわからない。
私はため息を吐くとテーブルに突っ伏した。
しばらくすると扉が叩かれる。
「ナディア入るよ」
「はい」
ノア様の優しい声がする。毎日のようにノア様は白薔薇を一本ずつ持ってきてくれた。それから、少し話をするのが習慣になりつつある。
「ナディアどうぞ」
「いつもありがとうございます」
いつものように白薔薇を1本ノア様から頂き花瓶に入れる。ノア様は8本になった花瓶を見る。リリアさんから花が枯れない水を貰ったためずっと綺麗に咲いている。
「僕が君を支えるから大丈夫だよ。全てを思い出しても怖がらないで」
急に抱きしめられ囁かれる。私には意味が分からなくて戸惑ってしまう。ノア様は離れて私に椅子に座るように促しノア様も私の前に座る。
「ナディア、話をしよう。僕しか知らない君の秘密を」
ノアは真面目な表情で私を見る。
「君は今、4度目の人生なんだ」
想像もしていない言葉に、私は声が出ない。
1度目は皇帝陛下に毒を盛ろうとした罪。
2度目はウォール国の貴族と繋がり間者となった罪。
3度目は知識を高め国家反某を企てた罪。
私は3度死んでいる。死ぬとルード様との婚約発表の日に戻ると言う。
「僕も君から聞いた話だから、詳しくはわからない。僕は震えながら一生懸命伝えたナディアの姿は嘘じゃないと思うんだ」
ノア様は私の手を掴んで俯いた。胸の奥が痛い。
「3度僕はナディアを助けられなかった。ごめん。……これからは僕が君を守るよ」
ノア様は椅子から立って、窓辺に置いてあった宝石箱に近づく。
「宝石箱開けていい?」
「はい」
何をするんだろうと思っていると、婚約指輪を取り私の前まで来る。
「こっちを向いて」
ノア様は私を立たせる。ノア様は跪き私の手を取る。
「ナディア。君がどんな君でも構わないんだよ。笑い方も考え方も変わらない、僕が好きになったナディアなんだ。いろんな事で苦しんでいた君を助ける事ができなくてごめん。僕が一生をかけて君を幸せにする。もう一度、僕の婚約者になってくれる。僕の1番大切な人になって欲しい。愛してるナディア」
優しく笑っているノアの姿が二重に見える。
『ナディア嬢。赤毛の髪もグレーの瞳も。貴女に似合っている。とても美しい』
『良かったね。ロージー。ナディアと一緒に暮らせるのは幸せ者だよ』
『僕の気持ち。ナディア受け取ってね』
『……ナディア。本当に僕の花嫁になってくれるの?』
『やっぱり可愛い事言う。ナディアは僕がどれだけ君の事好きかわかってる。これ以上、好きにさせてどうする気なの?』
『ナディア愛してるよ』
涙が溢れ顔を両手で覆う。ノアと私が歩んできた人生の4度目までの記憶が蘇った。
物凄く温かい気持ちがいっぱいになる。
だから、ノアが私の事を嫌いになってしまうんじゃないかって怖かった。とても怖かった。ノアは優しいから仕方なく一緒にいてくれるかもしれない。そう思ってしまうのが嫌だった。
「私でいいの。気持ち悪いと思わない?」
「もちろんだよ。ナディア」
「ノア。私を婚約者にして下さい」
ノアは驚いて目を見開いた顔をして、すぐに嬉しそうに笑う。
「ナディア。本当に記憶戻ったの?」
「うん。私の事を信じてくれてありがとう、ノア」
ノアは私の手の甲に口づけして私の指に指輪をはめる。凄く嬉しい。私は記憶がなかった時も忘れてはいなくて、どんなにノアが私を大切にしてくれたか思い知らされた。
「ずっと触れたかったんだけどナディアに触れていい?」
頷くとお互いに見つめ合う。ノアは私を抱きしめる。私も触れて欲しかった。ノアの温もりを感じたかった。ノアの瞳に涙が浮かんでる事は私の心に閉じ込めておく。
手を繋ぎながらバルコニーに出て上弦の月を2人で見上げる。隣にノアがいるのがとても嬉しい。
(手からノアの体温を感じる)
ノアが小さく深呼吸して私の目を見る。
「ナディアに僕の秘密も教えてあげる。君が知りたがっていたエルムの正体」
ノアは小さな瓶を取り出し一口飲む。髪の色と瞳の色が変わっていく。
「……エルム」
「実際に髪の色や目の色は変わっていない。色が変化するように見える呪いなんだ」
ノアは黒髪に赤い瞳になる。
「トーマは少し呪いを勉強していてトーマに作成してもらったんだ。このままの姿じゃ出来ないこともあってね、エルムの名を使っていたんだ。皇帝陛下と仲が悪いわけじゃないんだけど、兄上たちとの仲はあまり良くない。1番下だから、王位継承が低い僕は兄上たちの手や足になるしかなかった。ナディアに言えない事も沢山してきたんだよ」
ノアは悲しそうな表情で笑って繋いだ手に力がこめられる。ノアの姿がだんだんと元に戻っていく。
「こんな僕でも好きになってくれる?」
「何言ってるの?嫌いになんかなれないよ」
「本当に?」
ノアは私の顔を覗き込む。上目遣いで見られると凄くドキドキする。
「今思うと私、エルムに助けられてた。ありがとうエルム」
「なんか、エルムの名で褒められた事なかったから、なんか変な気分だね。僕がナディアを助けたわけじゃないのに」
「どんなノアでも、どんなエルムでも貴方でしょ」
お互いに吹き出し笑い合う。
『記憶を取り戻して大切な人の隣で笑っている』
新月のお願い事が叶った。
私は大切な人の隣で笑ってるのね。
(本当に幸せだわ)
不意にノアの手が頬に添えられる。真剣な瞳が私を捉える。私は目を閉じて唇にノアの熱い口づけを受け止めた。
読んで頂きありがとうございました!




