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演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第3話「正義のみかた」
59/62

幕間・イリヤイザベル=アンバーコート

『イリヤ』


 その単語が出てきて、一番に反応したのは劇場主だった。

 その場で立ちあがり、その勢いで座っていた椅子が後ろに倒れる。それを気にする素振りもなく、劇場主は本に近付いた。


「心当たりでもあったのか?」

「……やられました。この現象、少なくともアンバーコートが絡んでいます。それも、神敵と判定されるほどの脅威となるくらいに危険な男です。」


 アンバーコートが指名手配され処分される理由。旧時代の竜の能力を持っていることもあるが、一番大きな理由は創作者()の敵であるからだ。中でもイリヤは劇場主と過去に争ったことがある。今回こうして物語を引っ掻き回しているのもその延長戦であるとすると真意は理解できないが理由のひとつとして納得はできる。自らが殺されかけた復讐。過去の屈辱を晴らす。大義名分はいくらでもある。


「『イリヤイザベル=アンバーコート』。彼は一度ワタクシの前に現れたとき、そう名乗っていました。まさか生きていたなんて。」

「つまり、黒幕はそのアンバーコートということか。」

「間違いなく。」

物語警察(こちら)では荷が重いな。天使を呼ぶしかないか。」


 アンバーコートは神の敵。それ故に神に仕える天使たちが日夜追いかけ捕まえて殺す。警部補は天使に状況を伝えるべく部屋を出ようとするも、足を止めざるを得なくなった。

 部屋のノブを回そうと手を伸ばした時。部屋のなかにノイズが響く。ハウリングする音に思わず劇場主も警部補も眉が寄る。


「御機嫌よう、物語警察の諸君。私はイリヤ。」


 本を遠隔で調べるための機械は動きを止め、変わりに青緑色のレーザー光線が誰もいないところに照射され、立体ホログラムを作り出す。優雅な微笑みを浮かべた初老の男性の姿だ。何処にでも居そうな、落ち着いた優しげな雰囲気の振る舞いは毒気を抜くような穏やかさで、神に対して敵対しているとは俄に信じがたい風貌をしていた。


「仕掛けは終わったのでね。出ようと思っていたが封鎖されてしまって、出られないからこうして挨拶させてもらったよ。本当は主人公たちが勢揃いしてからの予定だったのだけれど、迂闊だった。白鶴さんの発言を隠蔽(マスク)するのを忘れていてね、まさか白鶴さんが外出した上人と話して私の存在を最初にばらすとは思わなかった。本人もわざとではなかったとはいえ、あれは焦ったなあ。」

「イリヤイザベル。どうやって天使に捕まったお前が生き延びてワタクシの舞台に乱入したのかしりませんが、二度はありませんよ。今度こそ、ワタクシが仕留めますから。」


 劇場主の強気の姿勢にも、イリヤは全く動じることなく笑う。

 その様子に周りは不安を強く煽られる。目の前にいるのはただの犯罪者ではない。天上の者たちの敵、産まれながらの反乱分子。自分達でどうにかできる次元を越えている。その不安や恐怖を察知しているのか、イリヤは更に煽る。


「フフ、やれるものならやってみればいいさ。もし今天使を送り込むためにこの封鎖を解こうものなら、この世界線は放棄する。そうだな、派手に爆発させようか。そうなれば当然、この封鎖で守られているお前たちも道連れになる。本とはいえ世界線一つ分のエネルギー、直に食らえば警察署(ここ)ごと、この辺り一帯は更地になるかな?」


 穏やかに、丁寧に、当たり前のように、綺麗な笑顔で脅しをかける。立体映像は部屋を出ようとした警部補の目の前に一瞬で移動し、下から覗きこむようにして目を合わせる。

 押し退けて距離を取ろうとしても相手は立体映像、手はイリヤの肩を貫通する。


「言っただろう?挨拶だと。私は直接危害を与えたいわけではない。」


 警部補の顔色も悪い。いつ暴発するかわからない爆弾をしょいこんでいたのだ。思考がめちゃくちゃになりながらも、それでもなんとか震える声を絞り出す。


「お前は一体何がしたいんだ……復讐か?」


 警部補たちとは対照的にイリヤはずっと楽しそうに、愉快であると言わんばかりに笑っている。


「それは、これからのお楽しみだろう?」

次回は11/3を予定しております。

イリヤの本名について、一部の方はすぐにやべー名前だと気付かれたと思います。が、あくまでフィクションなので実在の宗教を貶めたり否定する意図はありません。

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