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演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第3話「正義のみかた」
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「破邪の太刀」課外授業

「やあ、白鶴さん。私の変わりにここまで来てくれてありがとう。でも事情が少し変わってね、私も参加することにしたよ。三門さんも、ちゃんとあの教会まで行けたようだね。」


 手招きされ、ある一室に通された。12畳ほどの何もない部屋。片付けられているのもあるが、この屋敷は普段からそんなに使われていないから部屋によってはもて余して納戸にしている部分も多い。そこに面すらつけていない男が立っていた。

 男はあの神に親しげに呼び掛ける。『白鶴さん』が本当の名前だとすると、ここのルールを理解していないように思う。お嬢様なんて、半分とはいえ名前を呼ばれてちょっと戸惑っているようだ。


「それでは、これから課外授業を始めようか。」


 凍りついた空気をものともせず、男はそう、宣った。


「一般人がこんなところに入り込むなんて。そういうの、余所でやってもらえます?」


「もちろん、知っているよ。『ここでは自らの正体を明かしてはならない。』お互いの為だからね。ではなぜそうする必要があるとされているのでしょうか。」


 学校というものに縁がないが、おそらくこれが授業というもののつもりなのだ。生徒はお嬢様(三門貞香)。ここでやろうとするな。別のところに行け。


「あの人、おかしいと思いまセンか?」


 伊呂波がそっと近づいて小声で話してくる。


「たしかに掟をあえて無視する、変な奴だとは思う。」

「そうではなくて、気配がしないんデス。部屋に入るまでは確かに気配がしていたんデス。事件現場に残されていたものや、白鶴さんの気配の一部にそっくりな。でも、対面したら、何の気配もありません。あり得ない。」


 改めて上から下までしっくりと観察する。気配が感じられない。違和感もない。異物感もない。存在感も。人でも、妖魔でも。何でもないのだ。空気に話しかけているようなものだ。急に背筋が冷たく感じる。なんで今まで気付かなかったんだ。


「あなたなら、ご存知でしょう?」


 目が合う。人でも妖魔でもない、気配もない。幽霊、という言葉が頭を過ぎる。でも、幽霊はあくまでも創作だ。今まで一度も見たことはない。


「……知恵のある妖魔、特に悪魔にはある能力がある。人が代償を捧げる変わりに、妖魔はその人間に人智を超える力を与える。それが『妖魔契約』。契約を結ぶ手順として、相手の名前を知る必要がある。ここは半妖魔も妖魔もいる。うっかり名前を呼ぼうものなら、契約が発動して望まない事故を起こしてしまうかもしれない。」


 良くできた絵画。目の前の男はそんな印象だ。

 人の中に混じった、絵に描かれた人。次元が違う。そう考えるのがしっくりする。白鶴さんと呼ばれた神も。妖魔の気配と神格の気配に隠された決して越えられない一線だ。


「御名答。覚えておくといい、名前は存在を縛るものだよ。他の理由も似たようなものだね。ここには妖魔も、呪術師もいる。名前を通して呪いをかけられることを防ぐ目的もあるんだ。呪いは姿か名前が解っていればどんな存在でも使える。この業界の人間が顔を隠したがるのもその延長。」


「なら、なぜあなたはそれがわかっているノニ名前を呼び、顔を晒すのデス?」

「彼は神だ、低級でもね。呪い返しや祟りのリスクを背負ってまで神にちょっかいかけることはしないだろう?」

「アナタ、まさか神だと言うのデスか?」

「そんなわけない。ただそんな小細工、効かないだけだよ。試してみればいい。もっとも、私の名前を君が知っていればの話だけれど。」


 余裕の態度。勝者の風格。伊呂波は名前も知らぬこの男をどうすることもできない。さらにいえば彼はあくまで律子の所有物だ。律子の許可なく物が人を傷付けることはできない。それが分かっているからこの男は余裕を崩さない。

 見え透いた煽りをうけて、伊呂波は珍しく何もできずに黙るしかなかった。

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