↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士団の命令を拒否した平民騎士は、何を守るのか ―ザイファール戦記―  作者: 鈴ヶ峰 リン
ミストラ水上神殿編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/74

第67話 立つ位置

 ワトルは、リアの報告を黙って聞いていた。


 部屋にはクランとアリシアもいる。

 アリシアはクランの近くに立ったまま、口を挟まずに二人の話を聞いていた。


 水上神殿では、結界の補強を続けても弱まりは止まらず、封印の力が残っているうちにヴァルネスを討つことになった。


 戦いには勝ち、神殿も守られた。


「当面は問題ないんだな」

「はい。差し迫った危険はありません。神殿側も落ち着きを取り戻しています」

「そうか」


 ワトルが頷く。

 リアは続けた。


「それと、おじ様。もう一つ、ご報告があります」

「何だ」

「帰った時、玄関は外から見た限りではいつも通りでした。ですが、鍵を使う前に扉が開きました。玄関の鍵が掛かっていなかったのです」

「鍵が開いていたのか?」

「はい。出る時には、私が確かに掛けています」

「中は確認したのか」

「はい。クランと一緒に」


 ワトルの視線がクランへ向く。

 クランは短く頷いた。


「誰もいませんでした。玄関にも窓にも壊された跡はありません。中が荒らされた様子もありませんでした」

「盗られた物は?」

「今のところ、なくなった物はありません」


 ワトルは組んでいた指をほどいた。


「なら、物盗りと決めつけるのは早いな」


 リアが頷く。


「しばらく、屋敷の周りは見させよう。何もなければそれでいい。きみたちも、出入りの時は気をつけなさい」

「ありがとうございます、おじ様」


 それ以上、ワトルは追及しなかった。


 リアも小さく頷いた。

 ワトルは今度はクランを見る。


「クラン。少し時間はあるか」

「はい」

「なら、少し付き合え」


 クランは理由を尋ねなかった。

 立ち上がると、アリシアが顔を上げる。


「くらん、いくの?」

「ああ。行って来る」

「うん」


 リアとアリシアを残し、クランはワトルの後について部屋を出た。



 ◇



 ワトルが向かったのは、屋敷の訓練場だった。

 二人は稽古用の剣を手に、向かい合う。


 ワトルが静かに息を吐いた。


「いつかの約束通り、剣を見てやろう」


 クランは剣を構えながら、目の前の老人を見た。


 派手な構えではない。

 剣先にも、身体にも、目立った力は入っていない。


 それなのに、一歩踏み込もうとすると、その先にワトルがいる。


 右へ回ろうとすれば剣先がこちらを向き、間合いを外そうとすれば、それを追うのではなく、逃げた先を塞ぐ位置へ立っている。


 速いのとは違う。

 余計な動きがない。


「来い」


 クランは踏み込んだ。

 正面から打ち合わない。


 剣を合わせる直前に角度を変え、ワトルの剣筋の外へ身体をずらす。

 そのまま脇へ抜け、返す剣を胴へ向けた。


 だが、その剣先が届く前に、ワトルの剣が止まった。


「今のは、それでいい」


 クランは構えを解かない。


「……いいんですか」

「一人で戦うならな」


 ワトルは訓練場の端に立つ杭へ目を向けた。


「今度は、あそこに人がいると思え」


 クランも杭を見る。


「そこを背にしてみろ」

「はい」


 位置を変える。

 杭を背後に置き、クランは再びワトルと向かい合った。


「行くぞ」


 今度はワトルから踏み込んだ。


 斜めに剣が入る。

 クランは反射的に身体を外した。


 先ほどと同じだ。

 自分へ届く剣筋から離れ、そのまま反撃へ移れる位置を取る。


 だが。

 ワトルの剣は、クランが外れた空間をそのまま抜けた。


 剣先が、背後の杭へ向かう。

 届く寸前で止まった。


「今のは駄目だ」


 クランはワトルを見る。


「……何が違うんですか」

「お前は避けた」


 ワトルは剣先を下げる。


「だが、後ろは空いた」


 クランは振り返った。

 杭がある。


 そこに誰かが立っていたなら、今の剣は自分ではなく、その相手へ届いていた。


「避けるな、ということですか」

「違う」


 返事はすぐだった。


「避けていい。受けてもいい。先に潰せるなら、それでもいい」


 ワトルは自分の立っている場所を剣先で軽く示す。


「ただ、何を守っているかで、立てる場所は変わる」


 クランは黙って聞いている。


「相手だけを見るな。自分が退いた後ろも見ろ」


 それだけ言うと、ワトルは再び剣を上げた。


「もう一度だ」

「はい」


 クランも構え直す。

 今度は、すぐには踏み込まなかった。


 ワトルを見る。

 その後ろではない。


 自分の背後にある杭へ、一度だけ視線を向ける。

 先ほどより半歩、立つ位置を変えた。


 ワトルが動く。

 同じ角度から剣が来た。


 クランは外へ逃げなかった。


 身体を開きすぎず、剣を斜めに合わせる。

 正面から受け止めるのではなく、力を横へ逃がしながらワトルの剣筋をずらした。


 杭へ向かっていた線が外れる。

 そのまま反撃へ移ろうとする。


 だが、一瞬遅い。

 ワトルの剣が返り、クランの脇腹へ触れる直前で止まった。


「今の方がいい」


 クランは息を吐く。


「ですが、遅いですね」

「分かっているならいい」


 ワトルが剣を戻す。


「守る方を気にして、自分の次が止まれば意味がない。そこは慣れろ」

「……はい」


 クランは一度、握った剣を見る。

 今までなら、自分へ向かう剣と、その先にいる相手を見ていた。


 それだけでは足りない。

 もう一度、背後の杭を確認する。


 そして、剣を上げた。

 ワトルがわずかに顎を引く。


「もう一本だ」

「お願いします」


 二人は、再び向かい合った。


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


 皆様からいただく、応援やコメント、ブックマークや評価が、執筆を継続する最大のモチベーションになっています。


 もしよろしければ、評価やコメントにご協力いただけると嬉しいです。


 次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。