↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士団の命令を拒否した平民騎士は、何を守るのか ―ザイファール戦記―  作者: 鈴ヶ峰 リン
ミストラ水上神殿編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/74

第64話 帰る場所

 白い神殿の向こうで、湖面が穏やかに光っていた。


 クランたち四人が神殿の正面へ出ると、入口の近くにエルフィーナがいた。


 神官たちはそれぞれの持ち場を行き来している。

 交わされる声も、足音もある。


 封印を巡る異変の最中にあった張り詰めた空気は、少しずつ薄れていた。


 誰かが駆ける姿はない。

 リアは一度ゆっくり息を吐き、その隣ではアリシアが湖の方を眺めていた。


 エルフィーナは四人が近づくのを待ってから、胸の前でそっと手を重ねた。


「皆さん、今回は本当にありがとうございました」


 リアが小さく首を振る。


「こちらこそ。エルフィーナさんがいてくださったからこそです」

「私は、できることをしただけです」

「それでも、助けていただいたことに変わりはありません」


 リアがそう返すと、エルフィーナはわずかに表情を緩めた。


 プレデリカも短く頷く。


「世話になったわ」

「こちらこそ」


 それからエルフィーナは、背後に立つ神殿を振り返った。


「ローウェン様が守ってくださったこの神殿を、失わずに済んで……本当に良かったです」


 その声は、先ほどまでと変わらず穏やかだった。


 クランは一度だけ神殿へ目をやった。

 少し間を置いて、口を開く。


「……俺たちだけで守ったわけじゃない」

「はい」


 エルフィーナは静かに笑った。


 アリシアは二人のやり取りを聞きながら、神殿とエルフィーナを交互に見ていた。

 やがて一歩前へ出る。


「えるふぃーな、またね」

「はい。またお会いしましょう、アリシアさん」

「えるふぃーなは、いっしょにこないの?」

「私はここに残ります。まだ、ここでやることがありますから」


 アリシアは神殿を見上げ、それからエルフィーナへ顔を戻した。

 少し考えるように首を傾げたあと、納得したように頷く。


「わかった」

「アリシアさんも、お元気で」

「うん」


 リアがクランとプレデリカへ目を向け、アリシアの手を取る。


「では、行きましょうか」


 二人が頷いた。

 エルフィーナはもう一度、四人へ向き直る。


「お気をつけて」


 その声を背に、四人は神殿を離れた。


 湖沿いの道を少し進んだところで、アリシアだけが振り返る。


 白い神殿は、まだはっきり見えていた。


 入口にはエルフィーナが立っている。


 アリシアが大きく手を振ると、エルフィーナも小さく手を上げた。

 アリシアはそれを見届け、今度こそ前を向いた。


 隣を歩くリアも、プレデリカも何も言わない。

 四人はそのまま、マルムへ続く道を進んだ。



 ◇



 見覚えのある屋根や通りが増えてくるにつれ、アリシアの足取りが少しずつ軽くなった。


 道の先を見ては、知っているものを確かめるように左右へ顔を向ける。


「まるむ、ついた?」

「はい。戻ってきましたよ」


 リアが答えると、アリシアは満足そうに「うん」と頷いた。


 人の声が聞こえ、通りにはいつものように人が行き交っている。


 アリシアは知っている道を迷わず進み、途中で何度か足を緩めてリアが並ぶのを待った。


 クランとプレデリカも、二人に合わせて歩く。


 ミストラ水上神殿へ向かった時と同じ四人だったが、今は誰も先を急いでいなかった。


 やがてワトル邸の近くまで来たところで、プレデリカが足を止める。


「私はここで別れるわ」


 リアも立ち止まった。


「分かりました。プレデリカも、今日はゆっくり休んでください」

「貴女もね」


 プレデリカはクランを見る。


「クランも、今日は休みなさい」

「はい、隊長」

「ならいいわ」


 アリシアがその顔を見上げた。


「ぷれでりか、またね」

「ええ。またね、アリシア」

「うん」


 リアが軽く頭を下げる。


「では、また」

「ええ」


 そこでプレデリカと別れた。


 プレデリカが別の道へ向かうのを、アリシアは少しだけ目で追った。

 けれど呼び止めることはなく、姿が離れるとすぐにリアの隣へ戻る。


 三人になっても、行き先を確かめる言葉は出なかった。

 リアとアリシアが先を行き、クランも同じ道を進む。


 アリシアは何度か辺りを見回したものの、曲がり角で迷うこともない。

 リアも進む方向を示す必要はなかった。


「りあ」

「はい?」

「のどかわいた」

「では、戻ったらお水にしましょうか」

「うん」


 アリシアは頷いた。

 数歩進んでから、ふとクランを振り返る。


「くらんも?」


 クランが一度だけ目を瞬く。


「……ああ、そうだな」

「じゃあ、いっしょ」


 アリシアはそれだけ言って、また前を向いた。

 リアの口元に小さな笑みが浮かぶ。


 やがて、グローリー邸が見えてきた。


 アリシアは見慣れた建物を見つけると、今までと同じ調子のまま自然に歩調を速める。


 リアも止めず、その後を追った。

 クランも少し間を空けて、そのまま続く。


 窓は閉じている。

 玄関扉も、いつも通り閉まっていた。


 アリシアが玄関の前へ立つ。


 リアは鍵を取り出し、手の中で向きを確かめた。

 鍵穴へ差し込むより先に、アリシアが取っ手へ手を掛ける。


 次の瞬間──取っ手が下がった。


 そのまま、扉がほんの少しだけ内側へ動く。


「え……?」


 リアの手が止まる。

 アリシアも動きを止め、振り返った。


「……鍵が掛かっていません」

「出る時は?」

「掛けました」


 リアの手には、まだ使っていない鍵が残っていた。


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


 皆様からいただく、応援やコメント、ブックマークや評価が、執筆を継続する最大のモチベーションになっています。


 もしよろしければ、評価やコメントにご協力いただけると嬉しいです。


 次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。