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ダラダラ生きればいいんじゃない  作者: 鈴木樹蘭


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第29章 現実逃避

 何者にも侵されない世界。

 森の中に流れる清流。

 どこまでも見通せる青い空。


 そんな世界があればいいと思うかもしれない。

 でも、きっと、そんなものでは満足できない。

 たぶん、いや絶対に満足できない。

 

 正論というのは、外交的な人間の主張である。

 内向的な人間の意見は広がらずに、正論にはなりにくい。

 すべからく、社会を導くのは正論であるのだが、そこに真実(正解)があるとは限らない。


 「現実逃避する人が増加している。」

 そんな嘆きの声が聞こえる。


 この世界がおもしろくないから、現実逃避するのか?

 逃避した先がひどくおもしろいからなのか?

 別に、現実逃避する方が悪い訳でもないし、もちろん非難する気もない。


 異世界という言葉は、とても都合よく、魅力的である。特に、正論に居場所を奪わられた悲しき内向型人間にとっては、格好の逃げ場になってしまう。


 そこには、人間を超越した力が存在し、劣等感に打ち砕かれた輩も、そこでは勇者となり得るのだ。

 本当の勇敢さなど有していない勇者の偶像を体現するわけだ。世界を支配する正論に嫌気がさした内向型人間は、本来の役目も忘れて、そこに落ちていく。


 この世界には何十億人もの人がいる。リアルにおいて、その全てが、カッコイイヒーローになることはできない。

 底辺に沈んだ人々の多くは、自らの無力さを知り、低域欲求の実現だけで妥協する。

 もしくは、低域欲求すらも満たされず、社会からはじき出されたクズとなる。


 でも、その部分に関して言えば、世界は寛容なのだ。そんなクズにも生きる権利を与えている。もちろん、厚遇には程遠いだろうが、少なくとも、今の日本であれば、簡単には飢え死にしない程度の扱いは保証されている。


 これから先、世界には大量のクズが発生するだろう。

 でも、世界は、そんなクズを養う力を持ち得るだろうとも思う。問題なのは、そんなクズ達が殺人を犯す、または、虚言を撒き散らすことなのだ。


 クズであろうと、なんであろうと、存在、そのものを否定する気など毛頭もない。

 おとなしく異世界にでも行って、遊んでくれていればいいのだ。しかし、皆が皆、そうはいかないのが現実というものだ。

(このクズ達の居場所の重要性については、またの機会に書きたいと思う。)


 今は、まだ、過渡期である。

 だから、ボトムキープをして、しっかりとリアル社会で居場所を確保しながら、未成熟な異世界を楽しむ必要がある。内向型の人間だからと言って、全てがクズに成り下がる訳でもない。中には、冷静に世界を見つめ、この複雑怪奇な世界を渡り歩いていける輩もたくさんいるはずである。


 仮想空間の快適さは、今後、どんどんと向上するだろうが、リアルの快適さは頭打ち、下手すれば悪化する。そうなれば、どんどんとクズが増加するのは目に見えている。

 そんな世界の中で、一握りの優秀な人材が世界を牽引することになるだろう。


 そうなれば、その他の凡人は、その欲求を最大限に満たしてくれる仮想世界に没頭していく流れになるのは必然。

 現在の言葉を借りれば、現実逃避である。

 いつしか、仮想世界は現実世界を凌駕するだろう。

 経済的にも、人が費やす時間の総計も、リアルよりバーチャルとなる日も、そう遠くはなさそうである。


 人は何を求めて生き、その結果として、どこへ流れつくのであろう。いつしか、リアル世界が崩壊するまでの間、どのようにあがくのか。なかなか、興味深いところだ。


 何しろ、他人を打ちのめすのが好きな人間である。そんな欲求を満たしつつ、更なる欲求である慈愛や探求心を引き出せるような世界をうまく構築できるだろうか?


 たぶん、人が人を統治しようとしている内は無理だろう。

 大量データの公平な分析ができて、且つ、個人的な欲求を持たないもの。それは、進化したAIしかない。


 人事を尽くさずに天命を待つ者としては、まるで宝くじを引くように、ただただAIが当選する日を待つしかできないが、そんな世界があるならば、行ってみたいものだ。


 AIが世界を統治した平和なる世界。

 生産も経営も、ほとんどのものが機械だけで賄われる世界。

 人は創造力を提供しながら、世界の方向性だけを示す存在となる。AIは百億の人の意思と望みを分析して、世界の方向性を決定する。

 

 多くの人は仮想世界で会話して、娯楽を楽しみ生きている。

 現実以上に多様で心地よい仮想世界を知れば、人は戻れなくなる。

 現実の世界で想像の世界を広げ、仮想世界で具現化する。

 

 それまでの間、クズにもならず、世を牽引するようなはりきり者にもならず、ダラダラと暮らしながら待つのも一興か。


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