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07:激動

「……じゃあ、俺は地獄にいるけれど、ほんとうの意味で地獄にいるわけじゃないってことか? 俺が想像してた地獄とは違う。ただの世界なんだ地獄は。苦しみ続ける流魂奴にとって地獄なだけ……?」


 ゼルから衝撃的な事実を知る。なら……なら、どうしてこの世界は戦いに溢れている感じなんだ?


「なぁゼル。どうしてこの地獄はこんなに物騒なんだ? 人が住んでるだけでどうしてこんなに争う?」


「さぁね。けどアルターエゴなんて代物が存在していれば使いたくもなるのが人間だよ。君だってそうだろう? そこに強い力があって使えるなら使うんだよ」


「そんな、そんな理由だけで人が戦うっていうのか?」


「おいおい、戦いが好きなくせに戦いを否定するのか? まぁいいけどさ。一つわかるとすれば、アルターエゴは人間を開放する道具なんだよ。あり得ないことを操縦者のエゴによって可能とする奇跡にして理不尽の道具」


「不満を持った人間、ワガママな人間、心の強い人間ほど強くなれるから。この地獄は理屈とか理とかそんな退屈なものじゃなく、生々しい感情で動いているんだ。アルターエゴで人が望んでいることをした結果、それが闘争、他者より奪うという行為なのさ」


 そうか、何もかも根本から違っていたんだ。この地獄って世界は……理屈や社会のルールに縛らられていた、従属していた地上の人間とは違うんだ。感情の世界……ある意味で人間らしい世界なのかもしれないな。


「俺は闘いは好きだ。でも殺し自体は好きじゃないんだよ。ワガママなのはわかるけどさ。ゼル、俺に何のようだ? 契約書をパクるために来たんじゃないだろ?」


 自分ながらエゴイスト、偽善者だと思う。けどそれが俺の素直な気持ちだ。そして悪人とは言え人を20人以上殺して対して罪悪感を抱いていないあたり、俺は自分で思っていたよりも冷たい人間なのかもな。


「そうだ、用事だ。なぁレン、もうすぐこのアルルスラントで何か、ヤバイことが起こるって言ったらどうする?」


「いやヤバイことって言われても曖昧過ぎてどうするもないだろ」


「まぁそうだな。けど、俺には分かるんだよ。もうすぐこのアルルスラントで、俺を縛り付ける何かが起きるってな。だからお前を頼りに来たんだよ」


「は? 頼りに来た? 何をするつもりか知らないけど協力しろっていうのか!?」


 俺が協力するわけないだろ。頭おかしいんじゃねぇか? それに分かるって何でだよ。何か起こるのは分かってもそれが何かわかんないってのも意味不明だ。


「そうだ、どうやら俺の力だけじゃ足りないみたいだからな。お前がいればどうにかなるかもってな。で、俺の力だけでどうにかならないってことはさ。レン、君も、そして君の仲間も無関係じゃないってことなんだよ。世界規模で何かが起こるってこと。世界規模でないなら大抵は俺だけでどうにかなるからな」


 何言ってんだよ……説得するにもやり方があるだろ……こいつは、俺がこんな根拠もクソもない話に乗るって思ってるのか? だとしたら、だとしたら……なんだ? なんで……俺、俺はこいつから説得力を感じてるのか?


 理屈じゃない、ゼルに何か起きると言われてから、嫌な感がする。全身を皮がめくれるような感覚、体が熱くなる、いやな熱さだ。同時に冷や汗をかくような、熱いのに冷たい異常な感覚が俺を捉えてはなさない。


「……分かった、協力する。今気づいたんだよ。凄く嫌な感じがするって。グチャグチャしたもんが押し寄せてくるような……」


「マスター!? え? あの流れで協力するってマジ!? マスターはゼルが気にいらないんじゃなかったのかよ!?」


 アウルがツッコミを入れる。まぁ仕方ないさ。それが当然の反応だろう。普段の俺ならあり得ない、付き合いが長くなくともこの流れには違和感を感じる方が自然だろう。


「わりぃ、困惑するよな。そりゃ……で、ゼル。俺は何をすればいいんだ?」


「俺が合図したら君のアルターエゴを呼ぶ、それだけでいい。それじゃ、またオークションで会おう」


「アルターエゴを呼ぶ……?」


 俺がポカンとしている間にゼルは部屋から出ていった。想像することよりもシンプル、そしてアルターエゴを呼ぶ、というのがよく分からなかった。


「マスター、アルターエゴは呼べば来ますよ。実際に声に出しても出さなくてもいいですけど。アルターエゴは心で強く思えば持ち主のところに来ます。それと、アルターエゴと操縦者は繋がってるのである程度は普通の人間よりエゴで強化されるらしいです」


「イグル、ありがとう……そういうもんなのか。エゴで強化されるっていうのもよく分からないけど……この嫌な感じが分かるのもその影響なのかな?」



──────



 何も起こらず二日が経つ、オークション当日だ。アルルスラント家の黒服の兄ちゃんの紹介で、俺とイルシィ達はアルルスラント家系列のホテルに泊まっていた。コンクリート造りの清潔でシンプルな四角い造形、内部の調度品もシンプルで値段も普通だ。贅沢する気がないなら何も文句はない感じ。この二日間俺はアルルスラントで動く気になれなかった。何かが起こるかもと考えると、他の何かを、仕事を背負う気にはなれなかったからだ。


 ただひたすらに装備のメンテナンス、それと格闘術の訓練をしていた。イルシィに格闘術を習っていた。やはりコロシアムをあっさり優勝するだけあって。単純に肉体が強靭だからとかパワーがあるからとかそういう理由だけじゃく、技術と戦術、センスがあった。


 イルシィの戦闘スタイルは基本カウンターで相手の力を利用するタイプ、姿勢を少し低めにしてしっかりと足を地面につけて、動く瞬間に地面を蹴り上げて一気に移動する。だから足の裏の力をかなり使う、普段あまり酷使しない部位なだけあって筋肉痛になってしまった。といっても柔軟もイルシィに痛いぐらいやられたので戦えないってことはない。


「そうそう。マスターいい感じ。相手の動きに差し込む感じで動きながら全身を捻って、相手の不意をつくの。この時に相手の死角をつくと大体一方的に殴れる。攻撃と相手の攻撃妨害を同時に行うの。それで相手が逃げに回ったら、そこにも差し込んで妨害、回避行動を中断させつつ攻撃するの」


 今日もホテルの駐車場近くの公園でイルシィから格闘術を習う。しかし、本当にえげつない感じだなこのイルシィの闘い方。一度チャンスを作ったら相手が死ぬまで弱点を攻撃し続ける。それもスタミナ消費を抑えつつだ……まぁそのチャンスを作るのが大変なんだけどね。


「体を捻って、動きの予測をしづらいようにして相手の死角から弱点を叩く。んで隙を作るためにブラフ、偽の攻撃筋を見せて相手を誘導……こんなの素人にできるわけないだろ!!」


「いけるいける。マスターならできるよ。もう死角をついて連撃まではいけるし、多分アルターエゴの闘いでも役に立つ……というかすでにできてそうだね。えっとね、相手の攻撃の誘導は、相手の性格も考えるといいよ。相手の動きから性格を分析して、相手の視野がどこに集中してるか。それを見極めるの」


「人って正面を見る時でも人によって見る場所が違うもんね。男の人だと女の人のおっぱいとかおしりを見がちなように、人によって集中する部分が違うから。で、見がちな部分とそうじゃない境目の部分でブラフを使うの。そうすると相手は得意な集中エリアから不得意なエリアに視野が移る。その時に相手に出来た死角をつく。私の格闘術、お母さんから受け継いだ間檻流はこんな感じ。頑張って」


 説明長ぇ!! まぁでもなんとなく分かった。分析を繊細に精確に行うことでカウンターの精度が上がるだけでなく、戦場をコントロールすることに長けているってことか。これは今までゲーム、ABSOLUTE METALで無意識になんとなくやってたことを今からは意識してやっていくってことだ。


 俺はセンス派だったからあまりこういう戦闘に対する思考っていうのはあんまし本気でやってこなかったかも。もちろん反射が大事ではあるが。分析するスピードを経験によってあげていけばほぼ反射に近い形で可能になるのかもな。というか、イルシィはそれを実際にやってきたわけだ。ジャンルは違うが俺よりも専門とする世界で上位って感じ。


「さて、そろそろ切り上げてオークションに行くか。イルシィ、アウル達を呼んできてくれ。ついでに装甲車も持ってきてくれ。オークション会場には持ってけないけど一応近くにあった方がいいだろうから」


「うん、分かった。それじゃあ呼んでくるね!」


 手を広げつたつたと効果音が出そうなやたらと力強い微妙なスキップをしながらイルシィが移動していく。あれはもしかしてご機嫌なのか? まぁでも、そうかオークション、気になるよな。オークションでどれぐらい売上が出るか分からないけど、稼げたらイルシィ達にもなんかオークションの品を買ってやるか。



──────



 オークション会場、普段は音楽コンサートをするホールらしく、一階と二階に分かれている。見るからに金持ち、ド派手な格好をした人達が大勢集まっている。普段なら絶対座らないような。一般人が座るような座席に嬉しそうに座っている。俺は座席には座らず、イルシィ達とオークション会場一階の壁側に立ってオークション会場全体を眺めていた。


「346億円か……とんでもないな。オウガラスの右腕は……けど、これで色々できることは増えるな。つっても、できることが増えすぎて何したらいいかわかんなくなりそうだけど」


 オウガラスの右腕は346億円で落札された。落札者は新政府のお偉いさんらしく、政界で大物らしい。小太りで白髪の糸目のおっさん。というか、新政府という組織のこともよく知らないんだよな。でも「新」てついてるぐらいだから古い「旧」の政府をあったんだろうな。


「さて、お次は今回のオークション目玉中の目玉!! なんと!! 人語を話す流魂奴でございます!! いやーまさかこんなものにお目にかかれるとは! 伝説上の存在だと思われていた人語を話す流魂奴、曰く不吉を呼ぶとか、曰く手に入れたものは世界を支配するとか。とにかくとんでもない品でございます! では200億円からスタートです!」


 流魂奴、ゼルの言っていたやつ。悪いことをしたやつが地獄で化物に変えられた存在、檻に入れられて運ばれてきた。かなり気色悪い見た目だ。目はないと言っていたが実際はある。つるつるで人間の頭部を少し引き伸ばしたような頭部で人間でいう目のある部分に肌色の皮が透けて未発達な目玉が見える。


 というか淡く蛍光緑に発光している。耳はなくあるはずの部分に口が裂けて繋がっている。口には歯がない、代わりに硬そうなピンク色の歯茎が発達している。歯茎同士が接する面はざらざらとしていて。すり潰してものを食べるのだろうと予測できる。全身は基本肌色で性器や肛門はないが心臓のあたり、胸の中心から黒い文様が渦を巻くように全身に広がっている。


 金持ち達が流魂奴の金額をどんどん釣り上げていく。もう280億に届くぐらいか。研究資料としても欲しいだろうな。見るからに珍しいし。このあと転売するにしてももっと利益をあげられるだろう。


『やめてくれ……! 僕は人間だ! 何をする気なんだ……! なんで体が動かないんだ。どうして俺をそんな変な目でみるんだ……!!』


 流魂奴が喋った。というか意思が伝わってきた。テレパシー的なものか? しかし目が見えないはずなのに変なで見られていることは分かるんだな。まぁテレパシーが使えればそれぐらい分かっても不思議じゃないか。


 が、正直こう人間的な感情を化物の見た目をした存在が発するのは気分がよくない。まるで自分がこいつをいじめている悪人の一味な気分がしてくる。けど、金はどんどん積み上がっていく。ここにいる金持ち達は罪悪感などまるで感じていないしやめる気はさらさらない。


『やめてくれ! やめてくれ!! 僕が何をしたんだ!! ここはどこだ、なんで、なんで、ここは、どうして、僕、あ、あああああああああ!!!! ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 流魂奴が絶叫する。鼓膜が破れるかと思った。空気が動いたのが分かる。ヤバイ、なんかヤバイ気がする。え……? なんだ? 流魂奴の黒い渦の中心が……破れた!? 穴が空いて広がっていく。何かが出てくる……あれは……頭? 人間の──


 ──ズバアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!──


 穴から、大量の人が「生まれている」いや人ではないのかもしれない。けど人のような何かが流魂奴の破れた胸から大量に流れ出ている。洪水、人のような「ナニカ」でできた川。その川に押し流されて、オークション一階の前席位置の客達は、圧迫され破裂、すり潰されて川の一部になった。叫び声をあげる暇もない一瞬、俺の鼓動が加速しているのが分かる。300人ほどが一瞬にして、死んだ。


「レエエエエエエエエエエエエエエン!! アルターエゴを呼べええええええええええええええええええ!!!!」


 ゼルの声が響く、多分二階から。俺は衝撃から引き戻される。ゼルにやるべきことを思い出させられた。今がその時、その時なんだな……──来い──


「──来いッ!! レッドアビス──ッ!!」


 あの時よりも早く、ゼルと戦ったときよりも早く、一瞬で、その赤い巨体はやってきた。オークション会場の天井に突き破り、俺の目の前に静止する。コックピットが俺を呼んでいた。

感想と評価よろしくです!


面白かった部分とか言っていただけると励みになるだけでなく

読者の考えが分かるのでできたらよろしくおねがいしますだっピ!

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