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04:最強射程範囲内

「君、強いねぇ」


 黒いアルターエゴが俺の始末した盗賊のアルターエゴの残骸の上に立っている。いや浮いているのか残骸に触れないギリギリを浮いている。と言っても浮遊させる機構を黒いアルターエゴは搭載していない。


 ただのバーニアの調整だけで行っているとすれば、いや、間違いない。こいつは強い、出来て当然だという確信ならすでに得ていた。俺はやつのエゴフィールドに飲まれかけた。ヤバイと感じた。俺と同等かそれ以上の存在。いや、仮に俺と同等だとしても俺はまだアルターエゴの戦闘に慣れていない。絶対に格上だ。


「あんた、なんだよ。なんでここでわざわざ止まった。あんた、カガチを目指してたんじゃないのか?」


 通信に応える。こいつはさっきの盗賊とは別物、それははっきりしてる。なぜならこいつが仲間ならばこいつだけで仕事は事足りたし、仲間を無駄に死なせることもないからだ。だから通信に応える。もう一つ付け加えるなら、俺は格上、それも最上級の存在に対してなんの覚悟もなしに突貫できるほど、直情的にはなれないしそもそも敵なのかどうかも不明瞭だ。


「女の子か、以外だな。傭兵をやっているのか? 珍しい。俺はゼルカバハ・オーライエン。怪盗王のゼルだ」


「怪盗王? 怪盗王ゼル……」


「あらら、俺のこと知らない? なるほどね。じゃあ君、普通じゃないよね? 記憶喪失かそれとも古代の戦闘クローンが目覚めたか……地獄の神が君を送ってきたか? だとしたらそいつは僥倖。暇だったからな。神が関わるとロクなことが起きない、けど、俺はそのロクでもないところの方が生きやすくて、面白いんだ」


 困ったな、若干ナルシストでポエミーなやつだが、こいつは強いだけじゃなく頭もいいらしい。あいつが投げかけた言葉、それに対する俺の反応、呼吸音からアルターエゴ、レッドアビスの動作まで全てを見られた感じがした。おそらくやつが得たかった情報は俺からもう盗られてしまったようだ。


「まぁそんなとこ。なんで、なんであんたを知らないだけで俺は異常なんだ? 教えてくれよ」


「大陸最強のアルター乗り、それが俺で、大陸最高の賞金首、それが俺。俺を知らない人間なんて赤ん坊だけだよ」


「なるほど、納得がいったよ。その最強が俺に何のよう?」


 ──ピピッ。ワンズ兄弟から通信が入る。


「マスター!! 早く逃げろ!! そいつに関わっちゃダメだ!! 盗られちまう!!」


「アウル、落ち着け、けど聞いてくださいマスター!! ゼルは、ゼルは戦える相手じゃない、逃げるしかない──」


「──逃げる? 何いってんだ? おいおい、最強が目の前にいるんだろ? なら試さなくてどうする。今の自分が!! どこまで届くかをなァッ!!」


「──なっ!? マスター!? 待てって!! あんたはなんにも分かっちゃいない!! マスターは強い!! でもこいつとは次元が違うんだ──」


 俺は通信を切る。アウル、悪いが俺は馬鹿なんだよ。最強が目の前にいる。恐怖だとかデメリットだとかそんなことはどうでもいいだろうが。俺は最強ってもんが欲しくて、ずっとずっと努力し続けてた。俺にとって、最強は俺の努力で到達できる射程範囲内なんだよ!!


「なるほど仲間の善意を踏みにじるとか、君も相当エゴイスティックじゃないか! いいねぇ、来なよ。ゲームスタートだッ!!」


 フルスピード、レッドアビスを急加速させる。今度は僅かながらにGを感じる。盗賊相手には感じなかったもの。速度もあの時より低下している。1826km。しかし動ける。Gがあっても耐えられる。そして──食らいつける──ッ!


 レッドアビスを突進させながらマシンガンを連射する。レッドアビスの腕を連射するマシンガンの振動に合わせて小刻みに自分から動かす。振動に合わせて動かし、照準のブレをなくす。無論レッドアビスの自動照準システムも動いているがそれでは足りない。マニュアルでこんなことをすれば次の日腕は筋肉痛でボロボロかそもそも筋が白化して切れちまうかのどっちかだ。だが必要だし、それでもまだ足りないんだろう?


「おお、おお!! こりゃあお前さんも相当の変態だな。エゴが強いってだけじゃなくて操縦もイカれてやがるとはなァ!! ますます面白くなってきた!!」


 滑るように、俺を中心として左旋回する黒のアルターエゴ、俺の射撃が始まった途端にその動きを変える。飛翔した。その動きはあまりに滑らかで一分のブレもない。大気を揺らしている巨大な黒いブースターがあるのに。その黒い機体は振動を全くしていないように見えた。人間業じゃない、完全に化物のそれだ。


 大気の密度から風向き、ブースター出力、進路方向を計算し、加速エネルギーのロスが異常に少ない飛行をしているのだから。それは低レベルな物理演算のゲーム特有のチープさを連想させるものだった。俺の射撃はもちろん当たらない。掠りもしない。黒のアルターエゴがレッドアビスの上方まで一瞬で来た。だがそんなことは予測済みで、次と次と次の次も俺は動く。足りない技術は数と発想で補う。


「──次だ──まだだ、まだ俺は尽きない!! 俺の力はまだ溢れてる!! 繋ぎ続けてやるよ!!」


 俺は射撃から近接戦闘に切り替える。レッドアビスの腰に装着された金属製のブレードを射出する。時間がない。多少危険でもと俺はノータイムでブレードを射出した瞬間にレッドアビスに握らせる──二刀同時にだ。


 手を放したレッドアビスのマシンガンが地に落ちる。それよりも速く、レッドアビスは跳躍する。頭上の黒いアルターエゴにブレードを向けて。食らいつく。対応が見える。敵の、ゼルの動きを予測する。やつはスマートだ。おそらくギリギリで避ける。エネルギーのロスを避け、最短で避けるために。


 跳躍のエネルギーが無くなり、停止する。浮遊する感覚を俺を見逃さない。ブースターを荒々しく噴射させる。技術はない、やつのような化物じみた飛行技術はない。効率的でない、速さだけに一点を絞った飛翔。黒いアルターエゴがブレードの射程に入る。奴は俺に向かってきている。俺の動きなど予測できているだろうに。それでも奴は向かう。闘争の快楽を求めて。俺にはわかる。俺とこいつはきっと同類だろうから──


「──俺の思考をトレースして作戦に入れてくるなんてなぁ!! ますます俺好みの女だ!! そうだよ、俺はお前と遊びたいんだよォ!! 全力でなァッ!!」


 レッドアビスの腕を後ろに引く。そこから超音速のブレードによる突き。狙うはコックピットただ一つ。当たる。絶対に、そういう突き方をした。回避運動をとってもブレードの射程内に収まるよう、範囲を広く、回転を加えた突き。レッドアビスの腕が伸び、後から風を裂いた音が鳴る。風を裂き、音を鳴らす。音が鳴ったなら、それは敵の肉を捉えたと同義。風の音よりもこの突きは速く、速くて、当たるのだから。





「──ハズレだよ。お嬢ちゃん、俺はッ! 男の子なんだよォおおおおおおおおおおお!!!」





 男の声が響く。そして気付く、俺はミスをしたと。黒のアルターエゴに俺のブレードは届いた。確かに当たった。だがそれは、俺の敗北を意味していた。黒のアルターエゴは俺の突きを、その片腕を犠牲にし、被害を最小限に抑えていた。アルターエゴの腕が飛ぶ、黒い塗装の欠片が散る。その瞬間が見えて、時が止まったみたいだった。モニターには黒のアルターエゴのもう片方の腕、左腕から隠し刀が伸びているのが見えた。


 ──ゲームエンド、ゲームオーバー。俺の負け。


 衝撃が走る。コックピットが砕かれる音がする。レッドアビスと俺は地に叩き落とされた。土煙が上がっているのが見える。黒のアルターエゴはレッドアビスの上に覆いかぶさり、レッドアビスを動けないように固定した。ギリギリギリと音が鳴る。コックピットを引き剥がされた。鉄を無理やり裂いた。……え?


「なんで、俺、生きてんだ?」


「それは君は今から、俺のものになるからだよ」


 意味、分かんねぇ。なんだよ、この派手な格好した金髪のチャラ男は……なんで俺を殺さない。勝ったんだろ? なぁ? なんで……なんで俺のコックピットに入ってきてるんだ。なんで……俺の顎に手を触れて──


「──可愛いね。最高だ」


 ん?


「んむうううううううううううううううう!!!??」


 俺、え? キス、男にキスされたのか!? というか、なんで、なんで胸が、胸がバクバクして……俺、男なのに、キモイ!! キモイキモイキモイ!!!! クソが!! 俺にそんな趣味はねえええええええええええええええ!!!!! テメェの金玉を粉砕してやる!! 許さねぇ!! 殺す!! 膝で破壊してやる!!!


「──っぷはっ! おっと! 危ない危ない。今日はこれぐらいにしとくか。赤い髪、赤い瞳、白くスレンダーな体。俺好みだ。そのうち、お前を盗るから。じゃあな、また会おう。俺のお姫様?」


 ゼルは俺の膝蹴りを軽く避けて、そのままの勢いで黒のアルターエゴに飛び乗った。俺は呆けていた。意味が分かんなかったから。気付くと黒いアルターエゴはいなかった。

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