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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第1章|華編Ⅰ ――気づけば、アパートは美少女だらけ――

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第8話 202号室、新たな監視者

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 妹の襲来から、数週間後。三月。


 俺のボロアパートの、二階へと。「唯」と大書された段ボールが、次々と運び込まれていく。


「よっ、お兄ちゃん。今日から、よろしくねっ」


 二階の一室――202号室の前で、エプロン姿の唯が、にっこりと手を振っていた。


「な……なんで、お前が、ここに住んでるんだよぉ!?」


「聞いてよ。この二階、ちょうど空いててさ。しかも激安。運命だと思わない?」


「運命じゃない! ただの、悪夢だ!」


「それに、これでお母さんの条件も、クリアだしね。『唯が一人暮らしするなら、お兄ちゃんの目が届く、すぐ近くに住むこと』――だって」


(な、なるほど……。母さんの言う「条件」って、そういう……)


 まっとうな親心を、この妹は、俺を監視する大義名分に、堂々とすり替えていた。


「というわけで。これからは、私が、お兄ちゃんを見守ってあげる。悪い虫が近づかないか、二十四時間、しっかりね」


「見守るって……ぜったい監視の間違いだろ、それ!」


 ――と、そのときだった。


「あら。新しく、お引っ越しですか? これから、よろしくお願いしますね」


 通りかかったのは、お隣の華ちゃん。むろん、外向けの「アイドルの華」の顔だ。ふわりと微笑み、唯に、丁寧に会釈をする。


「あ、はい。妹の、唯です。どうも……」


 律儀に頭を下げた唯が、ふと、動きを止めた。じいっと、華ちゃんの顔を、見つめる。


「……ん? あの、どこかで……お会いしましたっけ?」


(――どきり)


「いえいえ。よく言われるんです、そういうお顔で。ふふ」


 華ちゃんは、にこやかに受け流して、去っていく。唯は、「気のせい、かなあ……」と、まだ首をかしげていた。


(あ、危なかった……。唯のやつ、鋭いんだから、勘弁してくれ……!)


 ――そして、その日の、夜。


 こんこん、とドアが鳴る。開けると、そこにいたのは、眼鏡にスウェット姿の華ちゃん。もう、素顔のほうだった。


「ねー、君。ちょっと、見られるとまずいから。入らせて」


 言うが早いか、彼女はするりと部屋に入り込み、ずかずかと、奥まで進んでいく。そして、壁を見上げて――ぴたり、と止まった。


「……相変わらず、すっごい部屋。私のポスターと、私のグッズと、私しか、ない」


「う……お、お目汚しを……」


「引くわ。……でも、まあ。ここまでされると、悪い気は、しないけどね」


 素っ気なく言いながらも、その口元が、ほんの少しだけ、ゆるんだ気がした。


「で、用件なんだけど。今度の舞台の、衣装とウィッグ。君、私の顔、いちばん見てるでしょ。どれが自然か、意見が欲しくて」


「な、なるほど。それで、俺に……」


「でも、ウィッグだけ見せても、イメージ湧かないよね。全身、着替えるから――君、ちょっと、外に出てて」


「え、えっ!? は、はい!」


 俺は、玄関の外へと、追い出された。


 ドア一枚を隔てて、中から、衣擦れの音が、かすかに聞こえてくる。しゅる、と布のこすれる音。じ、じ、と、ファスナーの下りていく音。とん、と何かを脱ぎ落とすような、やわらかな音。そのひとつひとつが、いやでも、ドアの向こうの光景を、頭の中に描き出させる。


(――い、いかん! 想像するな、俺! あの華ちゃんが、今、ドアの向こうで、一枚、また一枚と、その、着替えを……!)


 薄い一枚のドアの、すぐ向こう。手を伸ばせば届く距離に、素顔の推しがいる。その事実だけで、俺の心臓は、破裂しそうだった。


(ぼ、煩悩退散っ! 煩悩退散っ!! 俺は、清く正しいファンっ! 清く正しいファンなんだっ……!)


「……もう、いいよ。入って」


 声に従い、そっとドアを開けた俺は――言葉を、失った。


 そこにいたのは、フリルのついた、ひらひらのミニスカート。おへその出た、短い丈のトップス。すとん、と細い肩から、白い二の腕が、むきだしになっている。きゅっとくびれた腰の、そのすぐ下に、小ぶりのおへそ。スカートの丈は、ぞっとするほど短くて、そこから、すらりと伸びた、なめらかな太ももが、惜しげもなくのぞいている。膝上のニーソックスと、太ももの、そのあいだ。わずかにのぞく、素肌の白さが、目に、痛いくらいだった。頭には、大きなリボン。


 照明のせいか、その肌は、しっとりと、内側から光っているように見えた。


「今度の舞台、私、魔法少女の役なんだ。……この衣装。思ってたより、ずいぶん、露出が多くてさ」


挿絵(By みてみん)


 清純派で売ってきた彼女には、めずらしい装いだった。本人も、少し居心地が悪そうに、スカートのすそを、指でつまんで、ちょんと引っぱっている。その仕草が、かえって、危うい。


(て、天使だ……いや、魔法少女だ……!)


「で、この役、決めポーズがあるんだけど。これが、なかなか、難しくて。……ちょっと、見ててくれる? どれがいちばん映えるか、選んで」


 華ちゃんは、そう言うと、次々とポーズを取ってみせた。


 右手を天にかざす、一番。腰に手を当て、ぱちんとウインクする、二番。くるりと回って、両手でハートを作る、三番。


 どれも、テレビで見る「アイドルの華」からは、想像もつかない、あざとくて、可愛らしいポーズだった。素顔のときの、あの辛口な彼女が、大真面目な顔で、これをやっている。そのギャップだけでも、心臓に悪いというのに。


 だが――問題は、そこじゃない。


 彼女が、くるり、と回るたびに。ふわり、と、ただでさえ短いスカートが、軽々と、宙に舞い上がるのだ。そのたび、白い太ももが、つけ根の際どいところまで、あらわになる。ひらり、ひらり。スカートの裾が、まるで俺の理性をもてあそぶみたいに、上がっては、落ちる。あと少し。あとほんの少し、めくれ上がれば――その奥が。


(み、見えっ……! 見えそうっ……!! いや、見ちゃだめだ、見ちゃだめだっ……!)


「ねえ、君。どれが、いちばん、いいと思う?」


「さ……っ、さ、三番、が……! 三番が、いいと、思います……っ!」


 俺は、真っ赤な顔で、あらぬ方向を見ながら、必死に、そう答えた。当の華ちゃんは、俺の葛藤など、まるで気づいた様子もない。


「ふうん。三番、ね。了解」


 ――と、そのときだった。


 ピンポーン、と。


 玄関のチャイムが、鳴った。


「お兄ちゃーん。いる? 夜ごはん、作りすぎちゃって……」


(うそだろ……!?)


 血の気が、一瞬で、引いた。俺は、思い出す。この部屋の、玄関の鍵を。


(……か、鍵、かけてない……!)


 魔法少女姿の推しと、監視役の妹。二つの世界が、いままさに、最悪のかたちで、交わろうとしていた。


お読みいただきありがとうございます。

実際の魔法少女シーンはどこかのタイミングで書きたいと思います。




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