↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第5章|能力編 ――一途がすぎると、女の子になるらしい――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/66

番外編・アパート住民の日常③ ゴキブリ掃討大作戦

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です

「きゃーーーー!」


夜。俺が、のんびり夜食を作っていると。壁の向こうから、耳をつんざく、悲鳴が響いた。


「うわっ! 今度は、何事だ!」


隣――101号室、麻衣さんの部屋からだ。


俺は、慌てて、部屋を飛び出す。まさか、また、あの部長絡みで、なにか――なんて、最悪の想像をしながら、麻衣さんの部屋のドアを、勢いよく開けた。


「麻衣さん、大丈夫ですか!?」


そして、俺は。麻衣さんの部屋の、その“脅威”の正体を、目撃した。


――ソレは、いた。


台所の壁を、つややかな黒い体で、我が物顔に、這っている。地球生物の、大先輩。……そう、ゴキブリだった。


「で……出たのぉ……!」


麻衣さんは、部屋の隅っこで、小さくうずくまって、がたがた、と震えていた。……なるほど。極度の下戸に、乙女趣味の部屋。そして、大の、虫嫌い。……この頼れる先輩は、本当に、意外な弱点だらけだ。


「あ、麻衣さん、そこ、危ないです。隅っこにいると、また、そっちに出てくるかも――」


「――ひぃっ!?」


俺の、なにげない一言で。麻衣さんの、恐怖が、限界を、突破した。


「むりむりむりっ、こっち来ないでぇっ……!」


うずくまっていた麻衣さんが、脱兎のごとく立ち上がると。……一直線に、俺のところへ、飛び込んできた。


「わっ、ちょ、麻衣さ――っ」


どすん、と。細い体が、俺の胸に、飛び込んでくる。


そして――ぎゅうっ、と。逃がすまいと、しがみついてきた、その拍子に。


俺の腕に、胸に。……やわらかくて、あたたかい、たっぷりとした“なにか”が、むにゅう、と、これ以上ないほど、密着した。


(――っ!? こ、これは……!)


薄手の部屋着越しに、伝わってくる、その、たしかな重みと、弾力。……ふだんの、きっちりしたスーツ姿からは、想像もつかない、女性らしい、豊かな感触。


(ぼ、煩悩退散……! 煩悩退散っ……! い、今は、それどころじゃ、ないだろ、俺!)


俺は、天井を仰いで、必死に、念仏を唱える。


「さ、佐藤くん、たすけてぇ……。あれ、やっつけて、やっつけてぇ……」


涙目で、ぐりぐりと、俺の胸に、顔を押しつけてくる麻衣さん。……もう、いつもの、頼れる先輩は、どこにもいない。ただの、涙目の、怖がりな女の子だった。


「わ、わかりました。……わかりましたから。とりあえず、ちょっと、離れて――」


「やだっ!」


……離れて、くれなかった。


---


――と。その、時だった。


麻衣さんの、動きが。……ぴたり、と、止まった。


「……ひっ」


「ど、どうしました?」


「……い、今。……なんか。……ひらり、って。……足に、なにか、当たった、ような……」


みるみる、麻衣さんの、顔から、血の気が、引いていく。


「……ま、まさか。……ま、待って。……ふ、服の、中に……っ!?」


「え、ええっ!?」


「や、やだやだやだっ……! ど、どこっ、どこにいるのっ……!?」


半ば、パニックで。麻衣さんが。……あろうことか、自分の、ワンピースの裾を、両手で、ぎゅっと掴んで。……たくし上げ、はじめた。


――ふわり、と。


白い、裾が、まくれ上がって。……すべやかな、太ももと。……その奥の、淡い色の下着まで。……あられもなく、俺の、目の前に、さらけ出される。


「さ、佐藤くんっ、探してっ……! 私の、服の中に、来てるかもっ……! ……お願い、見てぇっ……!」


挿絵(By みてみん)


「み、見てって……!? い、いやいやいやっ、無理です、無理ですっ……! め、目のやり場がっ……!」


俺は、慌てて、両手で、顔を、覆う。……だが、指の、隙間から。……うっかり、見えてしまいそうになる、その光景に。……俺の、心臓は、もう、破裂寸前だった。


(ぼ、煩悩退散っ……! ……って、さっきから、それしか、言ってないな、俺っ!)


「もーっ、なんで、見てくれないのっ……! ……ゴキブリより、佐藤くんが、たよりないっ……!」


「り、理不尽っ……!」


---


どうにか、麻衣さんを、少しだけ、落ち着かせて。俺は、ゴキブリ掃討――名付けて、【G掃討大作戦】を、開始することにした。


まずは、第一作戦。


「麻衣さん、殺虫剤、ありますか」


「……つ、机の、下の、棚に……」


スプレー缶を、手に取る。……よし。あとは、奴が、出てくるのを、待って、一撃で仕留めるだけだ。


「麻衣さん、じっとしててください。……もし、出てきたら、すぐに、噴きつけるんで」


「……う、うん」


麻衣さんは、俺の、シャツの袖を、きゅっと掴んだまま。俺の背中に、ぴったりと、隠れている。


――待つこと、一分。


……出てこない。


「……出て、こないですね」


「や、やだぁ……。どこ行ったのぉ……。……見えないほうが、こわいよぉ……」


(……たしかに。姿が見えないのは、それはそれで、こわいな)


---


そこで、第二作戦。


「……出てこないっぽいんで。俺、ゴキブリホイホイ、買ってきますよ」


「やだっ!」


麻衣さんが、袖を、ぎゅっと引っ張る。


「……あれ、だめ。……もし、いっぱい、かかってたら。……いっぱい、死んじゃうじゃない……。そんなの、見たくないもん……」


(……いや、退治したいのか、したくないのか、どっちなんだ)


怖いくせに、殺生は、いや。……なんとも、麻衣さんらしい、優しさだった。……や、優しさ、なのか?


---


仕方なく、第三作戦。


「じゃあ……毒エサタイプは、どうです。……これだと、どこにいるか、わからないですけど。巣ごと、全滅、させられますよ」


「……むむむ」


麻衣さんが、眉を、寄せる。……“見えないところで、いつのまにか片付く”という点が、お気に召したらしい。


「……じゃあ、それ」


「了解です。……じゃあ、買ってきますね」


俺が、玄関へ向かおうとした、その時。


「――ちょっと待って!」


麻衣さんが、俺の腕に、がしっと、しがみついた。


「……私を、置いて、いくの……!?」


「え、いや、でも。買うには、行かないと」


「だめっ!」


「えー……。じゃあ、どうすれば」


「……いっしょ、じゃなきゃ、やだ……」


(……子どもか)


「……ほんの、少しの時間ですから」


「やだやだ、やだぁ……!」


――結局。麻衣さんは、俺の腕に、しがみついたまま、離れなかった。


俺は、ため息をつきながら。しがみつく麻衣さんを、ずるずると、引きずるようにして、玄関へと、向かう。


(……この距離感、いろいろ、心臓に、悪いんだが……!)


――と。


その、まさに、玄関に、たどり着こうとした、絶妙なタイミングで。


かさ、と。


視界の、隅。……靴箱の、脇から。ソレが、ひょっこりと、姿を、現した。


「――で、出たあああっ!!」


麻衣さんの、悲鳴が、爆発する。


「きゃーっ、きゃーっ、いやーっ! あっち行って、あっち行ってぇっ!」


パニックに、なった麻衣さんが、俺の腕の中で、めちゃくちゃに、暴れ回る。


「ま、麻衣さん、落ち着い――ぐあっ!?」


振り回された手が、思い切り、俺の頬を、ビンタした。ぱぁん、といい音がする。


(な、なんで、俺が、殴られ――)


だが、次の瞬間だった。


パニックの、極限で。麻衣さんが、手にしていた、スリッパを。……渾身の力で、振り下ろした。


――パチン!


見事な、一撃。……つややかな黒い大先輩は、あっけなく、昇天した。


「…………はぁっ、はぁっ」


肩で息をする、麻衣さん。……追い詰められた、火事場の馬鹿力、というやつだろうか。結局、奴を仕留めたのは、殺虫剤でも、毒エサでもなく。麻衣さん自身の、スリッパの、一振りだった。


「……や、やった……。……やった、よ、佐藤くん……」


「……お、おめでとう、ございます」


俺は、ひりひりする頬を、押さえながら。ぱちぱちと、力なく、拍手を送った。


――結局、俺は。豊かな感触に、煩悩を試され、袖を引っ張り回され、しまいには、とばっちりの、ビンタまで、食らって。


なにひとつ、活躍、できなかった。


(……まあ、いいか)


涙目のまま、へなへなと座り込んで、それでも、どこか、誇らしげな麻衣さんの顔を見ていたら。……なんだか、それも、悪くない気が、してくる。


今日も、俺のアパートは。……平和、なのだった。

お読みいただきありがとうございます!

ブックマーク・★評価・リアクションが更新の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。