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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第5章|能力編 ――一途がすぎると、女の子になるらしい――

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第52話 会、解散

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 合宿から、帰って。……俺の、日常は、少しずつ、元に、戻っていった。


 もちろん。……女の子に、なってしまう、体質は。……相変わらず、だ。


 でも。……あの夜、俺は。……大事な、コツを、掴んだ。


(……心を、凪いで、いれば、いい)


 好意を、浴びても。……焦らず、慌てず。……穏やかな、心で、いれば。……“器”は、あふれない。……もし、女の子に、なっても。……落ち着いて、いれば、ちゃんと、戻れる。


 ……そう、わかっただけで。……この、厄介な力も。……少しだけ、怖くなく、なった。


 ◇


「――というわけで!」


 ある日の、午後。俺の部屋に、集まった、いつもの、面々を、前に。……華ちゃんが、ぱん、と、手を、打った。


「“超能力を、深く知る会”は。……本日をもって、解散しまーす!」


「「「……ええっ!?」」」


 葵ちゃんと、麻衣さんと、唯が、素っ頓狂な、声を、上げる。


「な、なんでよ、華ソンベ! ……まだまだ、和葉を、堪能――じゃなくて、研究、できるのに!」


「そうだよ、華さん。……もったいない!」


「……あのね」


 華ちゃんが、やれやれ、と、肩を、すくめる。


「和馬は、もう。……この体質と、付き合う、コツを、掴んだ。……原因も、対処法も、わかった。……なら。……“調べる会”は、もう、お役御免、でしょ」


「……それは、そうだけど……」


「それに」


 華ちゃんは。……ちらり、と、俺を、見て。……ふ、と、微笑んだ。


「……もう。“会”なんて、口実が、なくたって。……みんな、和馬の、そばに、いるでしょ?」


「「……」」


 その言葉に。……葵ちゃんも、麻衣さんも。……ほんのり、頬を、赤らめて、黙り込んだ。


(……こ、この人は。……さらっと、なんてこと、言うんだ……)


 ◇


 解散、といっても。……何かが、大きく、変わるわけじゃ、ない。


 あいかわらず、葵ちゃんは、じいや同伴で、遊びに来るし。……麻衣さんは、隣で、料理を、作ってくれる。……唯は、兄離れする、気配も、ない。


 ただ。……ひとつ、確かに、変わったのは。


(……なんか。……みんなとの、距離が。……前より、近い、気がする)


 同じ、秘密を、抱えて。……一緒に、悩んで。……一緒に、笑って。……あの、騒がしい、日々を、越えて。


 ……俺たちの、絆は。……確かに、一段、深く、なっていた。


 ◇


「……佐藤さん」


 その、夕暮れ。……ベランダで、一人、涼んでいた俺に。……声を、かけてきたのは、怜子さんだった。


「……この前は。……ありがとう、ございました」


「え? ……いや、俺は、別に」


「……あなたと、出会えて。……私、少しだけ。……前を、向けた気が、するんです」


 怜子さんは。……夕日に、目を、細めて。……ぽつり、と、言った。


「……あのね。……ずっと、着られなかった、水着。……いつか。……また、着てみようかな、って。……そう、思えたんです」


「……っ。……怜子さん」


「もちろん、まだ。……怖いですけど。……でも。……“一途に、想った証”だって。……そう、思えたら。……少しずつ、でも。……取り戻して、いけそうな気が、して」


 その、横顔は。……出会った頃の、影のある、それとは。……もう、違って、いた。


 ――と、その時。


 《……ありがとう。……あなたのおかげで、私、もう一度、歩き出せそう》


 ふ、と。……怜子さんの、心の声が。……前より、はっきりと、聞こえた。


 ……ずっと、聞こえなかった、この人の、声が。……今は、こんなに、あたたかく、届く。……それが、なんだか。……無性に、嬉しかった。


 ◇


「おーい、オッパー! なにしてんの、早く来なさいよっ!」


 部屋の中から。……葵ちゃんの、元気な声が、飛んでくる。


「打ち上げ、始めるわよー! ……解散記念、パーティー!」


「あ、佐藤くん、ケーキ、切っちゃうよ?」


「お兄ちゃん、早くーっ!」


 振り返ると。……そこには。……華ちゃんが、麻衣さんが、葵ちゃんが、唯が。……そして、少し、はにかんだ、怜子さんが。……みんなが、俺を、待っていた。


(……ああ)


 女の子に、なってしまう、力。……人の、好意を、受け止めすぎて、しまう、“優しさの器”。


 ……最初は。……ただの、厄介な、呪いだと、思っていた。


 でも、今は。……違う。


(……この力が、あったから。……俺は、こんなに、賑やかで。……あたたかい、毎日を。……手に入れられたんだ)


 ――呪いも。……見方を、変えれば。……きっと、加護に、なる。


「……今、行きます」


 俺は、笑って。……みんなの、待つ、部屋へと、歩き出した。


 ◇


 解散記念パーティーは。……予想どおり、大いに、騒がしかった。


 そして。……いちばん、はしゃいでいたのは。……やっぱり、葵ちゃん、だった。


「ねえねえ、みんな! ……最後に、もう一回だけ、和葉、見たくない? ……せーの、で、いっせいに、オッパに、触っちゃおうよっ!」


「ちょ、葵ちゃん、やめ……!」


「えー、いいじゃなーい。ほら、麻衣オンニも、華ソンベもーっ」


 あろうことか。……葵ちゃんは、ケーキの、クリームまで、指に、つけて。……ぺた、と、俺の、頬に、なすりつけて、きた。


「わっ、冷たっ……!」


「あははっ! ……女の子に、なったら、もっと、可愛いのにー」


 ――と。その、時だった。


「……葵さん」


 ぴしゃり、と。……凛とした、声が、飛んだ。


 怜子さん、だった。


「本人が、嫌がっていること。……無理強いは、いけません。……和馬さんの、体は、和馬さんの、もの。……面白半分で、振り回すものじゃ、ないでしょう」


 ……その、口調は。……いつもの、おっとりした、怜子さんとは、まるで、別人みたいに。……冷たく、鋭く。……有無を、言わせない。……まるで、現場を、ぴしゃりと、仕切る。……辣腕の、マネージャーの、それ、だった。


 葵ちゃんが。……ぽかん、と、口を、開けて。……それから。……ぱあっ、と、顔を、輝かせた。


「……れ、怜子さん、それっ! ……うわ、こわっ。……でも、めっちゃ、カッコいいっ!」


「え……?」


「その、感じ! ……いつもの、“鬼マネージャー”の、怜子さんだ! ……最近、ずーっと、しゅん、と、してたのに。……戻ったじゃん、元の、怜子さんに!」


 ――そう。実は、怜子さんは。……アイドルを、引退したあと、芸能事務所の、裏方に、回って。……今は、華ちゃんと、葵ちゃんの、担当マネージャーを、している。……現場での、彼女は。……冷徹で、有能で、鬼のように、厳しい。“業界屈指の、辣腕”と、名高い、人なのだ。


 ……だが。例の、現象の、トラウマ以来。……プライベート――こうして、隣人として、過ごす、素顔では。……すっかり、しゅんと、影を、潜めて、いた。


 その、本来の、凛とした顔が。……久しぶりに、顔を、覗かせた、のだった。


「……っ。……そ、そんな、つもりでは……」


 どうやら、自分でも、気づいて、いなかったらしい。……怜子さんは、ぼっ、と、頬を、赤らめて。……慌てて、口元を、押さえた。


「……あ。……つ、つい、昔の、癖が……」


「いいよいいよ、その、怜子さん! ……びしっと、してて。……私、そっちのほうが、断然、好きっ!」


 けらけら、と、笑う、葵ちゃんに。……華ちゃんも、麻衣さんも、顔を、見合わせて、くすくす、微笑む。


(……ああ)


 叱られた、はずの、俺まで。……なんだか、無性に、嬉しく、なった。


 ……この人は、本当に。……少しずつ、だけど。……“元の、自分”を。……あの、冷たくて、鋭くて、有能な。……本当の怜子さんを。……ちゃんと、取り戻して、いってるんだ。


 ◇


 ――その夜。パーティーが、終わって。


 みんなを、見送った、あと。……最後に、残ったのは。……華ちゃん、だった。


「……和馬」


「ん?」


「……あんた、この前。……合宿の、最後の夜。……一人で、縁側に、いたでしょ」


「……っ。……み、見てたんですか」


「なんか。……言いたそうな、顔、してた」


 華ちゃんが。……まっすぐに、俺を、見つめる。……その、瞳が。……いつになく、真剣で。


挿絵(By みてみん)


「……ねえ、和馬。……あんたが。……いつか、ちゃんと、言いたいこと。……私、待ってるから」


「――っ」


 心臓が。……どくん、と、跳ねる。


(……気づいて、るのか。……いや、まさか。……でも)


「……焦らなくて、いい。……でも、逃げないで」


 華ちゃんは。……ふ、と、いたずらっぽく、笑って。……それから。……ぽつり、と、言った。


「……あんたが、私のこと。……“売れる前”から、ずーっと。……応援してくれてたこと。……私、ちゃんと、知ってるんだからね」


「……えっ」


 どき、と。……心臓が、跳ねる。……気づかれて、いた。……俺が、十年、こっそり、華ちゃんを、推し続けて、いた、こと。……まだ、誰にも、知られる前の、彼女を。……見つけて、いた、こと。


「……いちばん最初の、たった一人の、ファン。……あんな、忘れる、わけ、ないでしょ」


 華ちゃんは。……少し、照れくさそうに。……そっぽを、向いた。


「……“十年”も、そばで、応援して、もらったんだもの。……今度は、私が。……待つ、番。……もう、ちょっとくらい。……待てるわよ」


 ――待つ、番。


 その言葉の、意味を。……俺が、問い返す、前に。


「じゃ、おやすみ。……また、明日ね」


 華ちゃんは。……ひらり、と、手を振って。……隣の、部屋へと、帰っていった。


 一人、残された、俺は。……しばらく、その場に、立ち尽くして。


(……華ちゃん。……ずっと、気づいて、たのか。……そして。……“待つ、番”、って……)


 どく、どく、と。……鳴りやまない、心臓を、抱えて。……俺は、夜空を、見上げた。


 ――俺の、奇妙な力を、めぐる、騒がしい、日々は。……ここで、ひとつの、区切りを、迎えた。


 だが。……本命の、彼女との。……“本当の、物語”は。


 ……たぶん、いよいよ。……ここから、始まるのだ。


お読みいただきありがとうございます!

こちらで第5章・能力編が終了です!次章で最終章を考えています。

和馬は誰を選ぶのか?選ばないのか?どんな結末が良いですかね。うーん。。。

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