第50話 制御と、向き合い
※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。
「――というわけで! 合宿ですっ!」
週末。葵ちゃんの、鶴の一声で。俺たちは、山あいの、小さな温泉宿に、来ていた。
「この体質を、うまく、制御する。……その、特訓、合宿。……名付けて、“和葉を、乗りこなせ大作戦”!」
「その、ネーミングは、どうかと……」
ちなみに。唯は、「明日、大学の、レポートが……」と、涙をのんで、留守番だ。……子どもは、お泊まり禁止、という、華ちゃんの、方針もある。
だから、今夜の、メンバーは。……華ちゃん、麻衣さん、葵ちゃん、そして――怜子さん。……大人組、だけ、だった。
◇
「まず。……“触られても、慌てない”練習からね」
畳の、広間で。華ちゃんが、ずい、と、身を乗り出してくる。
――と。俺は、思わず、息を、のんだ。
……湯上がりの、華ちゃんの浴衣は。ゆるく、着崩れて。……深く、はだけた、胸元から。……普段は、絶対に、見せない、たっぷりとした稜線が、惜しげもなく、覗いていた。
しっとりと、濡れた黒髪。……上気して、朱の差した頬。……眼鏡の、レンズ越しの、涙ぼくろ。……その、あまりの色っぽさに、俺の心臓は、もう、ばくばくだった。
「和馬が、動揺して、心が乱れるから、戻りにくくなる。……なら。……“触られ慣れ”て、平常心を、保てるように、なればいい。……そういう、理屈」
「り、理屈は、わかりますが……っ」
(……いや。……その理屈を、言う、あなたが。……いちばん、俺の、平常心を、乱してるんですけど……!)
だが、当の華ちゃんは。……自分の格好の、破壊力になど、まるで気づかず。……にこ、と、悪戯っぽく、笑って。
「じゃ、さっそく。……はい、和馬。……女の子に、なってもらうわよ」
華ちゃんと、麻衣さんが、ぽん、と、同時に、俺の肩に、触れる。
【華:70%】【麻衣:73%】
――ぐわん、と。……いつもの、めまい。……気づけば、俺は、和葉の姿に、なっていた。
「はい。……じゃあ、これから。みんなで、代わる代わる、和葉に、触れます。……和葉は、それでも、心を、凪いで、平静を、保つ。……いい?」
「そ、そんな、無茶な……!」
◇
「じゃあ、私から! ……えいっ」
葵ちゃんが、後ろから、ぎゅうっ、と、抱きついてきた。……浴衣越しに、やわらかい、感触が、背中に、押しつけられる。
「わっ……!」
「だーめ。……動揺しないの。……ほら、平常心、平常心」
くすくす、と笑いながら。葵ちゃんが、和葉の頬に、自分の頬を、すりすり、と、擦り寄せてくる。
(う……。ち、近いっ……!)
……というか。それ以前に。
湯上がりで、すっかり気の緩んだ葵ちゃんの浴衣は。……もう、めちゃくちゃに、着崩れていた。
片方の肩は、するりと、抜け落ちて。……白い、なめらかな肩が、あらわになっている。ゆるんだ合わせの、その奥。……深く覗いた胸元から、目のやり場に、困るものが、ちらちらと。
(な、なんで、そんな、はだけたまま、平気なんだっ……! ……乙女の、危機感っ、どこいったっ……!)
俺は、必死に、視線を、天井へ、逃がす。
「んー? オッパ、どうしたの? ……顔、真っ赤だよ?」
「な、なんでもっ、ないですっ……!」
「ふふっ。……もしかして、私に、ドキドキ、しちゃってる?」
からかうように、葵ちゃんが。……さらに、ぐいっ、と、身を寄せてくる。……崩れた浴衣の、やわらかな感触が、和葉の腕に、ぴったりと、押しつけられて。
(ば、ばか、近いって、ばぁっ……! ……というか、その浴衣、いいかげん、直しなさいっ……!)
「はい、次は、私」
今度は、麻衣さんが、正面から。……和葉の手を、取って、自分の、両手で、包み込む。
「和葉ちゃん。……手、あったかいね。……ふふ」
……そのまま、麻衣さんは。……和葉の手を、そっと、自分の頬に、当てて、目を、細めた。
(な、なんで、そんな、無防備な……! ……というか、浴衣の、胸元が……っ!)
前かがみに、なった、麻衣さんの。……浴衣の、合わせが、ゆるく、はだけて。……目の、やり場に、心底、困る。
「こら。……“心を、凪いで”、でしょ」
華ちゃんが、にやにや、と、覗き込む。……この人は、絶対、面白がっている。
◇
「……次は、私、ですね」
最後に。……怜子さんが、そっと、俺の、隣に、座った。
「怜子さんは……い、いいですよ。……無理しなくても」
「いいえ」
怜子さんは、静かに、首を、振る。……そして。……その、細い指で。……和葉の、頬に、そっと、触れた。
【怜子:41%】
「……あなたには。……私と、同じ、後悔を。……してほしくない、から」
怜子さんの、声が。……妙に、やさしい。
「私は。……この現象から、ずっと、逃げてきた。……人に、触れられるのが、怖くて。……心を、閉ざして。……その結果。……何もかも、手放して、しまった」
「怜子さん……」
「でも、あなたは。……逃げないで。……ちゃんと、この体質と、向き合おうと、している。……だから、私は。……あなたを、支えたい」
怜子さんの、指が。……和葉の、髪を、そっと、撫でる。……その、手つきは。姉のように、やさしくて。
(――あ)
その、瞬間。……ふ、と。……微かに。
《……この子は、大丈夫。……私と、違って。……ちゃんと、前を、向いてる……》
怜子さんの、心の声が。……また、少しだけ、聞こえた。……好感度が、上がっている。……この人は、少しずつ。……過去の、呪縛から、ほどけて、いってる。
◇
――夜。
特訓を、終えて。俺たちは、大広間に、布団を、敷いて、雑魚寝することに、なった。
「……なんで、俺、真ん中なんですか」
女の子に、なったまま、戻れていない、俺(和葉)は。……四人の、美女に、囲まれて。……川の字ならぬ、五の字の、真ん中に、寝かされていた。
「そりゃあ。……和葉が、逃げないように、監視、監視っ」
右隣の、葵ちゃんが、けらけら、と笑う。
「ふふ。……和葉ちゃん、寝相、悪くないといいけど」
左隣の、麻衣さんが、寝乱れた、浴衣のまま。……とろん、とした目で、微笑む。……はだけた、襟元から、白い、鎖骨が、覗いて。俺は、慌てて、目を、逸らした。
(う、うぅ……。……こんなの、寝られる、わけ……!)
消灯。……暗闇の中。四方から、女の子の、寝息と、甘い匂いが、漂ってくる。
……と。……寝返りを、打った、葵ちゃんの、腕が。……ぽふ、と、和葉の、お腹の上に、乗っかった。
「……ん……。……オッパ……あったかい……」
(ちょ、葵ちゃん、寝ぼけて……!)
さらに、反対側から。……麻衣さんも、ころん、と、寝返って。……和葉の、腕に、ぎゅ、と、抱きついてくる。
「……ん……。和葉ちゃぁん……」
(り、両側から――!)
やわらかい、ぬくもりが。左右から、同時に。……和葉の体に、密着する。
【葵:63%】【麻衣:73%】
(……や、やばい。……このままじゃ、また、心が……!)
◇
――と、その時。
「……大丈夫」
闇の中で。……そっと、俺の、手を、握ったのは。……怜子さんだった。
「……深呼吸、して。佐藤さん。……焦らなくて、いい。……私が、ついてる、から」
その、声が。……不思議と、俺の、ざわついた心を、なだめていく。
(……そうだ。……落ち着け。……凪いで――)
怜子さんの、あたたかい手を、支えに。……俺は、必死に、心を、静めようと、する。
……だが。……両側の、密着は、続く。……葵ちゃんの、寝息。麻衣さんの、匂い。……そして、握られた、怜子さんの、手の、ぬくもり。
……三方向からの、好意が。……じわじわと、俺の“器”を、揺さぶって――。
(……あ、れ……?)
……いつもなら。……一晩、眠れば、戻る、はずの、体が。……なぜか、今夜は。……ぴくり、とも、戻る、気配が、ない。
それどころか。……体の、芯が。……熱く、疼いて。……女の子の、感覚が、より、深く、くっきりと、なっていく、ような――。
(……な、なんだ、これ。……戻れ、ない……。……というか。……“戻り方”が、わからない……!?)
四方を、好意に、囲まれて。……逃げ場のない、まま。……俺の中の、“器”が。……いつもと、違う、悲鳴を、上げ始めていた。
(……まずい。……これは。……本格的に、まずいやつ、だ――!)
甘い、匂いと、ぬくもりの、真ん中で。……俺は、初めて。……“戻れないかもしれない”という、本物の、恐怖に。……ぞくり、と、背筋を、震わせたのだった。
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