第49話 力の、源流
※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。
数日後。俺の部屋に、集まったのは。……怜子さんと、葵ちゃん。そして。
「――お待たせ、いたしました」
葵ちゃんの、執事の、じいやだった。……なぜか、古めかしい、和綴じの本を、恭しく、抱えている。
「じいや。……“心当たり”って、なんなの?」
葵ちゃんが、じれったそうに、尋ねる。
「はい。……お嬢様に、“オッパの、不思議な体質を、調べよ”と、仰せつかりましてから。……手前、方々を、当たっておりました。……そして、ひとつ。……古い、言い伝えに、行き当たったので、ございます」
じいやは、ぱらり、と、本を、開いた。
◇
「……その昔。“一途な想い”を、殊のほか、尊ぶ、神様が、おられた、と」
しわがれた、けれど、よく通る声で。じいやは、語り始めた。
「その神様は。……たった一人を、長く、まっすぐに、想い続ける者を。……いたく、好まれた。……そして、その者に、ひそかな“加護”を、授けられる、のだそうです」
「加護……?」
「はい。……“人の想いを、受け取る、器”。……純度の高い想いを、たった一人に、送り続けた者ほど。逆説的に、他人の好意を、受け止める、大きな器が、育つ。……そういう、加護で、ございます」
――人の想いを、受け取る、器。
その言葉に。……俺は、どきり、と、した。
(……それって。……まさか、俺の、“推し聞き”の、ことじゃ)
人に触れると、心の声が、聞こえる。……あの力。……あれは、俺が、華ちゃんを、十年、一途に、推し続けた。……その果てに、育った、“器”だと、いうのか。
……もちろん、それは。……口には、出さない。この、心の声のことは。……俺だけの、秘密のままだ。
「ですが。……その加護には。……“戒め”も、あったのです」
じいやの、声が、少し、低くなる。
「その神様は、あくまで、“一途”を、尊ぶお方。……ゆえに。……“たった一人”のはずの器に。……大勢の好意が、いっぺんに、なだれ込む、と」
「……なだれ込む、と?」
「――“一途に、反する”として。……戒めのため、その者の、性を、反転させて、しまう、のだとか」
◇
「「……あっ」」
俺と、怜子さんの、声が、重なった。
「そ、それって……!」
「……好感度の、高い相手が。……二人以上、同時に、触れると。……女の子に、なる」
俺の、女化。……そして、怜子さんの、男性化。……その、発動条件と。……ぴたり、と、重なる。
「まさに、それで、ございましょう」
じいやが、深く、頷く。
「“たった一人”に、向けるべき想いの器に。……許容を、超えた好意が、注がれる。……それは、神様の、目には、“浮気”のように、映る。……ゆえに、罰として、性を、反転させ――戒める」
「……じゃあ」
怜子さんが、青ざめた顔で、呟く。
「私が、男に、なったのも。和馬さんが、女の子に、なるのも。……根っこは、“同じ”……?」
「はい。……お二人とも。……“たった一人”を、長く、一途に、想い続けた。……いわば、神様に、いちばん、愛された、器。……だからこそ。多くの好意を、浴びたとき、いちばん、大きく、反転してしまう」
(……そう、か)
俺は、腑に落ちる、思いだった。
……この、厄介な体質は。……ただの、呪いじゃ、なかった。……誰かを、一生懸命、想った。……その、優しさの、証。人の好意を、受け止めすぎて、しまう。……“優しさの、器”の。……裏返し、だったのだ。
「……眠ると、戻るのも」
と、怜子さんが、続ける。
「……感情が、乱れると、戻りにくいのも?」
「器が、落ち着けば。……あふれた想いも、静まり、元に、戻る。……昂ったままでは、器が、揺れて、戻りきらない。……そういう、道理か、と」
――発動も、回復も。……すべての、辻褄が、合っていく。
◇
「……あの、じいや」
俺は、おそるおそる、尋ねた。
「その、体質。……“治す”、方法は、あるんですか」
「……ございます」
じいやは。……一瞬、意味ありげに、俺を見て。……それから、静かに、目を、伏せた。
「ですが。……それは。……“加護”が、“祝福”に、転じたとき。……ひとりでに、解ける、のだとか」
「祝福に……?」
「……くわしくは。……言い伝えも、そこで、途切れて、おります。……ただ」
じいやは、それ以上は、語らず。……ただ、深い、皺の刻まれた顔で、微笑むだけ、だった。
(……祝福に、転じる、とき)
なんだろう。……その言葉が、妙に、胸に、引っかかる。……だが、今は。……まだ、その答えが、俺には、見えなかった。
◇
「……ふう」
じいやの話が、終わると。……怜子さんが、そっと、息を、ついた。
「……長年の、謎が。……やっと、少しだけ、わかった気が、します」
「……ですね」
「私、ずっと。……自分だけが、おかしいんだと。……罰を、受けているんだと、思っていました。……でも」
怜子さんが。……ほんの少し、微笑む。
「……“誰かを、一途に、想った証”だ、なんて。……そんなふうに、思えたのは。……初めてです」
その、横顔は。……この前より、いくらか、軽やかに、見えた。
「……よーし!」
と、ずっと、難しい話を、聞かされて、退屈していた葵ちゃんが。……ぱん、と、手を、打った。
「原理は、わかった! ……じゃあ、あとは、簡単じゃない!」
「簡単?」
「そう! ……この体質と、これから、どう、付き合ってくか。……それだけの、話でしょ? ……ねえ、和葉――じゃなくて、オッパ!」
あっけらかんと、笑う、葵ちゃんに。……俺は、思わず、苦笑いした。
(……確かに。……正体が、わかったところで。……この体質が、消えるわけじゃ、ない)
女の子に、なってしまう、体質は。……たぶん、これからも、続く。……なら。
「……そうだな」
俺は、ぽつり、と、呟いた。
「……この体質と。……どう、付き合っていくか、だな」
窓の外を、見上げる。……よく晴れた、夜空に。……小さな星が、ひとつ、またたいていた。
――力の、正体は、わかった。……だが。……本当の、物語は。きっと、ここから、始まるのだ。
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