第46話 なぜか、お風呂に
※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。
麻衣さんの、爆弾発言――「女の子同士なら、お風呂で確かめない?」から。……話は、とんとん拍子に、進んでしまった。
「あーっ、いいなあ、お風呂! 私も、私も、入るっ!」
葵ちゃんが、目を、輝かせて、身を乗り出す。……が、そこで。
ぶるる、と。葵ちゃんのスマホが、震えた。画面を見て、露骨に、顔を、しかめる。
「……げ。じいや、もう、お迎え……? ……そうだ、今日、この後、ボイトレの、レッスン……」
「お嬢様。……お時間で、ございます」
いつのまにか、玄関に控えていた、じいやが、恭しく、一礼する。
「うぐぐ……っ。……い、いい、和葉! 私が帰ったら、お風呂、なしだからねっ!? ぜっったい、私抜きで、やらないでよっ!?」
葵ちゃんは、後ろ髪を、思いっきり引かれながら。じいやに、ずるずると、連れられて、帰っていった。
「……唯も。そろそろ、帰りなさい。門限、あるでしょ」
「えー……。わ、私も、お兄ちゃんの、お風呂……」
「だめ。……あんたは、まだ、子どもなんだから」
華ちゃんが、ぴしゃり、と言うと。唯は、「むー」と、頬を膨らませつつも。……渋々、腰を、上げた。
「……お兄ちゃん、のぼせないでよ! じゃあね、また明日っ!」
――そうして。気づけば、俺の部屋に、残ったのは。……華ちゃんと、麻衣さん。それに、女の子の姿の、俺、だけ。
「さ。……じゃあ、和葉ちゃん。改めて、入ろっか。……お風呂」
「い、いやいやいや。……無理です、無理っ!」
俺は、和葉の姿のまま、必死に、首を、横に振った。
「なにが、無理なの?」
「なにが、って……! お、お風呂なんて、そんな……!」
「だって、和葉ちゃん、今、女の子じゃない」
麻衣さんが、きょとん、と、小首をかしげる。……その顔に、まったく、悪気が、ないのが、いちばん、たちが悪い。
「女の子同士で、お風呂に入るのなんて、普通でしょ? ……修学旅行とか、みんなで、入ったもん」
「い、いや、俺の、中身はっ……!」
「“和葉ちゃん”は、女の子」
華ちゃんが、ぴしゃり、と、言い切った。眼鏡の奥の目が、面白がるように、光っている。
「それに。……“接触過多で、戻れなくなる”のかどうか。“のぼせたら、どうなるか”。……お風呂は、絶好の、実験環境よ。ねえ?」
(それ、絶対、後付けの、こじつけですよね!?)
……だが。研究者モードに入った華ちゃんと、天然全開の麻衣さんの、二人がかり。……女の子の姿で、力も出ない俺に、抗う術は、なかった。
◇
「……せ、狭いです。……ここ」
俺のアパートの、ユニットバス。……当然、大人が三人も入れば、ぎゅうぎゅうだ。
もうもうと、立ちこめる、湯気。その、白いヴェールが、せめてもの、救いだった。……女の子の体になった自分を、直視しないで、済むのだから。
「はい、和葉ちゃん。こっち、座って。……背中、流してあげる」
「じ、自分で、洗えますからっ」
「だめ。……ちゃんと、実験しないと」
なにが、実験だ。……麻衣さんは、完全に、世話焼きモードに、入っている。
ぬるま湯を含ませた、やわらかいタオルが、和葉の、細い背中を、そっと、滑る。
(う……。く、くすぐったい……!)
「わあ……。和葉ちゃんの背中、ちっちゃくて、すべすべ……。なんだか、妹が、できたみたい」
「……妹枠は、勘弁して、ください」
「あ、じゃあ、髪も、洗ってあげる。……目、つむってて」
言うが早いか。麻衣さんの、しなやかな指が、和葉の髪を、わしゃわしゃと、泡立てはじめる。
……頭皮を、やさしく、マッサージするみたいに。指の腹が、ゆっくり、動く。
(……こ、これは……。……ちょっと、気持ちいい、かも……)
いけない。……油断すると、変な声が、出そうになる。俺は、必死に、口を、引き結んだ。
◇
と――そこへ。
「ふうん。……ずいぶん、甲斐甲斐しいのね、麻衣さん」
華ちゃんが、反対側から、す、と、身を寄せてきた。手に、泡のついた、スポンジを持って。
「私も。……ほら、和葉。腕、貸して」
「え、あ、ちょ……!」
右から、麻衣さんが、髪を。左から、華ちゃんが、腕を。
――二人がかりで。同時に、和葉の体に、触れてくる。
【麻衣:73%】【華:70%】
(――あ。……ま、まずい……!)
二つの、ぬくもりが、同時に、肌に、触れて。……体の芯が、じん、と、痺れる。……前に、華ちゃんに教わった、“戻り方”を、思い出した。
(お、落ち着け。……深呼吸だ。……心を、凪いで――)
だが。無理だった。
……湯気の中。両側から、二人の美少女に、体を洗われ、髪を梳かれ。……こんな状況で、どきどき、するな、というほうが、無茶な話だ。
心臓が、ばくばくと、鳴りっぱなし。……凪ぐどころ、じゃない。
(ぜ、全然、戻れない……! むしろ、和葉のまま、がっちり、固まってる感じが……!)
「あら。……戻る気配、ないわね」
華ちゃんが、和葉の顔を、覗き込んで、にやり、とした。
「顔、真っ赤。……心臓、ばくばく。……なるほどね。“興奮してると、戻りにくい”って、これ、本当みたい。……いいデータだわ」
「か、返して……! 俺の、平常心、返してぇ……!」
◇
「はい、じゃあ、湯船、つかろっか。……って。……この湯船じゃ、一人が、やっとね」
洗い終えて。華ちゃんが、小さな湯船を、見て、肩を、すくめた。
「和葉。あんたが、入りなさい。……“のぼせ検証”も、兼ねて、ね」
「は、はあ……」
言われるまま。俺は、和葉の姿のまま、ふらふらと、湯船へ、向かう。……が。慣れない、女の子の体は、重心の、勝手が、違う。
濡れたタイルに、つるん、と、足を、取られた。
「わっ……!?」
とっさに。……すぐ隣に、いた、麻衣さんの、体に、手を、伸ばして――。
……がしっ。
掴んで、しまったのは。……よりにもよって、麻衣さんが、胸元に、巻きつけていた、タオルの、結び目、だった。
――しゅるり、と。
「え……」「あ……」
俺の、手の中に。……ほどけた、タオルが、するり、と、残る。
湯気の、向こう。……守るものを、失った、麻衣さんの、体の、豊かな稜線が。……ふるん、と、あらわに、なった。
「……きゃ――――っ!?」
麻衣さんの、悲鳴が、浴室に、響き渡る。慌てて、両腕で、体を、抱きしめる、が――。
……あまりに、豊かすぎて。細い腕だけでは、到底、隠しきれて、いなかった。
「す、すみませんっ! わ、わざとじゃ、ないんですっ……!」
俺は、パニックで、タオルを、握りしめたまま、硬直する。
――と。その、隣で。
「……ほう」
華ちゃんが、腕を、組んで。……なぜか、しみじみと、感心した声を、上げた。
「……へえ。……麻衣さん、って。……服の上からじゃ、わからなかったけど。……こんなに、大きいのね」
「か、華ちゃんっ!? ……み、見ないでっ、品定めしないでぇっ……!」
「いえ。……純粋な、感心よ。……同じ女として、素直に、うらやましいわ」
「う、うらやましいって、言い方もっ……!」
麻衣さんは、涙目で、真っ赤になって、その場に、崩れ落ちる。……俺も、慌てて、握りしめていた、タオルを、そっと、返した。
(う、うわぁ……。……や、やって、しまった……)
結局。……俺と、麻衣さんが、二人して、真っ赤になって、うずくまり。華ちゃんだけが、ひとり、満足げに、うんうん、と、頷いていた。
◇
その後。どうにか、体勢を、立て直し。……俺だけが、小さな湯船に、身を、沈めた。
……熱いお湯が、じんわりと、体を、包む。湯気の、向こうで、麻衣さんと、華ちゃんが、湯船の縁に、腰かけている。
「和葉。……ほら、のぼせないように。……はい、これ」
湯船の縁に腰かけた、華ちゃんが。濡らして絞った、冷たいタオルを、和葉の、おでこに、そっと、乗せた。
「あ……。……つ、冷たくて、気持ちいい、です」
「頭だけ、冷やしておきなさい。……そのまま、縁に、もたれて、いいから」
言われるまま。俺は、和葉の姿で、湯船に、つかったまま。……こてん、と、後ろの縁に、頭を、もたせかけた。
すぐ後ろから。華ちゃんの、ひんやりした指が、和葉の、濡れた前髪を、そっと、かき上げる。
「……ふふ。こうしてると、ほんと、ただの、可愛い女の子ね。……中身が、あの、朴念仁だなんて、思えない」
「ぼ、朴念仁は、余計です……」
隣では、しっかり、タオルを、巻き直した、麻衣さんが。……まだ、少し、赤い顔のまま。和葉の、肩に、そっと、あたたかい、お湯を、かけてくれる。
「……もう。……和葉ちゃんの、ばか」
「う……。……ほ、本当に、すみません、でした……」
(……くそ。……なんで、こんなに、心地いいんだ……)
のぼせと、緊張と、二人の温もりで。……頭が、ぼうっと、してくる。
◇
「……あれ? 和葉ちゃん、大丈夫……?」
「……なんか、目、とろん、としてる」
二人の、声が。……やけに、遠くで、聞こえる。
……熱い。……頭が、くらくら、する。狭い浴室の、こもった熱気と、鳴りやまない心臓と、二人ぶんの温もりが。……とうとう、限界を、超えた。
「……のぼ……せた、かも……」
ふにゃ、と。……和葉の、視界が、白く、溶けていく。
「わっ、和葉ちゃん!?」
「――ちょっ、しっかりしなさい、和馬……!」
二人の、慌てた声を、最後に。俺の意識は、ぷつり、と、途切れた。
◇
――翌朝。
じり、と、差し込む、朝日で、目が覚める。
俺は、自分の布団の中で、寝かされていた。……そして。おそるおそる、掲げた、その手は。
「……戻って、る」
ごつごつした、男の、手だった。……どうやら、あのあと、二人が、介抱して、寝かせてくれたらしい。そして、一晩、ぐっすり、眠ったことで。……ちゃんと、元の、俺に、戻っていた。
枕元には、几帳面な字の、置き手紙。
『のぼせて、気絶するなんて、世話が焼けるわね。水分、ちゃんと取りなさい。……“興奮すると戻れない”は、実証済み。次の実験に活かすこと。 華』
(……あの人、最後まで、研究者だったな……)
どっと、疲れが、押し寄せる。だが――なんだかんだ、二人に、看病されたのだと思うと。……少しだけ、あたたかい気持ちにも、なるのだった。
――と、その時。スマホが、ぶるる、と震えた。
葵ちゃんからの、LINEだった。
『昨日、お風呂で"実験"したって、麻衣さんから聞いたわよ! ずるいずるいっ!』
『次は、絶対、私も、その"研究"に、混ぜなさいよ! いいわね、オッパ――じゃなくて、和葉っ!』
(……なんで、伝わってるんだ……)
俺は、朝から、頭を、抱えた。
……どうやら、この、とんでもない“会”の活動は。……まだまだ、終わりそうに、ないらしい。
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