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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第5章|能力編 ――一途がすぎると、女の子になるらしい――

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第45話 検証・和葉になる条件

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 翌日の、夜。


 俺の部屋は、すっかり“実験室”に、様変わりしていた。


「では、皆さま。第一回――“和葉になる条件”、検証会を、始めます」


 じいやが、どこから持ってきたのか、立派なホワイトボードの前で、恭しく一礼した。手には、なぜか、白衣まで着ている。……準備が、いい。


「今日の、目的はひとつ」


 華ちゃんが、ぱん、と手を打つ。素顔に、伊達眼鏡。すっかり、研究者気取りだ。


「昨日の仮説――“複数の人に、同時に触られると、和馬は女の子になる”。……これを、ちゃんと、確かめる。いい?」


「お、おー」


 麻衣さん、葵ちゃん、唯が、めいめいに、手を挙げる。俺だけが、実験台として、部屋の真ん中に、正座させられていた。


(……なんで、俺の休日が、こんなことに)


「まずは、基本から。……一人ずつ、触ってみましょう」


 ◇


「じゃあ、私から」


 華ちゃんが、つん、と、俺の頬を、指で突いた。


【華:70%】


 ……頭の奥が、じん、と、あたたかくなる。だが、それだけ。体は、男のまま。


「……なにも、ならないわね」


「はい。……一人だと、平気、みたいです」


「次、私っ」


 麻衣さんが、ぎゅ、と、俺の手を、両手で握る。


【麻衣:73%】


 ……やっぱり、変化なし。


「わたしもー」


 葵ちゃんが、ぺた、と、俺の背中に、手を当てる。


【葵:63%】


「……お兄ちゃんっ」


 唯が、とん、と、肩を叩く。


【唯:58%】


 ……どれも、一人ずつなら、なんともない。


「ふむ。……“一人”は、シロ、と」


 じいやが、ホワイトボードに、几帳面な字で、記していく。


(……この、絵面。傍から見たら、完全に、変な集団だよな……)


 ◇


「じゃあ、次。……いよいよ、本命ね」


 華ちゃんが、にやり、と笑った。


「二人、同時。……麻衣さん、せーので、いくわよ」


「う、うん」


 華ちゃんが、右の頬に。麻衣さんが、左の手に。


「「せーの」」


 二つの、手が。……同時に、俺に、触れた。


【華:70%】【麻衣:73%】


 ――ぐわん、と。


 視界が、歪む。体の芯が、ふわりと軽くなって――ぽん、と。


「……あ」


 次の瞬間には。俺は、また、あの、小さな女の子=和葉に、なっていた。


「「「出たーっ!」」」


 三人が、目を、輝かせる。


「やっぱり! ……“二人以上、同時”が、条件で、間違いなさそうね」


 華ちゃんが、こぶしを、握る。……仮説が、当たって、ご満悦だ。


「わあ、和葉ちゃん、何回見ても、可愛いっ……!」


 麻衣さんが、頬を、赤らめる。


(可愛い可愛い、言わないでください……!)


挿絵(By みてみん)


 ……ちなみに、女の子の姿でいると。……なぜか、俺は、妙に、素直になってしまう。心の、たがが、緩む、というか。……うっかり、本音が、口から、こぼれそうになるので、危険なのだ。


 ◇


「でも……ちょっと、気になること、あるんだけど」


 と、唯が、首を、かしげた。


「昨日は、私と麻衣さんが、触って、なったよね。今日は、華さんと麻衣さん。……“誰でも”、二人なら、なるのかな?」


「……いい着眼点ね、唯ちゃん」


 華ちゃんが、感心したように、頷く。


「じゃあ、それも、確かめましょう。……じいや。あなたも、実験に、参加して」


「わたくし、で、ございますか」


 和葉に戻った――いや、俺は寝れば戻るので、今は和葉のまま――俺の腕に。じいやと、葵ちゃんが、同時に、手を、添えた。


【葵:63%】【じいや:12%】


 ……あれ。


 ……ぐわん、が、来ない。……頭の奥が、ほんの少し、ざわ、とした、だけ。体は、和葉の、まま。


「……あれ? ならない、ね?」


 葵ちゃんが、きょとん、とする。


「二人、同時に、触ってるのに……。なんで?」


(……それは)


 俺には、その理由が、わかっていた。……じいやの、好感度が、低いからだ。心の声が、弱すぎて、二人分でも、あふれない。


 だが――それを、言うわけには、いかない。“心の声が聞こえる”なんて、口が裂けても、言えないのだ。……言えば、みんな、俺の前で、素直に、話せなくなってしまう。


「……ええと。……なんででしょうね。……相手に、よるのかも」


 俺は、和葉の声で、ごまかした。


「相手に、よる……?」


 華ちゃんが、あご に、手を当てる。


「……つまり。“誰と誰か”で、なったり、ならなかったり、する。……ふうん。……“相性”、みたいなもの、かしらね」


(……まあ、だいたい、合ってます)


 好感度、という言葉さえ、伏せておけば。……“相性”という理解で、止めてもらえるなら、それが、いちばん、平和だ。


 じいやが、ホワイトボードに、書き足す。『二人以上、同時。ただし“相性”による』。


 ◇


「よーし、じゃあ、次はっ」


 すっかり、乗ってきた、葵ちゃんが。


「和葉と、麻衣さんと、私で。……三人だと、どうなるのっ?」


 言うが早いか。葵ちゃんと、麻衣さんが、両側から、ぎゅうっ、と、和葉(俺)に、抱きついた。


【葵:63%】【麻衣:73%】


「わっ、ちょ、二人とも――」


 やわらかい、ぬくもりが。左右から、ぴったりと、密着する。ふわり、といい匂いが、鼻を、くすぐった。


(う、わ……。ち、近い……!)


 女の子の、姿になっていても。……いや、なっているからこそ。この距離は、心臓に、悪い。


「あ……。和葉ちゃん、耳、真っ赤」


 麻衣さんが、くすっ、と笑う。


「か、可愛いこと、言わないの……!」


 ――しまった。……たがが、緩んでいる。うっかり、口が、滑った。


「え。……“可愛いこと言わないの”って。……和葉ちゃん、今、私に、照れた?」


「ち、ちが……っ」


「ふうん?」


 華ちゃんが、にやにや、と、覗き込んでくる。


(……ま、まずい。……女の子でいると、本音が、ぽろぽろ、出てしまう……!)


 これも、立派な“発見”だった。……和葉の姿の間は、素直になりすぎて、口が、軽くなる。……墓穴を、掘りやすい。


「……“弱点”も、判明、ね」


 華ちゃんが、満足そうに、メモを取る。……勘弁してほしい。


 ◇


「んー。だいたい、わかってきたわね」


 ひとしきり、実験を終えて。華ちゃんが、ホワイトボードを、見上げた。


『①一人なら、平気。②好感度……いえ、相性のいい相手、二人以上に、同時に触られると、和葉になる。③和葉の間は、素直になりすぎて、口が軽くなる』


「あとは……“どうやったら、戻るのか”、よね」


 華ちゃんが、女の子の姿の俺――和葉を、じっと、見る。


「和馬。あんた、この前は、どうやって、戻ったの?」


「……えっと。一晩、ぐっすり、寝たら。朝には、元に、戻ってました」


「寝れば戻る、かぁ……」


 葵ちゃんが、つまらなそうに、唇を、尖らせる。


「じゃあ、今、この場で、戻すのは、無理ってこと?」


「……試して、みても、いいですか」


 俺は、その場で、ぎゅ、と、目を、つむってみた。……戻れ。戻れ。元の、男の、体に――。


 ……一分。……二分。


 ……なにも、起きない。


「……だめ、みたいです」


 どんなに、力んでも、戻れない。……どうやら、意識して、どうこう、できるものでは、ないらしい。


「ふむ。……“寝る”のが、リセットの、条件かしらね」


 と、そこで。麻衣さんが、こてん、と、首をかしげた。


「でも……この前、佐藤くん。……戻るまで、ちょっと、時間が、かかった、って言ってなかった?」


「あ……。そう、ですね。……あの日は、熱もあって、気持ちも、ぐちゃぐちゃで。……なかなか、寝つけなくて」


「……もしかして」


 華ちゃんが、あご に、手を当てる。


「気持ちが、落ち着いてないと。……戻りにくい、とか?」


 試しに――と、俺は、ゆっくり、深呼吸を、してみた。……長く、息を吐いて。肩の力を、抜いて。頭の中を、からっぽに、していく。


 ……すると。ほんの少し、指先が、じん、と、熱を持って。……もとの、男の感覚に、近づいた、気がした。


「あ……。なんか、今、ちょっと、戻りそうな……」


「わっ、ほんと!? 和葉、がんばって!」


 葵ちゃんが、ぐいっ、と身を乗り出して――俺の肩を、ぽん、と、叩いた。


【葵:63%】


「わっ、ちょ、触らな――」


 せっかく、緩みかけていた、感覚が。……ぱっ、と、また、和葉の、ほうへ、引き戻される。


「……あー……。戻り、かけたのに……」


「あっ、ご、ごめんっ!」


 どうやら――心を、落ち着ければ、戻る“ほう”へ向かうが。気持ちが、乱れたり、また触られたりすると、振り出しに、戻ってしまう、らしい。


「なるほどね。……“心が凪いで、ぐっすり眠る”のが、戻る条件。……焦ったり、どきどき、してると、戻りにくい」


 華ちゃんが、ホワイトボードに、書き足す。『戻り方:心を落ち着けて、一晩眠る。感情が乱れると、戻りにくい』。


(……つまり、今日は。……もう、寝るまで、和葉のまま、か……)


 俺は、がっくりと、肩を、落とした。


 と――その時だった。


「……ねえ」


 ずっと、なにか、考え込んでいた、麻衣さんが。……ぽつり、と、口を、開いた。


「和葉ちゃんって……今、“女の子”、なんだよね?」


「え? ……ま、まあ、はい」


「……じゃあ、さ」


 麻衣さんの、頬が。……ほんのり、赤く、染まっていく。


「女の子、同士なら。……もっと、いろいろ、確かめられるん、じゃない……? ……たとえば、その……い、いっしょに、お風呂とか」


「「「…………」」」


 部屋が、しん、と、静まりかえる。


「……お、お風呂ぉ!?」


 俺の、素っ頓狂な悲鳴が。……和葉の、高い声で、部屋に、響き渡った。


(な……なんてこと、言い出すんですか、この人はぁ――!)


 女の子の姿のまま。俺は、これから始まりそうな、とんでもない“検証”を、予感して。


 ……そっと、遠い目を、するのだった。


お読みいただきありがとうございます!

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