第44話 「超能力を深く知る会」発足
※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。
風邪が、すっかり治った、週末の夜。
俺の部屋に、二人の“証人”が、集まっていた。
華ちゃんと、麻衣さんだ。
「――で。逃げないで、ちゃんと、説明しなさいよ」
華ちゃんが、腕を組んで、俺を、じろりと見る。素顔の、ため口モード。眼鏡の奥の目は、好奇心で、きらきらと、光っていた。
「あの日のこと、ずっと、気になって……。私、夜も、眠れなくて」
麻衣さんも、心配そうに、身を乗り出す。
……もう、ごまかせない。あの日、二人には、思いっきり、見られてしまったのだ。俺が――女の子に、なる瞬間を。
……ただし。俺には、もう一つ、誰にも言っていない秘密がある。人に触れると、その人の“心の声”が聞こえる、という力だ。あの女化も、たぶん、それが関係している。
だが――それは、言えなかった。
(……もし、俺が“本音が聞こえる”なんて言ったら。……みんな、俺の前で、素直に、話せなくなる)
この、気の置けない空気を、壊したくない。……だから、心の声のことは、伏せておく。話せるのは、あくまで、“女の子になった”という、事実だけだ。
「……その。信じて、もらえるか、わからないんですけど」
俺は、慎重に、言葉を選んだ。
「俺、あの日。……二人に、同時に、触られて。……気づいたら、女の子に、なってたんです。……なんでそうなるのか、自分でも、まったく、わからなくて」
「「…………」」
二人は、しばらく、ぽかんと、していた。……そりゃ、そうだ。我ながら、正気を疑われても、おかしくない話だ。
「……信じ、ますか?」
華ちゃんは、ふ、と、笑った。
「信じるも何も。……この目で、見たもの。あんたが、可愛い女の子に、なるところ」
「わ、私も……。……あんな可愛い子、見間違える、はずないもん」
(可愛い可愛い、言うの、やめてくれませんか……)
女の子だった時の自分を思い出して、俺は、げんなりする。
「でも……それ、大変じゃない」
麻衣さんが、こてん、と首をかしげた。
「あの子……また、いつ、出てきちゃうか、わからないんでしょ?」
「……和葉」
「え?」
「あの姿の、呼び名です。……鏡、見たとき。なんとなく、頭に浮かんで。……“和葉”、って」
自分でも、なぜか、しっくりくる、名前だった。
「和葉、ちゃん」
麻衣さんが、その名を、そっと、口にする。……なんだか、嬉しそうだった。やめてほしい。
◇
「――よし。決めた」
ひとしきり考えたあと、華ちゃんが、ぱん、と手を打った。
「和馬。この“体質”、ちゃんと、解明しましょう」
「か、解明?」
「そう。……原因も、戻し方も、わからないままじゃ、危ないでしょ。仕事中とか、外とかで、いきなり、なったら。……大惨事じゃない」
「……た、確かに」
想像して、ぞっとする。……満員電車で、うっかり、女の子に。なんて、考えたくもない。
「だから。……“どういう時に、なるのか”。“どうやったら、戻るのか”。……ちゃんと、みんなで、調べるの」
と、その時。
ばんっ、と。玄関の扉が、勢いよく、開いた。
「オッパ! 遊びに来たわよ!」
じいや同伴で、当然のように、上がり込んでくる、この、生意気な声は。
「……葵ちゃん」
「あれ? なんか、みんな、集まって。……なになに、面白そうな、こと?」
さらに、その、すぐ後ろから。
「お兄ちゃーん、具合、もう平気っ? ……って、あれ? なんで、みんないるの?」
様子を見に来たらしい、妹の唯まで、ひょっこり、顔を出した。
(な、なんで、こんなことに……)
結局。俺の“女の子になる”秘密は、その場にいた、全員に、知られることになった。
「触られると、女の子ぉ!? なにそれ、面白すぎでしょ!」
「お、お兄ちゃんが、女の子……? ……ちょっと、見てみたいかも」
葵ちゃんと唯は、なぜか、目を輝かせている。……お前ら、他人事だと思って。
◇
「――じゃあ、今日から。この、メンバーで」
華ちゃんが、ぐるりと、一同を見回して、宣言した。
「和馬の、この不思議な体質を、解明する。名付けて――“超能力を、深く知る会”! ……発足よ!」
「「おー」」
葵ちゃんと、麻衣さんが、なんだか楽しそうに、手を挙げる。唯は「面白そう!」と乗り気で、じいやは「素晴らしい趣向でございます」と、恭しく頷いていた。
「……なあ、これ。“何の会”なんだ」
俺の、ぼやきは、誰にも、拾われなかった。
「まず、いちばんの、謎はここね」
華ちゃんが、指を、一本、立てる。
「――和馬は、“どういう時”に、女の子になるのか。……あの日は、私と麻衣さんが、いた。今日は、私、まだ、和馬に触ってないけど……女の子には、なってない。……となると、条件は、なんなのかしら」
「うーん……」
一同が、腕を組んで、考え込む。……そう。肝心の“条件”が、まだ、誰にも、わかっていないのだ。
「ねえ、お兄ちゃん。今、どんな感じ? 平気?」
と、心配した唯が、俺の腕に、とん、と、手を置いた。
――その、瞬間。
「あ、佐藤くん、顔色、大丈夫?」
ほとんど、同時に。麻衣さんが、反対側から、俺の肩に、手を添えた。
「「あ」」
(――しまっ……!)
右から、唯。左から、麻衣さん。二つの、あたたかい手が、同時に、俺に、触れた。
その、瞬間。頭の奥が、ぐわん、と、揺れて――。
【唯:58%】【麻衣:73%】
ぐにゃり、と。世界が、歪んで。
――ぽん、と。
次の瞬間には。俺は、また、あの、可憐な、女の子=和葉に、なっていた。
「……あ」
「わあっ、で、出たあっ! この子が、和葉ちゃん!?」
葵ちゃんが、目を、まん丸にする。
だが――それより早く。華ちゃんが、す、と、目を、細めた。
「……ねえ、今。唯ちゃんと、麻衣さんが。“同時に”、和馬に、触ったわよね?」
「「……あ」」
全員の、視線が、集まる。
(……やっぱり、そうだ)
俺は、和葉の姿で、こくり、と、頷いた。……あの風邪の日も。さっきも。女の子になったのは、決まって、二人に、同時に、触られた時だった。
「……もしかして。“複数の人に、いっぺんに、触られる”のが、条件……?」
華ちゃんの、その、鋭い、仮説に。
一同が、はっと、息を、のむ。
「……それ、ちゃんと、確かめる、価値、ありそうね」
華ちゃんが、にやり、と、口の端を上げた。
「よし。……次回は、本格的に。“和葉になる条件”を、実験で、突き止めるわよ」
(……なんだか、とんでもないことに、なってきたぞ)
和葉の姿のまま。俺は、これから始まる、実験の日々を思って。……そっと、遠い目を、した。
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