↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第5章|能力編 ――一途がすぎると、女の子になるらしい――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/66

第43話 風邪と、はじめての和葉

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 ずるり、と。


 鼻の奥が、おかしい。頭も、やけに、熱っぽい。


 葵の別荘での強化合宿から、帰ってきた翌日。俺は、見事に、風邪をひいていた。


(……油断した。プールで、はしゃぎすぎたか……)


 いや、はしゃいだのは、俺じゃなくて葵ちゃんなんだが。とにかく、俺は、朝から布団の中で、ぐったりと、のびていた。


「……水、飲まないと」


 起き上がろうとして、くらり、とめまいがする。……これは、けっこう、ひどいやつだ。


 ――と、その時。


 こんこん、と。玄関のドアが、ノックされた。


「和馬? ……いる?」


 華ちゃんの、声だ。素顔の、ため口。……こんな時に。俺は、のろのろと、ドアの鍵を開けた。


「……華ちゃん。どうし――」


「うわ。……ひどい顔」


 ドアを開けた俺を見るなり、華ちゃんが、眉をひそめた。


「昨日から、姿見ないと思ったら。……あんた、風邪?」


「あ、はは……。お恥ずかしい、ところを」


「隠さなくて、いい」


 華ちゃんは、ずかずかと、部屋に上がり込んでくる。そして、俺の額に、ひんやりとした手を、ぴた、と当てた。


「……熱い。だいぶ、あるじゃない。……ばか。もっと早く、言いなさいよ」


(う……。心配、してくれてるのか)


「わざわざ、すみません。……でも、大丈夫ですよ。寝てれば、そのうち」


「よくない。……ちょっと待ってて。おかゆ、作ってあげるから」


 華ちゃんが、腕まくりをした、その時だった。


 ――ばたばた、と。今度は、廊下から、別の足音。


「佐藤くーん! 大丈夫っ!?」


 勢いよく開いた、玄関から。息を切らせて、飛び込んできたのは。


「……ま、麻衣さん?」


 麻衣さんだった。手には、大きなレジ袋。中には、ゼリーやら、スポーツドリンクやら、冷却シートやらが、ぱんぱんに詰まっている。


「唯ちゃんから、連絡もらって……。佐藤くんが、寝込んでるって。……もう、心配で、会社、早退してきちゃった」


「そ、そんな、大げさな……」


(……妹め。どこまで、面倒見がいいんだ)


 と――そこで。麻衣さんの視線が、先客の華ちゃんに、ぶつかった。


「……あら。花火さんも、いらしてたんですね」


「ええ。……お隣ですから」


 にこ、と微笑み合う、二人。……なのに、なぜだろう。二人のあいだに、ぱち、と、見えない火花が、散った気がした。


「じゃあ、私は、おかゆを」


「では、私は、冷却シートを、貼りますね」


「「……」」


 ――そして。


 二人は、同時に。俺の、両脇に、座り込んだ。


「はい、和馬。おでこ、失礼」


「佐藤くん、腕、ちょっと貸してくださいね。汗、拭きますから」


(え。ちょ、両方から――)


 右から、華ちゃんの手が、俺の額に。


 左から、麻衣さんの手が、俺の腕に。


 二人の、あたたかい手のひらが。……同時に、俺の肌に、触れた。


 その、瞬間だった。


 《……もう。無理して。……ばか。ちゃんと、私を頼りなさいよ》


 《……佐藤くん、こんなに、熱くなって……。心配だよぉ。……早く、元気になってね》


 ――二つの、心の声が。


 いつもは、一人ずつ。触れた相手の本音が、一つだけ、聞こえる。それが。


 今は。左右から、同時に。二人分の想いが、どっと、頭の中に、なだれ込んできた。


【華:70%】【麻衣:72%】


(――ぐっ……!? な、なんだ、これ……! あ、頭が、割れそうに……!)


 二重に、重なった、好意の奔流。それが、俺の中の“何か”を、ぐわん、と、大きく、揺さぶった。


 視界が、ぐにゃり、と歪む。体の芯が、ふわり、と軽くなって――。


「……あれ? 和馬、あんた……」


「え……? 佐藤くん……? なんか、ちっちゃく……」


 二人の、戸惑った声が、やけに、遠くに聞こえる。


 ……体が。……変だ。手が、足が、どんどん、小さく、細くなっていく。ぶかぶかになった、パジャマの袖から、白くて、細い指が、覗いた。


 肩まで届く、さらさらの、黒い髪が、はらり、と頬にかかる。


(――え。え、えぇっ!?)


 俺は、慌てて、枕元の、手鏡を、掴んだ。


 そこに、映っていたのは。


挿絵(By みてみん)


 ……俺の、面影を、どこかに残した。ぽかんと、口を開けた、見知らぬ、可憐な、女の子だった。


「……は?」


 出てきた声さえ、高くて、澄んでいて、まるで、自分のものじゃ、ない。


「な……な、なんだ、これええええっ!?」


 女の子の、悲鳴が。俺の、狭いアパートの部屋に、響き渡った。


 ---


「…………ふむ」


 華ちゃんが、あごに手を当てて、女の子(俺)を、じろじろと、見回している。


「……可愛い。すっごく、可愛いわね、この子」


「感想は、いいですから! 助けてください!」


「わ、わ、わ……。ど、どうしよう、佐藤くん、女の子に……!」


 麻衣さんは、麻衣さんで、真っ赤になって、おろおろしている。……頼れる先輩の面影は、どこにもない。


 俺は、女の子の姿で、頭を、抱えた。


(な、なんで、だ。……華ちゃんと、麻衣さんに、同時に、触られた瞬間、これに……)


 風邪の熱と、混乱で、思考が、まとまらない。だが――ひとつだけ、確かなことがあった。


 二人分の、心の声。あの、どっと流れ込んできた、好意の奔流。あれが、引き金だ。……間違い、ない。


「……あの、二人とも。……お願いです。ちょっと、離れて、もらえますか。……これ以上、触られると、まずい気が」


「……む。そう?」


「あ、ご、ごめんね、佐藤くん……!」


 二人が、そっと、手を引く。


 ……好意の奔流が、途切れると。少しだけ、頭の中の、ぐわんぐわんが、収まった。


 だが。体は、女の子のまま。……戻る、気配は、ない。


(……ど、どうすれば、戻るんだ、これ……)


 俺は、途方に暮れて。それから、ふと、猛烈な、眠気に、襲われた。……そうだ。俺は、風邪をひいて、熱があるんだった。混乱と、熱と、力の暴走で。……もう、限界だった。


「……すみません。俺……もう、ちょっと、寝ます……。……起きたら、戻ってる、こと、祈って……」


「え、ちょ、和馬……!?」


「さ、佐藤くん!?」


 二人の、慌てた声を、子守唄みたいに聞きながら。俺は、女の子の体のまま、ぐらり、と、布団に、倒れ込んだ。


 ---


 ――翌朝。


 じり、と差し込む、朝日で、目が覚める。


 俺は、おそるおそる、自分の、手を、見た。


 ……大きい。ごつごつした、男の、手だ。


「……戻って、る」


 鏡を、覗き込む。そこには、いつもの、冴えない、俺の顔が、あった。熱も、ずいぶん、下がっている。


(……よかった。……一晩、寝たら、戻るのか)


 ほっ、と、胸をなでおろす。


 枕元には、置き手紙が、二枚。


 一枚は、几帳面な字で。『おかゆ、鍋に入れてあります。ちゃんと食べて。……昨日のこと、また、ゆっくり話そうね。麻衣』


 もう一枚は、素っ気ない字で。『昨日の“あれ”。……逃げないで、ちゃんと説明して。待ってるから。……華』


(……そうだよな。……説明、しないと、だよな)


 昨日の、あの、悪夢みたいな出来事は。……夢でも、幻でも、なかった。


 俺の“推し聞き”には。……とんでもない、裏の顔が、あったらしい。


 窓の外を、見上げる。よく晴れた、空。


 ……なんだか、俺の、平穏な日常は。また一つ、大きく、遠のいた気が、した。


(……とりあえず。……この体質、いったい、何なんだ)


 それを、確かめる“会”が、始まるのは。……もう、すぐ、あとのことだった。

お読みいただきありがとうございます!

ブックマーク・★評価・リアクションが更新の励みになります。ほんとに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。