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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第4章|葵編 ――生意気な後輩は、本物になりたい――

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幕間・葵side 素直に、なれたら…なんて

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 引っ越しの、夜。


 まだ、段ボールだらけの201号室で、私――神崎葵は、湯上がりの髪をタオルで拭きながら、ぺたんと、床に座り込んでいた。


 慣れない、狭いお風呂。慣れない、安い床。……別荘のふかふかのベッドとも、じいやの淹れる紅茶とも、無縁の暮らし。


(……でも、なんでかな)


 不思議と、悪い気は、しなかった。むしろ、胸の奥が、ずっと、そわそわしている。


 鏡の前に立って、自分の顔を、覗き込んでみる。


 すっぴんの、私。テレビの中の、きらきらした「葵」じゃない、ただの、二十歳の女の子。


(……そういえば、合宿。オッパの前で、うっかり、いろいろ、やらかしちゃったな)


 プールで、水着を脱ぎかけて、騒がれたり。夜、枕を抱えて、うっかり、オッパの部屋に、突撃しちゃったり。……あのとき、オッパ、真っ赤になって、必死に目をそらしてたっけ。思い出したら、かあっと、頬が熱くなった。タオルを、ばっと顔に押しつける。


 ――ドンッ。


 と、その時。お隣の、203号室から、物音が響いて。私は、びくうっ、と跳び上がった。


「ひっ……! れ、怜子さん、まだ起きてる……!?」


 すぐお隣に、鬼マネージャー。……この事実だけは、いまだに、慣れない。うっかり夜遊びに抜け出そうものなら、即、壁越しに気配を察知されて、地獄の電話がかかってくるに違いない。


(……はぁ。優雅な一人暮らしの夢、返してよ)


 でも。ため息をつきながらも、私の口元は、なぜか、ゆるんでいた。


 ---


 スマホを、手に取る。


 まず開くのは、いつもの、華ソンベの動画。何百回、見たか、わからない。完璧なダンス。天使みたいな笑顔。……ああ、やっぱり、すごい。私の、憧れ。私の、目標。


 少し前までの私なら。この動画を見るたびに、胸が、ぎゅっと、苦しくなっていた。


 ――どうせ、追いつけない。どうせ、私なんて、劣化版。


 そんな声が、頭の中で、ぐるぐる、回っていた。


 でも、今は。


(……ソンベは、ソンベ。私は、私)


 あの人の光は、あの人だけのもの。そして、私の光も、私だけのもの。……そう思えるように、なった。


 誰のおかげ、だと思ってるの。


 私は、そっと、写真フォルダを、開いた。


 ――そこには。合宿のとき、こっそり撮った、オッパの、寝顔。


(……って、なんで、私、こんな写真、撮ってるんだろ)


 自分でも、よく、わからない。ただ、あの日。私が「本物になんて、なれない」って、泣きそうになってたとき。


『葵ちゃんは、華ちゃんの劣化版なんかじゃない』


 まっすぐに、そう言ってくれた、あの声が。今も、耳の奥に、こびりついて、離れない。


 華ソンベの動画と、オッパの寝顔を。交互に、何度も、見比べて。


「……あー、もうっ!」


 私は、じたばたと、床を転がった。……なんなの、この、むずむずする感じは。


 ---


 専属協力者。


 私が、勝手に、そう呼んで、振り回してるだけの、関係。


 でも。……本当は、気づいてる。


 あの人の前でだけ、私、変に、素直になれちゃうこと。強がりも、見栄も、ぜんぶ、見透かされてるみたいで。それなのに、ちっとも、いやじゃないこと。


(……ううん。逆かも)


 素直に、なれないから。


「オッパ」なんて、軽い呼び方で、ごまかしてるのかも、しれない。


 ――ねえ、オッパ。私、あなたのこと、けっこう……。


 その先を、口にしかけて。私は、ぶんぶん、と首を振った。


「い、言わないもん。……絶対、言ってあげないんだから」


 だって、言ったら。この、くすぐったくて、あったかい距離が。……壊れちゃう気が、するから。


 窓の外を、見上げる。都会の、狭い空。でも、星が、ひとつ、ふたつ、瞬いていた。


(見ててね、ソンベ。それから……オッパも)


 私は、ぎゅっと、膝を抱えて、笑う。


 追いかけるだけの、後輩は、もう、卒業。次は、私が、誰かの、憧れになる番。


 ――次は、私が“ソンベ”って、呼ばれる番、かもね。


 そして、いつか。


 この気持ちに、ちゃんと、名前をつけられる日が来たら。……その時は。


(……なんて、ね)


 照れ隠しに、私は、もう一度だけ、オッパの寝顔を見て。それから、そっと、スマホを、抱きしめた。


 賑やかで、騒がしくて。ちょっぴり、怜子さんが怖い、新しい生活が。


 今、始まる。



 ★普段の葵の姿★

挿絵(By みてみん)




お読みいただきありがとうございました!

こちらで一旦葵編が終わります。

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