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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第4章|葵編 ――生意気な後輩は、本物になりたい――

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第41話 本物って、なんだろう

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 合宿から、数日後。


 俺は、また、怜子さんに呼び出されて、事務所のロビーの隅に、いた。


「……なんで、俺まで」


「まあ、いいから。……見てなさい」


 怜子さんが、顎で示した、その先。


 ガラス張りの、応接スペース。そこに、二人の少女が、向かい合って座っていた。


 華ちゃんと、葵ちゃん。


 ……あの、犬猿の仲の二人が、マネージャー同士の打ち合わせだかで、たまたま、鉢合わせたらしい。俺は、思わず、息を呑んだ。


(うわ……気まずそうだな)


 案の定、二人のあいだには、ぴりぴりとした空気が、流れていた。


 先に口を開いたのは、意外にも、華ちゃんだった。素の――ため口の、ブラック華モードで。


「……この前の対決。まあ、悪くなかったわよ」


「……っ。そ、そんなの、当然でしょ」


「ふん。相変わらず、生意気な後輩」


 つん、と顔を背け合う二人。……だめだ、まったく、噛み合っていない。


 だけど。


「……正直に、言うとね」


 華ちゃんが、ふっと、声のトーンを落とした。


「あんたのこと、ずっと、目障りな後輩だと思ってた。事あるごとに『華ソンベを超える』なんて、大口叩いて。……鬱陶しいったら、なかった」


「うぐっ……」


「でも」


 華ちゃんは、少しだけ、まぶしそうに、目を細めた。


「……あんたの、その、まっすぐなとこ。ぜんぶ、さらけ出して、必死に食らいついてくるとこ。……正直、うらやましいのよ」


「……え?」


 葵ちゃんが、ぽかん、と口を開ける。


「私はね。……“清純派の天使”なんて、看板を、ずっと背負ってる。ファンの前じゃ、いつも、にこにこ笑って、いい子でいなきゃいけない。……本当の自分なんて、とっくに、どっかに、置いてきた」


 それは、俺だけが知っている、あの、素顔の華ちゃんの、本音だった。


(華ちゃん……)


「……あんたを見てると、思うのよ。私も、あんたみたいに、素直に生きられてたら、って。……ま、今さら、無理だけどね」


 自嘲するように、華ちゃんが、肩をすくめる。


 ――と。


 葵ちゃんが、勢いよく、立ち上がった。


「……そんなの、もったいないです!」


「え?」


「華ソンベは、華ソンベのままで、じゅうぶん、すごいんです! 天使のオーラも、あの完璧なパフォーマンスも、ぜんぶ、ソンベが必死に築き上げてきた、“本物”じゃないですか!」


 まっすぐな瞳で、葵ちゃんが、まくしたてる。


「私……気づいたんです。ソンベを“超える”とか、そういうことじゃなくて。私は、私にしか、なれない。……私は、私だけの、アイドルになる。それが、私の答えです!」


 しん、と。応接スペースが、静まり返った。


 華ちゃんが、ぱちくり、とまばたきをして。……それから、ふっ、と、笑った。


 いつもの、天使の作り笑いじゃない。素の、ちょっと不器用な、本物の笑顔で。


「……なにそれ。生意気な後輩のくせに、たまには、いいこと言うじゃない」


「な、生意気は余計です!」


「ふふっ。……でも、そうね。あんたは、あんたの光で、勝負しなさい。……私も、負けないけど」


「……はいっ!」


 初めて。ライバルだった二人が、本音で、笑い合った。


(……よかった)


 じん、と胸が熱くなる。……ふと、隣を見ると、じいやが、廊下の陰で、滝のような涙を、ハンカチで拭っていた。


「お嬢様が……お嬢様が、あんなに、いいお顔を……ぐすっ」


挿絵(By みてみん)


(……じいや、感情、豊かすぎる)


 ---


 打ち合わせが終わり、二人が去っていく。すれ違いざま、葵ちゃんが、俺を見つけて、ぱっと駆け寄ってきた。


「オッパ! 見ててくれた? 私、ちゃんと、言えたよ!」


「ああ。……かっこよかったよ、葵ちゃん」


「えへへ……」


 照れくさそうに笑った葵ちゃんの手が、俺の腕に、ちょこん、と触れる。


 《……華ソンベと、こんなふうに、話せる日が来るなんて。……ぜんぶ、オッパのおかげ、なのかな》


【葵:66%】


(……いや、全部、葵ちゃんが、自分で掴んだんだよ)


 その後ろ姿を見送っていると。


「……ふん。少しは、役に立ったみたいね」


 いつのまにか、隣に立っていた怜子さんが、ぽつり、と言った。


「あの子が、あんなに晴れやかな顔をするなんて。……正直、あなたのこと、ただの厄介事だと思ってたんだけど」


「あはは……。えっと、それは、褒められてるんですか?」


「さあ、どうかしら」


 怜子さんは、ふい、と俺から視線を外して。それから、少しだけ、声を柔らかくした。


「……華のことも、あの子のことも。あなたは、なんだかんだ、放っておけないのね」


「え?」


「……いえ。なんでも、ないわ」


 その横顔が、いつもの、氷みたいに冷たい表情とは、少し違って見えて。


(……怜子さん?)


 俺が首をかしげると、怜子さんは、はっと我に返ったように、いつもの、きりっとした顔に戻った。


「……とにかく。この件は、これで一件落着よ。……もう、変な騒動は、起こさないでちょうだいね」


 そう言って、こつこつと、ヒールを鳴らして、去っていく。


 その背中を見送りながら、俺は、なんだか、胸の奥が、妙に、ざわつくのを感じていた。


(……なんだろう。今の、怜子さん)


 ――華ちゃん、麻衣さん、葵ちゃん。


 俺の周りは、いつのまにか、賑やかになりすぎるくらい、賑やかで。


 だけど、この、静かな人のことは。……俺は、まだ、何も、知らないのだ。


お読みいただきありがとうございました。


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