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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第4章|葵編 ――生意気な後輩は、本物になりたい――

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第37話 ガチンコ対決SP・後編

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

『さあ、いよいよ最終決戦! 本気のパフォーマンス対決だ――!』


 バラエティの馬鹿騒ぎから、一転。


 ステージ袖で出番を待つ葵ちゃんの横顔から、さっきまでの余裕は、消えていた。


 衣装の裾を握る指先が、小さく、震えている。


(……緊張、してるんだな)


 俺は、そっと、その背中に手を添えた。


 ――と。


 《……こわい。……華ソンベの前で、また、失敗したら。……でも》


【葵:52%】


 《……オッパの手、あったかい。……うん。大丈夫。……私、やれる》


(……ちゃんと、覚悟は決まってる)


「葵ちゃん」


 俺は、なるべく軽い声で、言った。


「いつもの、高飛車な葵ちゃんでいけば、大丈夫。……みんな、葵ちゃんが、どれだけ努力してきたか、ちゃんと見てるよ」


 葵ちゃんが、はっと、俺を見上げる。それから、ふい、とそっぽを向いて。


「……ふん。オッパのくせに、生意気」


 でも、その手は。俺の手を、きゅっと、握り返してきた。ほんの一瞬だけ。


「……行ってくる」


 背筋をぴんと伸ばして、葵ちゃんは、まばゆいステージへと、駆け出していった。


 ---


 結論から言えば、葵ちゃんたちのステージは、圧巻だった。


 キレのあるダンス。伸びやかな歌声。センターで笑う葵ちゃんは、もう、さっきまで震えていた子と同じとは思えない。会場のペンライトが、彼女の名前を呼ぶ色に、染まっていく。


(……すごい。すごいよ、葵ちゃん)


 十年、アイドルを追いかけてきた俺が、素直に、そう思った。この子は、本物だ。


 気づけば俺は、観客席で、誰よりも大きな拍手を送っていた。専属協力者、なんて柄じゃないけれど。それでも、あの震えていた手で掴み取ったステージを、心から、すごいと思った。


 ――だが。


 続いて登場した、華ちゃんのグループ。そのセンターに立った、華ちゃんのパフォーマンスは。


 ……次元が、違った。


 同じ振り付けのはずなのに、指先の一つ、視線の一つで、会場の空気を、丸ごと支配してしまう。誰もが、彼女から目を離せない。ステージの上の華ちゃんは、まさに、頂点に立つ“天使”だった。


挿絵(By みてみん)


 その華ちゃんが、歌の合間に、ほんの一瞬。


 観客席の隅の俺に、視線を、送ってきた。


 ――どう? 私が、一番でしょう?


 そう言わんばかりの、絶対的なオーラ。……俺は、返す言葉もなく、ただ、見惚れるしかなかった。


(……華ちゃんも、葵ちゃんも。……本当に、すごいな)


 ---


 そして、結果発表。


『――優勝は、僅差で……華さんチーム!』


 わっ、と会場が沸く。


 僅差。……本当に、あと一歩の、僅差だった。


 勝ち名乗りを上げる華ちゃんの隣で、葵ちゃんは、唇を噛んで、じっと、床を見つめていた。


 華ちゃんが、そんな葵ちゃんに、すっと近づく。そして、周りには聞こえないくらいの声で、囁いた。


「……ふふ。少しは、骨が、あるじゃないですか」


「……っ」


「次は……ちゃんと、追いついてみなさい。……待っててあげますから」


 葵ちゃんの目が、ふるっ、と潤んだ。


 ――が。さすがは負けず嫌い。ぐいっと目元をぬぐうと、無理やり、いつもの強気な笑みを、貼りつけた。


「……当然でしょ。次は、絶対、勝つんだから」


 その、無理やりな強がりが。……本当は、あんなに悔しかったはずなのに、笑ってみせるその横顔が。なんだか、放っておけなくて。俺は、胸の奥が、ちくりと、ざわつくのを感じた。


 ---


 番組が、無事に終わり。楽屋裏に戻った俺に、待っていたのは――地獄だった。


「オッパ! 見ててくれた? 私、頑張ったでしょ!」


 葵ちゃんが、また、俺の腕に、ぎゅうっと抱きついてくる。


「次は絶対、負けないんだから。専属協力者として、これからもビシビシ鍛えてもらうからね、オッパ!」


「あ、葵ちゃん、それは……」


「――さ、藤くん?」


 背後から。ぞわりと、低い声。


 振り返ると、書類を胸に抱えた麻衣さんが、笑顔で、立っていた。目は、まったく笑っていない。


「番組は、大成功だったけど……。あとで、『専属協力者』について。……じっくり、お話、聞かせてくれるよね?」


「ひっ」


 さらに、反対側から。


「和馬さん?」


 いつの間にか、天使スマイルの華ちゃんが、俺の袖を、きゅっと掴んでいた。


 《……で? いつから、あんた、あの子の“オッパ”になったわけ? ……洗いざらい、吐いてもらうから》


「……あの、華、さん」


「ふふ。いつから、あの子に『オッパ』なんて呼ばれる仲に? ……ね、お姉さんにも、教えてくださいね?」


 葵ちゃんに腕を抱かれ、麻衣さんに笑顔で詰められ、華ちゃんに袖を掴まれ。


 推しと、上司と、本命に、三方向から囲まれて。


「――だ、誰か、助けてくれえええ!」


 俺の悲鳴は、むなしく、テレビ局の廊下に、響き渡ったのだった。


 ---


 ――だけど。


 この時の俺は、まだ、気づいていなかった。


 あんなに勝ち誇って、強がってみせた葵ちゃんが。……たった一人になったとき、どんな顔をするのか。


 その本当の横顔を、俺が知るのは、もう少しだけ、あとのことだ。



★ガチンコ対決番組サービスショット★

挿絵(By みてみん)





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