第37話 ガチンコ対決SP・後編
※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。
『さあ、いよいよ最終決戦! 本気のパフォーマンス対決だ――!』
バラエティの馬鹿騒ぎから、一転。
ステージ袖で出番を待つ葵ちゃんの横顔から、さっきまでの余裕は、消えていた。
衣装の裾を握る指先が、小さく、震えている。
(……緊張、してるんだな)
俺は、そっと、その背中に手を添えた。
――と。
《……こわい。……華ソンベの前で、また、失敗したら。……でも》
【葵:52%】
《……オッパの手、あったかい。……うん。大丈夫。……私、やれる》
(……ちゃんと、覚悟は決まってる)
「葵ちゃん」
俺は、なるべく軽い声で、言った。
「いつもの、高飛車な葵ちゃんでいけば、大丈夫。……みんな、葵ちゃんが、どれだけ努力してきたか、ちゃんと見てるよ」
葵ちゃんが、はっと、俺を見上げる。それから、ふい、とそっぽを向いて。
「……ふん。オッパのくせに、生意気」
でも、その手は。俺の手を、きゅっと、握り返してきた。ほんの一瞬だけ。
「……行ってくる」
背筋をぴんと伸ばして、葵ちゃんは、まばゆいステージへと、駆け出していった。
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結論から言えば、葵ちゃんたちのステージは、圧巻だった。
キレのあるダンス。伸びやかな歌声。センターで笑う葵ちゃんは、もう、さっきまで震えていた子と同じとは思えない。会場のペンライトが、彼女の名前を呼ぶ色に、染まっていく。
(……すごい。すごいよ、葵ちゃん)
十年、アイドルを追いかけてきた俺が、素直に、そう思った。この子は、本物だ。
気づけば俺は、観客席で、誰よりも大きな拍手を送っていた。専属協力者、なんて柄じゃないけれど。それでも、あの震えていた手で掴み取ったステージを、心から、すごいと思った。
――だが。
続いて登場した、華ちゃんのグループ。そのセンターに立った、華ちゃんのパフォーマンスは。
……次元が、違った。
同じ振り付けのはずなのに、指先の一つ、視線の一つで、会場の空気を、丸ごと支配してしまう。誰もが、彼女から目を離せない。ステージの上の華ちゃんは、まさに、頂点に立つ“天使”だった。
その華ちゃんが、歌の合間に、ほんの一瞬。
観客席の隅の俺に、視線を、送ってきた。
――どう? 私が、一番でしょう?
そう言わんばかりの、絶対的なオーラ。……俺は、返す言葉もなく、ただ、見惚れるしかなかった。
(……華ちゃんも、葵ちゃんも。……本当に、すごいな)
---
そして、結果発表。
『――優勝は、僅差で……華さんチーム!』
わっ、と会場が沸く。
僅差。……本当に、あと一歩の、僅差だった。
勝ち名乗りを上げる華ちゃんの隣で、葵ちゃんは、唇を噛んで、じっと、床を見つめていた。
華ちゃんが、そんな葵ちゃんに、すっと近づく。そして、周りには聞こえないくらいの声で、囁いた。
「……ふふ。少しは、骨が、あるじゃないですか」
「……っ」
「次は……ちゃんと、追いついてみなさい。……待っててあげますから」
葵ちゃんの目が、ふるっ、と潤んだ。
――が。さすがは負けず嫌い。ぐいっと目元をぬぐうと、無理やり、いつもの強気な笑みを、貼りつけた。
「……当然でしょ。次は、絶対、勝つんだから」
その、無理やりな強がりが。……本当は、あんなに悔しかったはずなのに、笑ってみせるその横顔が。なんだか、放っておけなくて。俺は、胸の奥が、ちくりと、ざわつくのを感じた。
---
番組が、無事に終わり。楽屋裏に戻った俺に、待っていたのは――地獄だった。
「オッパ! 見ててくれた? 私、頑張ったでしょ!」
葵ちゃんが、また、俺の腕に、ぎゅうっと抱きついてくる。
「次は絶対、負けないんだから。専属協力者として、これからもビシビシ鍛えてもらうからね、オッパ!」
「あ、葵ちゃん、それは……」
「――さ、藤くん?」
背後から。ぞわりと、低い声。
振り返ると、書類を胸に抱えた麻衣さんが、笑顔で、立っていた。目は、まったく笑っていない。
「番組は、大成功だったけど……。あとで、『専属協力者』について。……じっくり、お話、聞かせてくれるよね?」
「ひっ」
さらに、反対側から。
「和馬さん?」
いつの間にか、天使スマイルの華ちゃんが、俺の袖を、きゅっと掴んでいた。
《……で? いつから、あんた、あの子の“オッパ”になったわけ? ……洗いざらい、吐いてもらうから》
「……あの、華、さん」
「ふふ。いつから、あの子に『オッパ』なんて呼ばれる仲に? ……ね、お姉さんにも、教えてくださいね?」
葵ちゃんに腕を抱かれ、麻衣さんに笑顔で詰められ、華ちゃんに袖を掴まれ。
推しと、上司と、本命に、三方向から囲まれて。
「――だ、誰か、助けてくれえええ!」
俺の悲鳴は、むなしく、テレビ局の廊下に、響き渡ったのだった。
---
――だけど。
この時の俺は、まだ、気づいていなかった。
あんなに勝ち誇って、強がってみせた葵ちゃんが。……たった一人になったとき、どんな顔をするのか。
その本当の横顔を、俺が知るのは、もう少しだけ、あとのことだ。
★ガチンコ対決番組サービスショット★
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