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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第3章|麻衣編 ――素直になれない、頼れる先輩――

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幕間・麻衣side 素直に、なれたら

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 すべてが、片付いた、ある夜のこと。


 私は、湯上がりの髪をタオルで押さえながら、ひとり、部屋のソファに座っていた。


 ……なんだか、へんな夏だった。


 海外赴任の話が、降ってわいて。あの部長に、無理やりお酒を飲まされて。……気づけば、その話が、まるでなかったことみたいに、消えていた。


 私は、ばかじゃない。……誰が、動いてくれたのかくらい、わかる。


 佐藤くん。


 ……あの、頼りないくせに、変なところで一途な、後輩。いつも私が支える側で、頼られてばっかりだと思っていた、あの子が。……気づけば、私のために、走り回ってくれていた。


(……もう。ほんと、あの子ったら)


 思い出すと、顔が、熱くなる。……お礼をしようと呼んだのに。結局、私は、あの酒チョコのせいで、みっともないところを、見せてしまった。


 ――というか。


(……おんぶ、して、もらったんだよね……私)


 あの夜のことを思い出して、私は、クッションに顔を、うずめた。


 背中で、甘えて。「まい」なんて、子どもみたいな一人称で。「行きたくない」だの「甘えたの、いつぶりだろ」だの。……挙げ句に、パジャマまで、着せてもらって。


(……はずかしい。……はずかしすぎて、死ねる)


挿絵(By みてみん)


 でも。……いやじゃ、なかった。


 それが、いちばん、こわいところだった。


 ◇


 私は、ずっと、「甘えられない人」だった。


 誰よりも早く来て、遅くまで残って。後輩の面倒を見て、上司のフォローをして。……頼られるのは、うれしい。必要とされるのは、私の、存在価値みたいなもので。


 でも。……その分、私は、誰にも、弱音を吐けなくなっていた。


 しんどい、と言えなくて。助けて、と言えなくて。……いつも、平気な顔をして、一人で、抱えていた。


 なのに。……なんでだろう。あの子の前でだけは。


 ……ふっと、力が、抜けてしまう。


 ◇


 スマホを手に取って、私は、いつもの動画を、開いた。


 葵ちゃん。……最近、こっそり応援している、若い子。ステージの上で、歯を食いしばるみたいに、一生懸命に、歌って、踊る。


 この子のことが、私は、気になって仕方ない。


 ……だって。似ているから。


 本当は、華ちゃんのことが、大好きなくせに。素直になれなくて、ライバルだって、噛みついて。……ツンツンして、意地を張って。


(……あんた、もっと、素直になればいいのに)


 そう思って。……はっと、する。


 ……それ、私のことだ。


 画面の中で、汗をぬぐって笑う、葵ちゃん。……この子に、私は、ずっと、自分を重ねていたんだ。素直になれない、自分を。


 ◇


 ――そして、その夜。私は、ようやく、気づいてしまった。


 あの飲みを、断れなかったのは。海外に、行きたくなかったのは。……ううん。もっと前。夏祭りの日。自分の浴衣を、華ちゃんに貸したとき。……胸が、ちくりと、ざわついたのは。


 ぜんぶ。……ぜんぶ、同じ、理由だった。


(……あ)


 鏡の中の、自分と、目が合う。


(……私。……佐藤くんのこと、好きだったんだ)


 ――ずっと、蓋をしていた気持ちが。事件が終わって、肩の力が抜けた、その隙に。……するり、と、姿を現した。


 好き。……そうか。私、あの子のことが、好きなんだ。


 自覚した途端、どうしようもなく、胸が、いっぱいになった。


 ◇


 ……もちろん、気づいてる。


 あの子と、華ちゃんの、あいだに流れる、あの空気。……あの二人が、ただの隣人同士じゃ、ないってことくらい。


 昔の私なら。……きっと、身を引いていた。「私なんて」「お邪魔だから」って。……いつもみたいに、自分の気持ちに、蓋をして。誰かの背中を、押す側に、回って。


 でも。


 私は、スマホの中の、葵ちゃんを、もう一度、見た。


 素直になれなくて、遠回りして、それでも、まっすぐ前を向いて、必死に食らいついていく、あの子を。


(……私も、あの子みたいに、素直になれたら……)


 ――ううん。


(……あの子より、先に。……私が、素直になってやる)


 いつも、人の背中ばかり、押してきた。……なら、今度は。自分の背中を、私が、押す番だ。


 隠すのは、もう、終わり。


 ……よし。決めた。


 私は、鏡の前に立って。……肩の下まで伸びた、自分の長い髪を、ふと、指で、すくった。


 ――この髪も。甘えられなかった、昔の私も。


 ……ぜんぶ、置いていこう。


 鏡の中の私は。……ずいぶんと、いい顔で、笑っていた。



あの事件の麻衣さん視点を描きました。

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