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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第2章|華編Ⅱ ――ふたりだけの、やり残した青春 ――

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第18話 テスト、受けてみたい

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 縄跳びの翌々日の夜。


 世話係として、華ちゃんの部屋で洗い物をしていると。座卓で頬杖をついていた華ちゃんが、唐突に切り出した。


「ねえ、君。この間の続きなんだけど」


「続き……ああ。“テスト”、でしたっけ」


「そう。私、テスト受けてみたいの。……ほら。中間テスト、とか。期末、とか。ドラマとかで、みんな必死に勉強してるじゃない。あれ」


(……そこに憧れるのか)


 テストなんて、学生の三大苦行のひとつだ。それをキラキラした目で「やってみたい」と言える人は、たぶんこの人くらいだろう。


 でも、と思う。……この人にとっては、その当たり前の苦行すら、手に入らなかったものなんだ。


「……変、かな。テストなんかに憧れるの」


 華ちゃんが、ぽつり、とこぼした。ぶかぶかの部屋着の、ゆるんだ襟から、白い鎖骨が無防備にのぞいている。頬杖をついたまま、どこか遠くを見ていた。


「みんなが当たり前にうんざりしてた、あのいやーな期間がさ。……私には、ちょっとだけまぶしいんだよね」


「……変じゃ、ないです」


 俺は思わず、そう答えていた。


「一夜漬けとか。友達にノート見せてもらうとか。……そういうの、ぜんぶ青春ですから」


「ふうん。……君、たまにいいこと言うね」


 華ちゃんは、ふっ、と口の端をゆるめた。


「わかりました。……じゃあ、どんなテストがいいですか。国語とか、数学とか」


「うーん。……どうせなら」


「どうせなら?」


「なんか、受けたら身になるやつがいいなあ。せっかく勉強するんだし」


 ……ごもっともだ。むしろ、そこらの学生より意識が高い。


 俺は、うーん、と考え込む。身になるテスト。試験。資格――。


 と、そこでひらめいた。


「……あ。じゃあ、運転免許とか、どうですか」


「めんきょ!」


挿絵(By みてみん)


 華ちゃんの目が、ぱっと輝いた。


「いい! なんか、大人っぽい! ……で、それ、どうやって取るの?」


「えっと。教習所に通って、学科と実技の試験を受けて……」


 そこまで言って、俺は、はた、と気づく。


(……あれ。これ、無理じゃないか?)


「……あの、華ちゃん。普通免許って、通いだと一、二ヶ月。合宿でも、二週間はかかるんですけど」


「に、しゅうかん」


 華ちゃんの顔が、みるみる曇っていく。


「……無理だよ、それ。私、そんなにまとまった休み、取れないもん。……二週間もどこ行くのって、事務所になんて説明すんの」


 ――そうだ。この人は現役のトップアイドルだ。スケジュールは分刻み。二週間も姿を消せば、大騒ぎになる。


(……せっかく、乗り気になったのに)


 しゅん、とうなだれる華ちゃん。その、しおれた顔を見ていたら、なんとかしてやりたくなった。


 俺は必死に記憶をたぐる。免許。短期間。最短で取れるやつ。……そうだ。


「……華ちゃん。“原付”なら、どうですか」


「げんつき?」


「原動機付自転車。……あの、小さいバイクです。あれの免許なら、教習所に通わなくてもいいんです。学科試験に受かって、あとは一日講習を受ければ、……最短、半日から一日で取れます」


「――それだ!!」


 がたん、と華ちゃんが、勢いよく立ち上がった。


「半日! それなら、いける! オフの日に、ちゃちゃっと! ……ばいく! 私、ばいく、乗れるようになるの!?」


「の、乗れます、けど。……原付なんで。そんな、大きいのじゃ……」


「いいの! バイクは、バイク! ……ヘルメット被って、風切って。あー、想像したら楽しくなってきた」


 目をきらっきらにさせて、華ちゃんはもう、すっかりその気だった。


 ……さっきまでのしょんぼりは、どこへやら。この切り替えの早さも、この人の魅力のひとつなんだよな。


 と、視界のすみで、ぴこん、と。


【新ミッション:華の“原付免許”合格をサポートせよ】


(……はいはい。わかりましたよ)


 もう、この勝手なお告げにも、だいぶ慣れてきた。


「よし。じゃあ、決まりね」


 華ちゃんは、さっそくスマホで試験の日程を調べ始める。


「……えっと。学科試験。いちばん近いので……六月のなかば、か。うん、それで申し込む」


「は、はやっ」


「善は急げ、でしょ。……で、君」


 華ちゃんが、びし、と俺を指さした。


「勉強、教えてよ。もちろん、君が。世話係、なんだから」


「え、俺が、ですか!?」


「あたりまえ、でしょ。……じゃあ、そうだな」


 彼女は少しだけ考えて。


「水曜の夜。仕事のあと。私、こっちに帰ってこられるから、その日から始めよう。……“居残り勉強”ってやつ、一度してみたかったんだ」


 ――そう言って、いたずらっぽく笑う。


(……居残り勉強、って。それはたぶん、俺が想像してるのと、ちょっと違う気がするけど)


 こうして、俺の世話係業に“家庭教師”という新たな肩書きが、しれっと追加されたのだった。



お読みいただきありがとうございました。

昔は免許は早くても合宿で3週間程度かかっていた気がしますが今も変わらないですかね?



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