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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第2章|華編Ⅱ ――ふたりだけの、やり残した青春 ――

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第17話 縄跳び、跳んでみた

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 よく晴れた、休日の昼下がり。


 人気のまばらな近所の公園。その広場の真ん中で、俺と隆はそれぞれ大縄の端を握って、そわそわとその人を待っていた。


 携帯スピーカーからは、アップテンポの音楽。足元には、俺が徹夜で作ったうさんくさい手作りチラシ。……我ながら、字面だけ見れば完全に不審者の集会だ。


(……本当に来るのか、華ちゃん)


 と、思っていると。


「……ねえ。これ、なんの冗談?」


 声のほうを振り向く。


 そこにいたのは、大きめのキャップに伊達眼鏡、ゆるっとしたパーカー。どこからどう見ても、ふつうの休日の女の子だった。……いや。俺にはわかる。素顔の華ちゃんだ。


(へ、変装してきたか。……賢明だな)


 と、華ちゃんは俺の隣の隆をちらりと見て、ぱちん、と表情を切り替えた。


「はじめまして。今日は、お世話になります」


 にっこりと丁寧に頭を下げる。……第三者の前では、必ずあの“表の顔”になる。もっとも、隆の目には、ただの礼儀正しい女の子にしか映っていないだろうが。


「お、おう。友達の隆だ。……えっと、今日はその、よろしく」


 なぜか隆は、少し緊張した様子でそっぽを向いた。


「で。……この大縄で、私になにをしろと?」


 華ちゃんが、じとっと俺を見る。丁寧な笑顔の、その裏で。目だけが「はやく説明しろ」と言っていた。


「え、えっとですね。これがその、“縄跳びサークル”の体験でして。音楽に合わせて、この縄に飛び込んで跳ぶんです! こう、新入生の気分で!」


「……はあ?」


 完璧に引かれた。当然だ。俺だって、口に出してみて、その意味不明さにめまいがした。


「まあまあ。とにかく一回。……ほら。青春、でしょ?」


 その一言に、華ちゃんの眉が、ぴくり、と動いた。……効いた。


「……一回だけ、だからね」


 俺と隆が息を合わせて、大縄を回し始める。ばさっ、ばさっ、と縄が地面を叩く。


 華ちゃんはしばらく、タイミングを計るように体を揺らして。


 ――えいっ。


 意を決したように、縄の中へ飛び込んだ。


 ぴょん。ぴょん。


 最初はぎこちなく。けれど、二回、三回と跳ぶうちに、だんだんリズムに乗ってくる。


 と――問題は、そこからだった。


 跳ねるたびに、ゆるいパーカーの、その下で。豊かとまではいかないが、確かなふくらみが、ふるん、ふるん、と上下に弾む。着地の反動でパーカーの裾がふわりとめくれ上がって、きゅっと引き締まった白いおへそがちらり。裾からのぞく腰の、なめらかなライン。跳ぶほどに頬は上気して、まとめきれなかったおくれ毛が、汗ばんだ首筋にぴたりと貼りつく。その首筋が、昼の日ざしをしっとりと照り返した。


(――み、見るな、俺! ……いや、でも、跳んでるとこ確認しないと危ないし……! いやいや、それは言い訳だ! 煩悩退散っ、煩悩退散っ……!)


 あらぬ方向を見ながら、必死に縄を回す。隣の隆は、幸い縄に集中していて気づいていない。……もし気づかれていたら、俺の変態っぷりが盛大にバレるところだった。


 だが。


 そんな俺の葛藤なんて、どこ吹く風で。


 華ちゃんは、跳んでいた。


「あははっ……! なにこれ、けっこうむずかしっ……! あっ、また引っかかった!」


 いつのまにか、あの丁寧な猫かぶりは、どこかへ消えて。


 子どもみたいに無邪気に、心の底から楽しそうに。


 跳んで、笑って、また跳んで。


挿絵(By みてみん)



 ――それは、俺が十年追いかけてきた、テレビの作り笑顔でも、素顔の辛口でもない。


 ただの、女の子の顔だった。


 ひとしきり跳んで、さすがに息が上がったのか、華ちゃんが縄から出てしゃがみこむ。


「はぁ、はぁ……。ちょっと、休憩……」


「あ、これ。汗、拭いてください」


 俺があわててタオルを差し出すと、受け取ろうとしたその手が、俺の指にふれた。


 《……ひさしぶりに、こんなに笑ったかも》


 ――聞こえた。


 いつものそっけない断片じゃない。少しだけ長く、少しだけあたたかい本音が。


 手の甲のあの数字も、いつのまにか上がっていた。


【華:55%】


(……お。ちょっとずつ、だけど。……上がってるじゃないか)


 と、同時に。視界のすみで。


【ミッション達成:華に“みんなで体を動かす楽しさ”を体験させた。好感度が上がった】


(……好感度、上がったのか)


 その文字を見て、なぜだか俺の胸まで、じんわりとあたたかくなった。


 華ちゃんは、タオルで顔を拭きながら、ぽつり、と言った。


「……ちょっと、楽しいかも。こういうの」


 照れ隠しみたいにそっぽを向いて。でも、その口元は、まだ笑っていた。


「……ねえ、君」


「はい?」


「次はさ。……“テスト”ってやつ、受けてみたいんだけど」


「……テスト?」


 また、突拍子もないお願いが始まる予感がした。


 だが――さっきの、あの無邪気な笑顔を見てしまったら。


 俺はどうやら、この人の無茶にとことん付き合ってやりたくなっているらしい。




お読みいただきありがとうございました。

くだらないことを楽しめるのが青春だと思っています。

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