第17話 縄跳び、跳んでみた
※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。
よく晴れた、休日の昼下がり。
人気のまばらな近所の公園。その広場の真ん中で、俺と隆はそれぞれ大縄の端を握って、そわそわとその人を待っていた。
携帯スピーカーからは、アップテンポの音楽。足元には、俺が徹夜で作ったうさんくさい手作りチラシ。……我ながら、字面だけ見れば完全に不審者の集会だ。
(……本当に来るのか、華ちゃん)
と、思っていると。
「……ねえ。これ、なんの冗談?」
声のほうを振り向く。
そこにいたのは、大きめのキャップに伊達眼鏡、ゆるっとしたパーカー。どこからどう見ても、ふつうの休日の女の子だった。……いや。俺にはわかる。素顔の華ちゃんだ。
(へ、変装してきたか。……賢明だな)
と、華ちゃんは俺の隣の隆をちらりと見て、ぱちん、と表情を切り替えた。
「はじめまして。今日は、お世話になります」
にっこりと丁寧に頭を下げる。……第三者の前では、必ずあの“表の顔”になる。もっとも、隆の目には、ただの礼儀正しい女の子にしか映っていないだろうが。
「お、おう。友達の隆だ。……えっと、今日はその、よろしく」
なぜか隆は、少し緊張した様子でそっぽを向いた。
「で。……この大縄で、私になにをしろと?」
華ちゃんが、じとっと俺を見る。丁寧な笑顔の、その裏で。目だけが「はやく説明しろ」と言っていた。
「え、えっとですね。これがその、“縄跳びサークル”の体験でして。音楽に合わせて、この縄に飛び込んで跳ぶんです! こう、新入生の気分で!」
「……はあ?」
完璧に引かれた。当然だ。俺だって、口に出してみて、その意味不明さにめまいがした。
「まあまあ。とにかく一回。……ほら。青春、でしょ?」
その一言に、華ちゃんの眉が、ぴくり、と動いた。……効いた。
「……一回だけ、だからね」
俺と隆が息を合わせて、大縄を回し始める。ばさっ、ばさっ、と縄が地面を叩く。
華ちゃんはしばらく、タイミングを計るように体を揺らして。
――えいっ。
意を決したように、縄の中へ飛び込んだ。
ぴょん。ぴょん。
最初はぎこちなく。けれど、二回、三回と跳ぶうちに、だんだんリズムに乗ってくる。
と――問題は、そこからだった。
跳ねるたびに、ゆるいパーカーの、その下で。豊かとまではいかないが、確かなふくらみが、ふるん、ふるん、と上下に弾む。着地の反動でパーカーの裾がふわりとめくれ上がって、きゅっと引き締まった白いおへそがちらり。裾からのぞく腰の、なめらかなライン。跳ぶほどに頬は上気して、まとめきれなかったおくれ毛が、汗ばんだ首筋にぴたりと貼りつく。その首筋が、昼の日ざしをしっとりと照り返した。
(――み、見るな、俺! ……いや、でも、跳んでるとこ確認しないと危ないし……! いやいや、それは言い訳だ! 煩悩退散っ、煩悩退散っ……!)
あらぬ方向を見ながら、必死に縄を回す。隣の隆は、幸い縄に集中していて気づいていない。……もし気づかれていたら、俺の変態っぷりが盛大にバレるところだった。
だが。
そんな俺の葛藤なんて、どこ吹く風で。
華ちゃんは、跳んでいた。
「あははっ……! なにこれ、けっこうむずかしっ……! あっ、また引っかかった!」
いつのまにか、あの丁寧な猫かぶりは、どこかへ消えて。
子どもみたいに無邪気に、心の底から楽しそうに。
跳んで、笑って、また跳んで。
――それは、俺が十年追いかけてきた、テレビの作り笑顔でも、素顔の辛口でもない。
ただの、女の子の顔だった。
ひとしきり跳んで、さすがに息が上がったのか、華ちゃんが縄から出てしゃがみこむ。
「はぁ、はぁ……。ちょっと、休憩……」
「あ、これ。汗、拭いてください」
俺があわててタオルを差し出すと、受け取ろうとしたその手が、俺の指にふれた。
《……ひさしぶりに、こんなに笑ったかも》
――聞こえた。
いつものそっけない断片じゃない。少しだけ長く、少しだけあたたかい本音が。
手の甲のあの数字も、いつのまにか上がっていた。
【華:55%】
(……お。ちょっとずつ、だけど。……上がってるじゃないか)
と、同時に。視界のすみで。
【ミッション達成:華に“みんなで体を動かす楽しさ”を体験させた。好感度が上がった】
(……好感度、上がったのか)
その文字を見て、なぜだか俺の胸まで、じんわりとあたたかくなった。
華ちゃんは、タオルで顔を拭きながら、ぽつり、と言った。
「……ちょっと、楽しいかも。こういうの」
照れ隠しみたいにそっぽを向いて。でも、その口元は、まだ笑っていた。
「……ねえ、君」
「はい?」
「次はさ。……“テスト”ってやつ、受けてみたいんだけど」
「……テスト?」
また、突拍子もないお願いが始まる予感がした。
だが――さっきの、あの無邪気な笑顔を見てしまったら。
俺はどうやら、この人の無茶にとことん付き合ってやりたくなっているらしい。
お読みいただきありがとうございました。
くだらないことを楽しめるのが青春だと思っています。




