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推し活のために退寮したら、隣の部屋(103号室)に「推し(本人)」が住んでいた。 ~推しすぎたせいか、心の声まで聞こえます~  作者: しまじろう
第2章|華編Ⅱ ――ふたりだけの、やり残した青春 ――

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第16話 作戦名・なわとび大作戦

※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。

 結論から言おう。俺は完全に、詰んでいた。


 華ちゃんに命じられた、無理難題。「私を、サークルに勧誘しなさい」。


挿絵(By みてみん)


 視界のすみでは、あのふざけたお告げが、相変わらず点滅している。


【新ミッション:華を“サークル”に勧誘し、青春を体験させよ】


(勧誘、勧誘って……。そもそも、勧誘するためのサークルが、ないんだが……!)


 そもそもサークル勧誘とは、なんだったか。俺は必死に、大学時代の記憶を掘り返す。


(……確か、入学したとき。駅前でティッシュを山ほど押しつけられたっけ。あと……そう、ラグビー部だ。なぜか、通りすがりのひょろっとした新入生をいきなり胴上げして、そのまま部室へ連れ去っていった)


(……いや。あれは勧誘というより、ほとんど拉致だろ)


 思い出せば思い出すほど、参考にならない。だいたい勧誘というのは、大勢の新入生を奪い合うものだ。たった一人を、それも正体を隠したアイドルを、“サークルに入れる”なんて。そんな行事、教科書のどこにも載っていない。


 何日うんうん唸っても、答えは出ない。こうなったら、一人で抱えていてもしかたがない。


 俺は、こういうときの最終手段に頼ることにした。


 ◇


 週末の、ファミレス。


 向かいの席で、ドリンクバーのコーラをずるずるとすすっているのは、俺の腐れ縁の親友――隆だった。


「――で? その、“ある女性をサークルに勧誘したい”ってのは。どういうこっちゃ」


「……それが、説明が難しくてな」


 まさか、「隣に住んでる、正体を隠したトップアイドルを、青春やり直しのためにサークルに入れたい」なんて、言えるわけがない。


「とにかく。ある女性を、その“サークル活動”に誘いたいんだ。でも、そいつのできることが、あんまりなくて」


「はあ? なんだそれ。……お前、ついに女、できたのか?」


「ち、違う! そういうんじゃない!」


「ふうん。ま、いいや。で、その子のできることって?」


 そこだ。そこが問題なのだ。


 俺は腕を組んでうなる。……あの女性は、小学生までしかまともに学校へ通っていない。だから、部活もスポーツも文化系も、ほとんど経験がない。


 だが。俺には、十年分の知識がある。


 華ちゃんの好きなもの。得意なもの。昔のブログの隅っこの一文まで、全部この頭に入っている。


 俺は、ばっ、と顔を上げた。


「……わかったぞ。あの人の好きなもの。それは――」


 どん。


「――縄跳びだ!」


「…………は?」


 隆のコーラをすする音が、止まった。


「なわ、とび」


「そうだ。縄跳び。あの人、昔から縄跳びが好きなんだ。それだけは、確かな情報がある」


「……お前、その情報。どこで仕入れたんだよ」


「十年分の、愛だ」


「こわ」


 隆が、本気で一歩引いた。


 だが、俺の頭の中では、もうひとつの光明が見え始めていた。


「縄跳び……縄跳び……。そうだ。ただ跳ぶだけじゃ、サークルっぽくないよな。……音楽に合わせて、みんなで大きな縄を回して。ダブルダッチみたいな、ああいうのなら――」


「サークルっぽい、ってか」


「そうだ。運動系サークルのパフォーマンス、って感じだろ。音楽をガンガンかけて、二本の縄をシャカシャカ回して、その真ん中に飛び込んで跳ぶ。……うん。我ながら、天才の思いつきだ」


「……お前、さっきから目がキラッキラしてて。ちょっと、こわいぞ」


 隆は、ストローをくわえたまま、じとっと俺を見る。


「で。その天才の思いつきを実現するのに。……なんで、この俺が駆り出されるわけ?」


「そこだ! なあ、隆。頼む。……縄を回すの、手伝ってくれ。二人いれば、大縄が回せる。ダブルダッチなら、なおさら人手がいるんだ」


 俺は、テーブルに額をこすりつける勢いで頭を下げた。


「はあ!?」


 隆が、素っ頓狂な声を上げる。


「意味がわからん。……女を縄跳びに勧誘するのに、なんで俺が縄を回すんだよ」


「そこをなんとか! この通りだ!」


「……お前さ」


 隆は、ため息をひとつ。それから、にやり、と笑った。


「まあ、いいや。面白そうだし。乗ってやるよ。……ただし」


「た、ただし?」


「今度、その“ある女性”とやらの話。ぜーんぶ聞かせろよ?」


(……それだけは、勘弁してくれ)


 こうして、世にも間抜けな作戦が、ひとまず動き出した。


 題して――“なわとび大作戦”。


 道具は、大縄と携帯スピーカー。それに、それっぽく見せるための手作りのチラシ。舞台は、近所の昼間の公園。


 あとは当日、「サークルの体験会」とでも称して、華ちゃんを呼び出して、実際に跳んでもらうだけだ。


(……本当に、こんなのでいいのか?)


 一抹の――いや、盛大な不安を抱えたまま。


 俺の人生初の“サークル勧誘”は、いよいよ本番を迎えることになる。



お読みいただきありがとうございました

今回初登場の男友達「隆(たかし)」

急な頼みを受けてくれるいいやつなんです。

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