第16話 作戦名・なわとび大作戦
※本作はフィクションです。挿絵はすべて自作(AIで生成)です。
結論から言おう。俺は完全に、詰んでいた。
華ちゃんに命じられた、無理難題。「私を、サークルに勧誘しなさい」。
視界のすみでは、あのふざけたお告げが、相変わらず点滅している。
【新ミッション:華を“サークル”に勧誘し、青春を体験させよ】
(勧誘、勧誘って……。そもそも、勧誘するためのサークルが、ないんだが……!)
そもそもサークル勧誘とは、なんだったか。俺は必死に、大学時代の記憶を掘り返す。
(……確か、入学したとき。駅前でティッシュを山ほど押しつけられたっけ。あと……そう、ラグビー部だ。なぜか、通りすがりのひょろっとした新入生をいきなり胴上げして、そのまま部室へ連れ去っていった)
(……いや。あれは勧誘というより、ほとんど拉致だろ)
思い出せば思い出すほど、参考にならない。だいたい勧誘というのは、大勢の新入生を奪い合うものだ。たった一人を、それも正体を隠したアイドルを、“サークルに入れる”なんて。そんな行事、教科書のどこにも載っていない。
何日うんうん唸っても、答えは出ない。こうなったら、一人で抱えていてもしかたがない。
俺は、こういうときの最終手段に頼ることにした。
◇
週末の、ファミレス。
向かいの席で、ドリンクバーのコーラをずるずるとすすっているのは、俺の腐れ縁の親友――隆だった。
「――で? その、“ある女性をサークルに勧誘したい”ってのは。どういうこっちゃ」
「……それが、説明が難しくてな」
まさか、「隣に住んでる、正体を隠したトップアイドルを、青春やり直しのためにサークルに入れたい」なんて、言えるわけがない。
「とにかく。ある女性を、その“サークル活動”に誘いたいんだ。でも、そいつのできることが、あんまりなくて」
「はあ? なんだそれ。……お前、ついに女、できたのか?」
「ち、違う! そういうんじゃない!」
「ふうん。ま、いいや。で、その子のできることって?」
そこだ。そこが問題なのだ。
俺は腕を組んでうなる。……あの女性は、小学生までしかまともに学校へ通っていない。だから、部活もスポーツも文化系も、ほとんど経験がない。
だが。俺には、十年分の知識がある。
華ちゃんの好きなもの。得意なもの。昔のブログの隅っこの一文まで、全部この頭に入っている。
俺は、ばっ、と顔を上げた。
「……わかったぞ。あの人の好きなもの。それは――」
どん。
「――縄跳びだ!」
「…………は?」
隆のコーラをすする音が、止まった。
「なわ、とび」
「そうだ。縄跳び。あの人、昔から縄跳びが好きなんだ。それだけは、確かな情報がある」
「……お前、その情報。どこで仕入れたんだよ」
「十年分の、愛だ」
「こわ」
隆が、本気で一歩引いた。
だが、俺の頭の中では、もうひとつの光明が見え始めていた。
「縄跳び……縄跳び……。そうだ。ただ跳ぶだけじゃ、サークルっぽくないよな。……音楽に合わせて、みんなで大きな縄を回して。ダブルダッチみたいな、ああいうのなら――」
「サークルっぽい、ってか」
「そうだ。運動系サークルのパフォーマンス、って感じだろ。音楽をガンガンかけて、二本の縄をシャカシャカ回して、その真ん中に飛び込んで跳ぶ。……うん。我ながら、天才の思いつきだ」
「……お前、さっきから目がキラッキラしてて。ちょっと、こわいぞ」
隆は、ストローをくわえたまま、じとっと俺を見る。
「で。その天才の思いつきを実現するのに。……なんで、この俺が駆り出されるわけ?」
「そこだ! なあ、隆。頼む。……縄を回すの、手伝ってくれ。二人いれば、大縄が回せる。ダブルダッチなら、なおさら人手がいるんだ」
俺は、テーブルに額をこすりつける勢いで頭を下げた。
「はあ!?」
隆が、素っ頓狂な声を上げる。
「意味がわからん。……女を縄跳びに勧誘するのに、なんで俺が縄を回すんだよ」
「そこをなんとか! この通りだ!」
「……お前さ」
隆は、ため息をひとつ。それから、にやり、と笑った。
「まあ、いいや。面白そうだし。乗ってやるよ。……ただし」
「た、ただし?」
「今度、その“ある女性”とやらの話。ぜーんぶ聞かせろよ?」
(……それだけは、勘弁してくれ)
こうして、世にも間抜けな作戦が、ひとまず動き出した。
題して――“なわとび大作戦”。
道具は、大縄と携帯スピーカー。それに、それっぽく見せるための手作りのチラシ。舞台は、近所の昼間の公園。
あとは当日、「サークルの体験会」とでも称して、華ちゃんを呼び出して、実際に跳んでもらうだけだ。
(……本当に、こんなのでいいのか?)
一抹の――いや、盛大な不安を抱えたまま。
俺の人生初の“サークル勧誘”は、いよいよ本番を迎えることになる。
お読みいただきありがとうございました
今回初登場の男友達「隆」
急な頼みを受けてくれるいいやつなんです。




