第7話 職業。
九条 凪 16歳 Lv1
職業 魔法見習い
凪がそう口にした直後、俺の目の前には彼女の名前や年齢、レベル、そして職業らしきものが記された謎の文字が浮かび上がっていた。
実体があるわけでもなく、空中に半透明の文字が浮かんでいるようにしか見えない。それでも俺の目にははっきりと読めていて、何度瞬きをしても消える様子はなかった。
「これが‥‥ステータスってことか。じゃあ、つまり、凪の職業が魔法見習いだったから、さっきの水の玉を出せたってことか?」
「う、うん、そうだと思う。」
凪自身もまだ何が起きているのか理解し切れていないようで、自信なさそうに頷く。
だが、俺はそれを聞いて別のことを考えていた。
もしかすると、この力を使えば俺達でも外を徘徊しているあの化け物を殺せるのではないか、と。
銃声すら聞こえなくなった今、警察や自衛隊がどうなっているのかも分からない。いつ助けが来るのかも分からない以上、俺達自身に戦う力があるかどうかは、これから生き残れるかを左右するほど重要なことだった。
「水の玉以外は出せるのか?それこそ、炎とか風とかは出せるか?」
「わ、分かった。ちょっとやってみるね。」
そう言うと、凪はベッドの上で姿勢を正し、自分の手のひらをじっと見つめた。
先ほど水の玉を生み出した時の感覚を思い出そうとしているのか、眉間に皺を寄せながら手に力を籠める。すると数秒もしないうちに、何もなかった手のひらの中心に小さな火が灯り、それがゆっくりと球体へ形を変えていった。
「おぉ‥‥」
最初は蝋燭の火と大して変わらないほど小さかったが、凪が集中を続けるにつれて少しずつ膨らんでいき、やがて片手に収まるほどの火の玉へと成長する。
ただ、火の玉が大きくなるのとは反対に、凪の表情からは余裕が消えていった。
額には汗が滲み、肩が小刻みに上下し始める。それでも凪は火を維持しようとしていたが、しばらくすると限界を迎えたのか、火の玉は空気に溶けるように掻き消えた。
「‥‥はぁ‥はぁ‥‥今、この大きさが限界かな。」
凪はそう言いながら荒く呼吸を繰り返し、そのまま力が抜けたようにベッドへ背中を預けた。
どうやら魔法は好き勝手に使える便利な力というわけではないらしい。水と炎、たった二回の魔法を使っただけで、凪の体力はほとんど限界まで削られているようだった。
凪は俺と違って規則正しい生活を送っているし、学校でも部活をサボることなく続けている。そんな凪がたった二回魔法を使っただけでここまで息を切らしているということは、魔法を使う行為そのものが相当な負担になるのだろう。
「ごめんね、お兄ちゃん。私はもう限界みたい‥」
「いや、十分だ。無理して続けなくていいから休め。」
「うん‥」
返事をした直後には、凪の瞼がゆっくりと閉じていく。
相当疲れていたのだろう。しばらくすると小さな寝息が聞こえ始めたので、俺は眠ってしまった凪の頭を軽く撫で、身体が冷えないように布団を掛けてから静かに部屋を出た。
そして自分の部屋へ戻って来ると、俺はベッドに腰を下ろし、先ほど凪がやっていたことを思い返す。
凪には魔法見習いという職業があり、実際に水や炎を何もない場所から生み出すことが出来た。
なら、俺にも何かあるはずだ。
「ステータスオープン」
凪が魔法見習いという職業を持っていたように、あの動画で化け物と戦っていた人達も、それぞれ戦うための職業を持っていたのかもしれない。
そして、それは俺も例外ではないはずだ。
剣士でも魔法使いでも何でもいい。
外にいる化け物と戦えるだけの力さえあれば、食料が尽きるのをただ家の中で待ち続けるしかなかった今の状況を変えられる。両親を探しに行くことだって出来るかもしれない。
そんな僅かな期待に縋りながら、俺は目の前に浮かび上がった自分のステータスへ視線を向けた。
九条 颯 18歳 Lv1
職業 ポーション使い
「‥ポーション使い??」
何度見直しても、そこに書かれている文字が変わることはない。
剣士でもなければ魔法使いでもない。戦える力を期待していた俺の目の前に表示されていたのは、聞いたことすらない『ポーション使い』という謎の職業だった。
こうして俺は、この世界が滅茶苦茶になった状況で、どう考えても戦闘向きとは思えない謎の職業を引いてしまうのであった。




