第6話 戦う為の力。
世界は塔に敗北し、その裏で九条兄妹は家へ閉じこもったまま、外の様子を窺うことしか出来ずに三日間を過ごしていた。
はぁ‥‥こんなことが始まって、もう三日が経った。初日と二日目は昼夜を問わず銃声や爆発音が絶え間なく鳴り響いていたというのに、今ではそれすら聞こえなくなり、静まり返った街がかえって不気味に感じられる。
そして初日に送った両親へのメッセージも、未だに既読にすらならず、無事なのかどうかさえ分からないままだ。
時間だけが無情に過ぎていくせいで、スマホの充電も限界へ近付き、充電しようにも停電によって電気は既に失われている。
頼みの綱は、この事態に備えて満充電にしておいたモバイルバッテリーが一台だけで、それも使い切れば外との繋がりは完全に断たれてしまう。
そして悪い事は、電気だけではなく‥‥もっと深刻なのは、食料と水の問題だった。
幸いにも水道はまだ生きているが、家に置いてあった食料は底が見え始め、二人で一日一食に抑えても残りは決して多くない。空腹で焼けるような胃を水で誤魔化しながら何とか耐えているものの、それも水が止まれば意味を成さず、口へ入れられる物は本当になくなってしまう。
そうなる前に外へ出て食料を集めるしかない。
しかし、一歩外へ踏み出せば、あの動画に映っていた化け物がどこかに潜んでいるかもしれないと思うと、玄関へ向かう勇気すら湧いてこなかった。
置かれている状況は、俺が想像していた以上に最悪だった。
「‥‥限界かも知れない。」
張り詰めていた糸が切れたように本音が口を突いて出るが、俺はすぐに首を横へ振り、その弱音を無理やり心の奥へ押し込める。
「‥‥はぁ、俺がしっかりするんだ。」
今は俺しかいない。凪を守れるのも、支えられるのも俺だけなんだから。
そう自分へ言い聞かせるように呟くと、力が抜けた身体をベッドへ預け、目を閉じて何も考えないようにしていた、その時だった。
「きゃーー!!」
家中に響くほどの凪の悲鳴が耳へ飛び込み、全身の血が一瞬で沸騰したように駆け巡る。
俺はベッドから飛び起きると部屋を飛び出し、廊下を駆け抜けて凪の部屋へ向かい、そのまま勢いよく扉を開け放った。
「凪!!どうした!!」
叫びながら部屋へ飛び込んだ俺は、その瞬間、自分の目に映った光景を信じることが出来なかった。
「お兄ちゃん!!」
涙を浮かべる凪の姿は確かにそこにあった。しかし、俺の視線を奪ったのはその涙ではない。
凪の手のひらの上では、小さな水の塊が重力を無視するように静かに宙へ浮かび、ゆらゆらと揺れながら青く透き通った輝きを放っていたのだ。
◇
「どうだ?その‥‥少しは落ち着いたか?」
「‥‥うん。」
気を取り戻した俺は、凪が生み出していた水の塊を慌ててバケツへ移し、泣きじゃくる凪の背中を優しくさすりながら頭を撫で続けた。そのおかげか、乱れていた呼吸も少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「それで‥‥さっきのは一体何だったん?何をしてああなったんだ?」
「それが、私も何か調べようと思ってSNSを見ていたら、ある情報を見つけたの。」
そう言って凪はスマホの画面を俺へ向けた。
そこに映っていたのは、様々な武器を手にした男達が、外であの化け物と戦っている映像だった。
だが、男達は軍人や警察のような特殊な人間には見えず、どう見ても普通の一般人だった。それなのに、その動きは人間離れしている。
銃弾を浴びても倒れない肉体を持ち、硬いコンクリートを拳一つで砕く怪力を持つ化け物の相手に、真正面から肉弾戦を繰り広げている。
こんな連中が、本当に俺達と同じ人間なはずがない。
胸の奥で暴れ出す動揺をどうにか押さえ込みながら、俺は凪へ問い掛けた。
「この映像と、凪のさっきの水がどう繋がっているんだ?」
「実はさぁ‥‥前に変な夢を見たっていう話をしたのを覚えている?」
「あぁ、凪が部活へ行く前に話してた奴だろ?」
「うん、そう。実はあの夢を見ていたのは私達だけじゃなくて、他の人達も見ていたの。しかも、それなりに大勢の人がね。
それで、その夢の途中に――
『試練を乗り越えるための力を与えられ、その力を使い、無事に全ての"塔"を踏破すれば、人類は試練を乗り越えることができます』
――って言われたことに気付いた人がいて、その人が『ステータスオープン』って言ったら、自分の力を見ることが出来るって書いていたから、私も試してみたら‥‥」
そこまで話すと、凪は俺にも確認させるように小さく息を吸い込み、
「ステータスオープン」
と静かに呟き、俺へその画面を見せてきた。




