第23話 試行錯誤。
凪はお風呂場で自分の魔法の訓練を、そして俺は自分の部屋に戻り、机に向かってポーションの研究を始める。
まず、今日いくつかのポーションを作ったことで新しく分かったことがある。それは、前回のコンビニでの戦いを経てレベルが2になったことで、俺の能力にも少しではあるが確かな変化が起きていたということだ。
その変化というのが、マックスのエネルギー容量が増えていたことだった。
全てのエネルギーを使って作れるポーションの数は種類や量によって変わるのだが、以前ならエネルギーを半分まで回復させるポーションを一本作るだけで、俺自身のエネルギーも半分近く消費していた。
それが今では、大まかな感覚ではあるものの、全体の3分の1ほどの消費で同じポーションを作れるようになっている。
つまり、3分の1のエネルギーを消費すれば、半回復のポーションを一本作ることが出来るということだ。
単純に考えれば、全てのエネルギーを回復させるだけの量を作ったとしても消費するのは3分の2で済むことになり、以前とは明らかに効率が違っていた。
これはかなり大きな進歩と言っていい。
今までは全てのエネルギーを使い切ってしまえば、その後は自然に回復するまで待つしかなかったが、今なら全てを使い切ることなく、それ以上のエネルギーをポーションによって回復させることが出来る。
作れば作るほど減っていくだけだった以前と違い、少なくともエネルギー回復ポーションに関しては余裕を残した状態で生み出せるようになったわけだ。
そして、昨日と今日の検証を通して分かったことはもう1つある。それは、レベルを上げれば俺の力もちゃんと成長するということだった。
正直なところ、レベルを上げても能力そのものが全く成長しないのであれば、危険を冒してまで化け物を倒す必要はないと思っていた。
経験値やレベルという数字だけが増えたところで、それが何の役にも立たないのなら命を懸ける価値などないからだ。
だが、実際にはレベルが上がったことでエネルギーの最大量が増え、以前よりも少ない負担でポーションを作れるようになった。
そう考えれば、今後は安全を確保しながらレベル上げを優先していくのも悪くないだろう。
――以上が、昨日と今日で分かったことだ。
そして、ここからが本題になる。
俺は机の上に置いていたノートへ視線を落とすと、ペンを手に取り、今から新しいポーション”強化ポーション”の制作に取り掛かることにした。
強化と言っても、何か複雑な効果を考えているわけではない。単純に自分の運動能力‥‥いや、身体能力そのものを一時的に引き上げる為のポーションを作れないかと考えている。
もしもそんなポーションを作ることが出来れば、外で化け物と遭遇した時の生存率は間違いなく上がる。
俺自身が化け物を倒せるほど強くならなくても、攻撃を避けながら注意を引き付けることさえ出来れば、その間に凪が魔法を放つ為の時間を稼ぐことが出来るからだ。
凪の魔法には威力がある。それなら俺に必要なのは、無理に攻撃力を手に入れることではなく、その威力を確実に叩き込める状況を作る為の力なのかもしれない。
だが、問題になるのは、その強化をどういう形でイメージするかだった。
俺の能力は、頭の中で考えたものなら何でも好き勝手にポーションとして生み出せるほど便利なものではない。
実際、エネルギー回復ポーションを作った時も最初から成功したわけではなく、いくつもの考え方を試し、その中から能力が反応するイメージを探し出している。
今回も同じように、俺の中にある曖昧な『強化』というものを、能力が認識出来る形にまで落とし込まなければならない。
「‥‥まぁ、考えてるだけじゃ分からないか」
小さく呟きながらペンを動かし、思い付いたものから順番にノートへ書き出していく。こればかりは色々なパターンを実際に試して、その中から正解を見つけていくしかないだろう。
エネルギー回復ポーションの時と同じようにな。
そうして考えをまとめた俺は、ひとまず思い付いた4つの候補をノートに書き出した。
パターン1
『自分の運動能力が大幅に上がった時の姿をイメージする。具体的には、アメコミに登場する某蜘蛛のヒーローのように、人間離れした身体能力で動き回っている自分の姿を想像する。』
パターン2
『強化というイメージを具体的に持つ為に、〇ャンプの漫画に出てくるような、全身に力を溜めて身体能力を爆発的に引き上げる姿を想像する。』
パターン3
『余計なことは考えず、シンプルに自分の身体がムキムキになり、筋力そのものが大幅に上がった姿を想像する。』
パターン4
『自分自身ではなくポーションに重きを置き、飲んだ人間を強くする効果が液体の中に詰まっていると、出来る限りシンプルにイメージする。』
ひとまず思い付いたのは、この4パターンだった。
俺は一つずつ頭の中に出来る限り鮮明な姿を思い浮かべながら、手のひらへ意識を集中させてポーションを生み出そうとする。だが、何度試しても手の中には何も現れず、あの独特な感覚すら返ってこなかった。
少しイメージを変えてもう一度、それでも駄目なら次のパターンへと切り替え、同じことを何度も繰り返していく。
「‥‥駄目か」
結局、4つ全てを試し終えても結果は同じだった。
失敗。
それも、効果が違うポーションが出来たというわけではなく、そもそも一本のポーションすら生み出すことが出来ない完全な失敗だった。




