第14話 その目にあるのは明確な怒り。
――翌日。
今日が検証の最終日だ。俺の目の前には、これまで使っていたペットボトルのキャップではなく、普段なら飲み物を入れるために使う普通のコップが一つ置かれている。
昨日の検証ではポーションそのものの生成には成功したものの、凪から量が足りないのではないかと指摘された。その言葉を受けて、今回はこれまでの何倍もの量を一度に生成するつもりだ。
これで無理なら、少なくとも今の俺にはエネルギーを回復させるポーションを作れないということになる。
「‥‥今日が最終日か。いつ以来だろうな、こんなにも緊張するのは。」
目の前のコップを見つめながら呟くと、隣にいた凪が不安を吹き飛ばすような明るい声を上げた。
「大丈夫だよ。きっと出来る!!」
その言葉に俺は小さく頷く。凪に励まされたからといって成功する保証が生まれるわけではないが、それでも張り詰めていた気持ちは僅かに軽くなった。
「ふぅ~~それじゃあ始めるぞ。」
大きく息を吐いて肩から余計な力を抜き、俺は目の前のコップへ意識を集中させながら、これが最後になるかもしれない検証を始めた。
イメージするのは、昨日の検証でポーションの生成に成功したパターン1と3のどちらかになる。どちらも生成そのものには成功している以上、あとは俺の求めている効果に近い方を選ぶしかなく、この選択はほとんど賭けに近い。
俺は迷った末に全ての願いを懸け、パターン3を選択した。
頭の中に思い浮かべるのは、激しい運動をした後の疲れ切った体が徐々に元気を取り戻していく感覚だ。重くなった手足から疲労が抜け、荒れていた呼吸が整い、失われた体力が内側から満たされていく様子を出来る限り具体的にイメージしながら力を行使する。
すると、そのイメージに応えるように力は正常に働き、空だったコップの中に液体が少しずつ生み出されていった。やがてコップの半分ほどまでポーションが満たされ、生成そのものは問題なく成功する。
だが、その結果‥‥一気に大量のエネルギーを消費した反動で、体中から力がスッと抜け落ちた。
「っ‥‥。」
膝に力が入らなくなり、その場に立っていることさえ出来ず、俺は崩れるように床へと座り込んでしまう。
「お兄ちゃん!!大丈夫?」
すぐに凪が血相を変えて駆け寄り、床に座り込んだ俺の顔を心配そうに覗き込んできた。
「あ、あぁ、大丈夫。少しよろけただけだ。それより、ポーションを持ってきてくれるか?俺が飲む。」
「え、うん‥‥分かった。」
凪は俺とコップを交互に見ながら少し戸惑った様子を見せたが、今回は止めることなく言われた通りにコップを手に取ると、液体を零さないよう両手で持って俺へと渡してくれる。
それを受け取った瞬間、急に指先へ力が入った。
「ゴクン。」
緊張で喉が鳴り、コップを持つ手にも自然と力が入る。
これで成功か失敗か、全てが決まる。成功していれば、今まさに失ったばかりのエネルギーが回復するはずで、失敗していれば何も変化は起こらない。
大丈夫だ‥‥成功するに決まってる。
何の根拠もない言葉を頭の中で繰り返しながら、俺は覚悟を決めてコップを傾けると、中に入っていたポーションを一気に口へと流し込み、そのままゴクンと飲み込んだ。
直後、体の内側から何かが広がっていくような感覚と共に、俺の体が青い光を僅かに放った。
「‥‥っ。」
さっきまで鉛でも詰め込まれたように重かった手足から怠さが消え、力の抜けていた指先にも感覚が戻ってくる。試しに拳を何度か握ってみても力はしっかりと入り、ポーションを作る前とほとんど変わらない状態まで戻っていた。
そこでようやく、俺は自分が成功したのだと確信した。
「ハハ‥‥よっしゃーー!!!」
思わず声を張り上げながら勢いよく立ち上がると、俺の様子を間近で見ていた凪も成功したことに気付いたらしい。さっきまで心配そうにしていた表情が一瞬で明るくなり、俺につられるようにその場で飛び跳ねて喜び始めた。
「凪!!凪のお陰だ!!凪がいなかったら絶対に出来なかった!!」
「そんなことないよ!!お兄ちゃんが頑張ったから出来たんだよ!!」
俺が凪のお陰だと言えば、凪は俺が頑張ったからだと言い返してくる。結局、どちらも譲ることなく、兄妹揃って互いのお陰だと言い合いながら、何日も続けてきた検証がようやく実を結んだ喜びを分かち合った。
そうして俺は、ついに「エネルギーを回復させるポーション」の生成に成功した。
これで、外へ行くために必要だと考えていた準備は整った。戦闘そのものは凪に任せることになるが、俺には怪我を治すポーションと、消耗したエネルギーを回復させるポーションがある。
俺自身が直接化け物と戦えなくても、怪我とエネルギーの回復に徹することで凪を援護し、少しでも安全に戦える状況を作ることは出来るはずだ。
窓の外へ視線を向けると、数日前まで当たり前だった日常の面影はなく、建物の間に広がる静まり返った街が目に入った。その光景を見ているだけで、これまで押し殺していた感情が腹の底から込み上げ、自然と拳に力が入っていく。
『化け物共‥‥待っていろよ。お前達は絶対に許さないからな!!』
家族の安否すら分からず、俺達の日常を滅茶苦茶にした存在への怒りを胸に、俺は窓の向こうに広がる街を強く睨みつけるのであった。




